さあ出発だ!遅刻者は・・・・・・
明朝にガウンテの工房に集合してから、旅に出る予定で、シーラッカは定刻通り着いた。少し遅れて念入りに化粧した、リダ・ミーヒムが飾りのついた白い鎧を光らせながら、しゃなりしゃなりと歩いてきた。ガウンテは彼女の姿を見るとガチガチになり「ご、ご機嫌麗しゅうございます」とだけ言った。
イリヤ・パパヤは大分遅れてやってきた。二日酔いで顔が青い。時々えずく。ガウンテが彼女の姿を見て(旅は延期だな)と思ったところ、イリヤの後ろからフーガが駆け込んできた。
「イリヤぁーっ!これ二日酔いの気付け薬よ!」と白い小さな箱を振っている。
「あ、フーガ、ありがとぅ。げふっ」イリヤはフーガの手から箱を受け取ると、中の錠剤を一錠飲んだ。
「あなたは誰だい」ガウンテは、フーガとは初対面だった。
「フーガ・ソンテモリヤです。診療所で医療助手をしています」
「医療助手は長いのか」
「ええ、学校を出てから二年ぐらいやっています」
ガウンテは、フーガと話したのち、シーラッカたちの方を向いて、宣言した。
「せっかく集まってくれて申し訳ないが、イリヤがこの状態なので、今回の旅は延期する」
「えー。冗談じゃありませんわ。わたしだってスケジュールが詰まっておりますの。もし延期するのなら今回の話はなかったことにしてもらいます」ミーヒムさんが不満を述べて、一方的にキャンセルした。
「えっ、あっ、その。いやっ、ご、ご、ごめ、申し訳ない」ガウンテはどもりながら土下座したが。ミーヒムはふくれっ面をしたまま出て行ってしまった。
「ああ残念だ」ガウンテは土下座したまま、尺取虫のように這って工房の奥へ行ってしまった。
「気付け薬を渡したけど、私も旅は無理だと思うわ」フーガが自分の見解を述べる。
「はじめましてソンテモリヤさん。僕はシーラッカ・フリードです」
「お噂はイリヤから聞いています。凄腕の狩人なんですってね」
「いや、それ程でもないです」
「げふ、シーラッカ肩を貸して、家に戻る」イリヤが青息吐息ですがりついた。
「ちょっと昨日は飲みすぎたみたいですね。駄目ですよ気を付けなきゃ」フーガが忠告する。
「昨日は二人で酒盛りしたのかい」シーラッカが尋ねる。
「はい」
「だったら、大事な旅立ちの日なんだから、ソンテモリヤさんが注意をしなきゃ」
「すみません。私、強すぎて適量がわからないんです」
「医療助手だったらイリヤの様子見ていたらわかるだろ」初対面にもかかわらず強い口調でシーラッカは問い詰めた。
「そうでしたね。ごめんなさい」フーガは深々とこうべを垂れた。
ガウンテは自室のベッドで失意のあまり横になっている。
シーラッカはイリヤを連れて集合住宅へ向かった。後ろからすまなそうにフーガがついていった。
鍵を探してイリヤの部屋の鍵を開け、イリヤを寝かしつけた。
「私も途中で帰ったから、あの後飲んでいるなんて知りませんでした」
「イリヤには僕からしっかりといっておく」
「あの大柄な美女さんは抜けるのですか」
「人数は減ってしまうけど、僕が頑張ってなんとかしなきゃ」
「そうですか、ごめんなさい」
シーラッカはフーガと共に、寝床で休んでいるイリヤを診続けていた。
フーガの話によると深酒が過ぎただけで、明日ぐらいには回復しているとのことだった。
シーラッカはイリヤの部屋を出て、自宅へ戻ることにした。
「ほんとうにごめんなさい。私が気を付けていれば」
「済んだことは仕方がないさ、またあとで挽回すればいい」
「なにかあったら私に伝えてください。お手伝いします」
シーラッカはフーガと別れて自宅の方角へ向かった。
「父さん、母さん、旅が延期になったよ」




