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特殊能力ゆえの戦闘の難しさ

 早朝の林の中、木立の合間をぬって、三つ目のトラに悟られないように、ターゲットとの距離を狭めていく一人の男。名前をシーラッカ・フリードという。紫がかったグレーの髪の毛に、ちまちまとした目鼻立ちの目立たない小柄な男、およそ狩人には見えないが、彼には不思議な能力があった。


 あと1メートル、もう少し近寄れないだろうか、シーラッカは悩んだ。近づいた方がより自分の力を出せるのだが。


 急に三つ目のトラが唸り声をあげた。シーラッカに気づいたのだ。トラはゴテゴテとした三色の縞模様が幾重に重なった体躯を持ち、三つの眼がシーラッカをとらえた。トラは駆け出した。


「仕方ない。こいつでどうだ」

シーラッカは、近くにあった大人の頭ほどの大きさの石を、獣に投げつけた。石は、トラの胴体にヒットした。トラは体をくねらせた。痛みを感じているようだが、強いダメージではないと思われる。トラは普段より少し遅いスピードで、シーラッカに襲い掛かろうとした。


 シーラッカは観念したのかあおむけに倒れる。倒れたシーラッカの前で舌なめずりする三つ目のトラ。順番に目をしばたたかせ、ゆっくりとシーラッカの胸に顔を近づけると、前足を上げた。


 ぷち。シーラッカは隠し持った先のとがった数センチの木のかけらで、鼻先を突いた。

三つ目の縞模様を持つトラは、のけぞって倒れ、苦しそうにもがいている。


 毒が入っていたのではない。これがシーラッカの能力。攻撃がミニマムであればあるほど、相手に最大のダメージを与える特殊能力だった。


「今回は上手く行ったが、次の手を考えなきゃな。あーしんどい」

シーラッカは、服に着いた落ち葉を叩き落とすと、倒した獲物に、朱筆でサインを書き、役所へと報告しに行った。獲物は役所の役人が、巡回して回収し、サインを確かめる。サインは雨では落ちない塗料を使っていているので、しばらく放置していても大丈夫だ。



 シーラッカは、害獣指定されている三つ目のトラを退治した事と場所を役所に届け出ると、報酬を受け取った。役所から外に出ると、幼馴染のイリヤ・パパヤが、期待に心を膨らませたような明るい表情で待っていた。彼女は濃い目の青のフードをかぶり、片手には固そうな木でできた杖を持ち歩いている。


 イリヤ・パパヤは、桃色がかった銀髪に丸い顔、どんぐり眼に小ぶりの丸い鼻とおちょぼ口を持つ、小柄な、どこにでもいる女性だった。彼女は、魔法の才を持っている。同い年だが、姉さん気取りである。


「あたしの攻撃法試してくれた」

「いや、あれは止めておいた」

「どうして、シーラッカの意地悪!」と口をとんがらせるイリヤ。

シーラッカは頭をかきながら答えた。

「獣を目の前にして、空中に馬鹿と書くだけなんて危険な行為ができるか」

「シーラッカの能力はそれなんでしょう。最小の攻撃が相手には最大の攻撃として反映される」

「文字を書くことのどこが攻撃だ」


 その後、二人はエマテルヒア国の中心都市、ラハトバッサにある「フェシテアニ」という名のカフェに場を移して、今後の作戦会議を練り始めた。

カフェは赤いレンガを積んだ建物の中にあり、ひときわ目立つ。壁に絡みついたツタがアクセントの緑を添える。

ウェイトレスが運んできたハーブティーを飲みながらアイディアを出す。考えるのはもっぱらイリヤの役目で、シーラッカは突っ込み役だ。


「獣の毛をむしるなんてどうかしら?」

「却下。接近戦になるリスクがある」

「結構ミニマムな攻撃法だと思うけどね」


 作戦会議がすぐに煮詰まってしまうのは、相手に最小のダメージを与えるためには、小さな武器で攻撃しなければならず。そうなると敵に近づかざるを得ないという状況になるのだった。


「細い木でながーい槍を作って、その先で突くのはいかが?」

「そんなもの途中で折れてしまうよ!」

「何よ! ダメ出しばかりしないであんたも何か考えなさいよ」

イリヤにせっつかれて、思考してみるのだが、シーラッカという男は生まれつき、頭をはたらかせるのが苦手だった。シーラッカのミニマム攻撃を引き出しているのは、全てイリヤのアドバイスの賜物である。


「ねえ考えているの?」イリヤがひじでシーラッカの紫がかったグレーの頭をこづく。

「くーくーかー」

お茶を飲んでいるにもかかわらず、シーラッカはいつのまにか寝てしまい。イリヤに飲み残しのお茶を耳に注がれる。驚いて飛び起きるシーラッカ。一連の行動は「フェシテアニ」で繰り広げられる日課となりつつある。


「早く効果的な攻撃法を考えなきゃ」イリヤは、憮然としているシーラッカを見つめて悩んでいた。

彼女はシーラッカをあまり危険な目に合わせたくなかったからだ。

「大丈夫さ。イリヤの魔法によるフォローがあれば、どんな敵にも勝てるよ」シーラッカはイリヤの肩を叩いて、そう告げた。


 夕日が傾いて二人を茜色に染め上げる。太陽の光とは別の温かさを二人は同時に感じ入っていた。



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