簡易役場での出来事
太陽の光が窓から降り注ぐ頃、一番に目を覚ましたのはガウンテだった。
「ほら、起きろ朝になった」ガウンテはシーラッカを揺り動かすが、まだ彼は夢の中にいた。
「必殺、投げキッス攻撃」どうやら狩りの夢を見ているらしい。
ドアを隔てて隣の部屋ではイリヤが深い眠りについている。続いて起きたのは、フーガだった。メガネをかけ周囲を見回す。時計回りに回ったのか、寝た時とは逆の方向を向いているイリヤを揺すって起こす。
「わ、わたしのワインが──っ」夢でも飲んでいたらしい。
「もう一杯飲みたいから寝よう」二度寝にチャレンジするイリヤだった。
「おい、朝飯に遅れるぞ」その言葉にシーラッカが目を覚ます。続いてイリヤも夢の世界から帰還した。
「朝一番に簡易役所に行って、狩りの清算をしていきましょう」眼鏡をはずして顔を洗うとフーガが提案した。
「役場の開始時刻まで1時間ぐらいある。それまでどこかで時間を潰さなきゃならない」ガウンテはザンバラ髪に、くしを入れると、丁寧にとかしながら話し続ける。せっかく、くしを入れても剛毛のせいで跳ね上がってしまった。
「時間を潰せる茶店でも探したいわね」のんきなことを言ってるのはイリヤだ。
「これからの計画を立てないと」真剣な目つきでシーラッカが、イリヤをさえぎる。
「だから、計画を茶店でゆっくりと、ね」イリヤはシーラッカの緊張をほぐすように微笑みかけた。
「茶店もいいが、村を散策するのも悪くないだろう」ガウンテの鶴の一声で散歩で時間を潰すことになった。
「これから歩かなきゃならないのに、また歩くの?」頬を膨らませて不満そうな表情を浮かべるイリヤ。
「散歩だからゆっくりでいいんですよ」フーガが、明るい声で返す。
朝食は、パンと目玉焼きとソーセージとレタスを炒めたものが出た。ドリンクは搾りたてのミルク。村にある牧場のヤギの乳を搾ったのだという。
「食後すぐ歩くってのが信じられない」イリヤはまだ文句をいっている。
「食休みぐらいはするし、出かける前に用は済ませとけ」
「そうだ忘れてた。ネルシェラに回復魔法をかけてやって」
「へいへい。イリヤは鳥かごの前に行き、回復魔法をかけた」
ネルシェラが魔法をかけられた後にウインクしたかのように見えた。
宿に荷物を置き、宿屋の主人に少し出かけてくると伝えると一行は村を散策した。
「やっぱり村って、何もないわね」
「いや、農民さんの働きで俺たちが食べられるんだ。感謝感謝」
「あんなところにヤギがいるよ」シーラッカが遠くの方にある牧場を見つけた。
一行は、柵の近くへ行き、ヤギを見る。ヤギは口をゆっくりと動かしながら、のん気に鳴き声を上げている。
「紙、食べるかな」シーラッカが荷物を探し始めた。
「紙は貴重品だからあげられないし、腹でも壊されたら困るから餌やりは禁止だ」
ふと見ると、牧童のおじさんがこちらに向かってくる。頭を丸刈りにしていかつい顔をしていた。
「なでるぐらいならいいが、餌をやるのはダメだ」
「大丈夫です。よく伝えておきましたから」
ここで、シーラッカがヤギをなでていてミニマム攻撃にならないか? と思うかもしれないが、本人が攻撃するという意思を持たなければ、実害はない。
彼らはしばらく動物とのふれあいを楽しんだ。ガウンテは村にある時計塔を見て、残り時間を計っている。そろそろ潮時だと思って、他の仲間に声をかけた。
「それでは、そろそろおいとまします」
「さようなら、牧童のおじさん」
「さようなら皆さん」
一行は別れを告げると村の中心部に戻って来た。
「あっ、こんな所に隠れ家的な茶店発見」イリヤは目ざとく喫茶店を見つけた。一見普通の民家のようにも見えるので、最初に通った時は気づかなかったのだ。
「ここで時間まで作戦会議しよっか」と袖を引っ張って茶店に誘う。
「残念ながら、そろそろ役場が始まる頃だと思う」ガウンテの足は反対の方向へ向かっていく。
宿屋に戻ると、宿泊費を払い、ネルシュラをもらい受けて、簡易役場へと歩いた。
扉を開けて中に入ると、閑散としていたので、並ばずに窓口に行くことができた。
「シーラッカさん、猪を退治した後に、猛禽類もハンティングしてしまったんですよね」
「その鷹ならここに」フーガが止まり木につかまっているネルシェラを差し出す。
「ああ、ケガをしているけど手当はしていますね。それなら問題はないですが……」
「良かった」喜ぶシーラッカたちだった。
「ちょっと待ってください。足に鑑札がついていますね。飼い鷹じゃないでしょうか」
「え、だとしたらどうなります」ガウンテが窓口の人に尋ねる。
「ちょっと今、照合してみます」窓口の人は、何かを叫ぶと、空中にたくさんの光る札が散らばった。それを一つ一つめくっていく。
「ありました。キューザ・ガウスという名前で、今牧童をしています」
「さっきの男か」
「だとすると、お手数ですが、持ち主と交渉して治療費などを払わなければならないかもしれません」
窓口の女性が、すまなそうに一向に告げた。魔法で連絡はするが、彼がすぐ来るとは限らない。
「ややこしくなってきたわね」イリヤが不満そうにいう。
「仕方がない。今日は、役場で少し待とう」
「すみません。わたしの早とちりでこんなになってしまって」責任を感じて委縮するフーガにガウンテはやさしく語った。
「誰にでも間違いはある。気にしなくていい。今は最善を尽くそう」
「そうだよ。ここで足止めされるのも、神様の気配りかも知れないよ」シーラッカが、フーガを気遣ってやさしい声をかける。
「あたしも、相手の心象を良くするために、ありったけの回復魔法をかけるわ」とネルシュラに追加の回復魔法を施した。
やがて怒りの面相で、先ほど会った牧童のキューザ・ガウスが、駆け足でこちらに向かってきた。
「あんたたちか。うちの鷹にけがを負わせたってのは!」
その剣幕に、イリヤは震えたが、すぐに前面に出て、相手に謝罪した。
「ごめんなさい。あたしの攻撃魔法で、木に叩きつけてしまいました!」
イリヤは、目を閉じ神妙な面持ちで、頭を下げている。続いてフーガが、シーラッカが首を垂れた。
「いや、責任は指導していた私にあります。ガウスさん申し訳ございません」ガウンテは深々と頭を下げ、お詫びをした。




