新しい仲間
翌々日、シーラッカとイリヤはガウンテの工房にいた。
前回の遅刻を反省して、イリヤは前夜の酒盛りを止めて、しらふのまま早起きしてきた。意外だったのは、白衣姿のフーガ・ソンテモリヤが来ていたことである。
「イリヤの遅刻で、ミーヒムさんが抜けたのは私にも責任があります。私を旅のメンバーに加えてください」
といって、彼女はガウンテに直訴した。ガウンテはわざと目をそらし、ソンテモリヤに訊いた。
「ソンテモリヤさん、狩りの経験はあるのか」
「薬用の小動物の採取なら、経験があります」
「今回の旅では、大型の動物や知恵の回るサルを相手にする。無理はいわない。帰った方がいい」
「私には医学の知識があります。絶対にお役に立って見せます!」
フーガは、口を一文字に閉めると、ガウンテに対して頭を下げた。
「どうか、私を旅の仲間に入れてください。お願いします!」
「仕事はどうしたんだ」
「医療助手はやめてきました」
メガネの奥のジト目は消え、真剣なまなざしでガウンテを見つめていた。
ガウンテはフーガの格好を上から下まで見た後にアドバイスをした。
「まず、いっておくが白衣の下に、素材は皮のボディアーマーを装備しておけ。手持ちがないなら俺が探してくる」
「それから、旅には危険がつきものだ。ついていくのは無理だと判断したら、そこで旅は中断する」
「ええっ」イリヤが驚いて叫び声を上げた。
「大丈夫だよ。僕が守るから」シーラッカにしては珍しく、強い口調で切り出した。
「あたしも、全力でフーガをフォローするから!」イリヤも必死に説得する。
「ミーヒムさんは戦闘能力が高かった。その娘は未知数だ。戦闘能力は素人だといってもいいだろう。その彼女が傷つくようなことがあれば、パーティのバランスが崩れてしまう。ソンテモリヤさんに何かあれば旅は中断して、解散だ。いいな」それだけ言うと、ガウンテは口をつぐんだ。
「わかりました」フーガは、意を決して進退をガウンテにゆだねた。
ガウンテは、工房の倉庫から、フーガに会いそうなサイズのボディアーマーを見つけ出してきて、彼女に与えた。
ラハトバッサの町から、門を越えて外に出る。しばらくは農村の風景が続くが、やがて藪や、低木が目立つようになってきて、小型の雑食動物が目の前を横切るようになってきた。サードフーチ草原のとばぐちに入ったということになる。
ガウンテが先頭を歩き、シーラッカとイリヤが続く、少し遅れてフーガがついてくる並びになった。ガウンテはフーガの遅れが目立つと、列を止まらせて追いつくまで待たせた。
目の前の風景から人が消え、人間は、自分たちだけになっていた。野生動物が平然とうろつき、自然を主体とした光景に切り替わっていった。
「大丈夫か」
「ふぅ。大丈夫……です!」
「フーガ、無理しなくていいのよ」イリヤが心配そうに見つめる。
「危ない!」シーラッカが後ろを振り返り、皆を制止した。
地面を踏みしめる音が鳴り響き、一頭の野生の猪が、一直線に向かってきた。
このままでは、突き飛ばされると思ったシーラッカは、木の枝を片手に覚悟を決めた。
「レッグフリーズ」イリヤは頭の中に、映像を描いて魔法をかけたが、いきなりのことで、気が動転していたのか間に合わない。
ガウンテは吹き矢の準備をしている。イリヤとフーガは脇によけた。
フーガは何かを探しているようだった。イリヤは現時点で間に合う魔法を頭の中で必死に考えている。
プッ。吹き矢は命中したが、猪にとってさしたるダメージにならず、そのままの勢いで走り続ける。
目の前にはシーラッカが木の枝片手でミニマム攻撃を決めようと待ち構えている。
「いいから見過ごせ。危険だ」ガウンテが叫んだ。
シーラッカは動かなかった。一か八かの攻撃をしようと覚悟を決めていた。




