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ラブコメは刺激臭と共に  作者: 天秤
第1章 【高校時代】
9/60

第9話 『素敵な友達』

 というわけで、ここからが本編である。前提を踏まえた上で、お読み頂きたい。


 自ら望んだ孤独な中学時代が終わり、私は市内の高校へと進学した。

 中3の頃はぼっちで時間が有り余っていたこともあり、いろいろと考えたものだ。

 孤独となったことに対する後悔はない。あの時の私にはそうする以外の選択肢はなかった。

 しかしその過程において、他人を傷つける結果を残し、私自身にもメリットはなかった。

 特に他人を傷つけてしまったことは、自分の非を認めて反省するべき事柄だ。

 あとから振り返ると、あの日、自分は逃げたのだとわかる。現実逃避したのだ。

 なにもかもが面倒で煩わしく思えて、独りになりたかった。しかし、それでは何も解決しない。

 では、どうしたら良かったのか? そんな詮無きことを、つらつら考えていた。


 その結果、導き出した結論は、なるべく目立たないように静かに暮らすことだった。

 人に迷惑をかけず、人に迷惑をかけられない立ち位置を確立した。

 それが、無口で大人しい女子。私の仮初めの姿である。

 これが功を奏して、中学最後の1年間は静かで平穏に過ごせた。

 人を傷つけることなく、そして自分も傷つくこともなかった。

 しかし、このキャラクターには弊害があった。それは時を経るごとに大きくなっていく問題。


 このままでは、恋愛ができない。


 心身ともに生長を遂げた私は、中3の終わりの頃に恋に恋する乙女となっていた。

 読み漁っていたラノベの影響を多分に含み歪んだ、私の恋心。

 しかしながら、ぼっちで無口な私には肝心の恋愛対象が存在しなかった。

 右を向いても左を向いても、声を掛けられそうな男子はおろか、友達すらいない。

 面倒事に巻き込まれるのは嫌だけど、それでもやっぱり恋をしてみたかった。

 よって私は、高校への進学を機に、恋が出来る人間になろうと決意した。


 そんなわけで高校に入学した私が具体的にどうしたかと言えば、答えは簡単。前の席に座る女の子に声をかけた。そして、互いに自己紹介を交わし合った。

 なぜそんなことをしたかって? 友達もいない人間が恋人を作るのは不可能だと思ったからだ。

 相手の名前を知り、その名と顔を覚えて、認識する。そんな当たり前のことを、私はやり遂げた。

 彼女の名前は、瀬川灯さん。ルビを振るのが面倒なので、名前は『あかり』と読むことを付け足しておく。

 瀬川さんは、艶やかな黒髪を肩口で切り揃えた、温和で優しげな女の子だった。

 水色のカーディガンがお気に入りらしく、良く似合っていた。そして胸が大きい。

 軽く私の倍くらいの質量がありそうだった。しかし、その巨乳に嫉妬したりはしない。

 私とて、それなりのサイズへと生長したのだ。それに伴い、精神的にも寛容になった。

 巨乳の女の子を見ても、重そうだな、くらいにしか思わない。劣等複合に苛まれることはなくなった。

 代わりに新たな劣等複合を抱えているのだが、それはひとまず置いておく。


 というわけで、私は瀬川さんに嫉妬することなく、良好な友人関係を構築した。

 彼女は大変女子高生らしい女の子で、公私共々、世話になった。

 お互いの家に遊びに行ったりもした。彼女の自宅は、ものすごい大豪邸で、驚かされた。

 天井からシャンデリアがぶら下がっている家を初めて見た。高そうなグランドピアノも置いてたし。

 そんなことはともかく、休日は一緒に買い物をしたりもした。友達と買い物は、初体験である。

 流行の服とか、化粧品とかを真似して買って、制服の着こなし等々、いろいろと教わった。

 教えられた通りにちょっとスカートを短くすると、一気に防御力が減った感覚になったのは、今となってはいい思い出だ。まだちょっと恥ずかしいけど、これも環境に適応する為の修行みたいなものだ。

 そのおかげで、高1の一学期が終わる頃には、周囲に馴染むことが出来た。

 そうして、もうぼっちではなくなった私は、次の段階へと進むことにした。


 それは気になる男子を見つけること。恋愛の第一歩である。


 しかし、その一歩がなかなか踏み出せなかった。というか、私の意思ではどうにもならない。

 端的に言って、気になる男子など存在しなかった。少なくとも校内には見当たらない。

 私の通う高校は共学で、半数は男子だ。そこら中に男子生徒は存在している。

 だが、その中で気になる男子を見つけるとなると、これがまた存外難しい。

 もともと人の顔を覚えることが苦手な私には、彼らの顔を見分けることすら困難を極めた。

 そんな有様で恋をしようなんて、それは相手に対しても失礼というものだ。

 

 ちなみに、この現状の原因は新たに芽生えた私の特殊な劣等複合によるところが大きい。

 もっともそれはコンプレックスというよりは、性的嗜好というか、もっと簡単に言えば好みのタイプとも言えよう。そう、要するに好みのタイプの男子が周りにいなかったのだ。

 人を外見で判断するのは良くないけれど、どうしても見た目の好き嫌いは生じる。

 自分が好きだと思える見た目の男子がいれば、きっとその人のことが気になる筈。

 しかしながら、そんな男子はどこにもおらず、気になる人を見つけることは出来なかった。

 恋がしたいのに出来ない歯痒さ。だが、いないものはいないのだ。引き下がるしかない。

 

 自分の嗜好をどうにかしようとは現時点では思わなかった。まだ焦る必要はない。

 そう思えるのは、友達の瀬川さんもまた、彼氏がいないから。だからまだ大丈夫と思えた。

 なにせ瀬川さんは可愛い。そして胸も大きい。クラスのマドンナ的存在だ。

 そんな彼女でも、彼氏がいない。いや、作らないと言ったほうが正しいか。

 これは私の勝手な想像に過ぎないが、彼女も理想が高いように思えた。

 少なくとも、周囲には瀬川さんが理想とする男子が存在しないのだろう。

 もしいたのなら、瀬川さんが告白して、それでカップル成立だ。そう確信していた。

 まず間違いなく、彼女に思いを告げられて断る男子はいない。そのくらい、魅力的だ。

 というか、もしそんな男子がいたのなら説教をしてやる。余計なお世話とは重々承知しているが、そう思えるくらいに、私は瀬川さんに陶酔しきっていた。メロメロだった。


 彼女と彼氏欲しいね、なんて話をしていると、自分が男だったら良かったのにと思うことが多々ある。

 無論、私が男だったとして、彼女のお眼鏡に適うとは思えない。それでもきっと、恋をしただろう。

 その結果、瀬川さんに振られたとしても、彼女を好きで居続けられる自信があった。

 もちろん、あまりしつこく言い寄ればストーカーになってしまう。だから女で良かったと思う。

 そう考えると、なんだかとても役得なような気がしてくる。同性なら一緒にお風呂にも入れるし。

 脱がなくてもすごい彼女は、もちろん脱いでもすごい。一度だけ拝見したことがある。


 休日に町まで遊びに行った帰りに、土砂降りに遭ったのだ。びしょ濡れになった私たちは、その場から最も近い場所に建っていた瀬川さんの自宅に避難して、一緒にお風呂に入った。

 彼女の家のお風呂はとても豪奢で、彼女の身体もまた、とびきりゴージャスだった。

 詳しいことはプライバシーもあるので差し控えるが、なんというかバランスがいいお胸様だった。

 デカいことは知っている。脱がずともわかる。しかし、その服で隠された部分については、実際に見なければわからない。それを私はこの目で見た。ガン見した。そしてついには怒られた。

 

 彼女は自分の胸の大きさを気にしているらしく、両手で庇いながら、私を咎めた。


「もう、見すぎだよ、なおちゃん」

「あ、こりゃ失敬」


 なんだかおっさんのような謝罪をしながらも、目を離せなかった。

 だって両手で庇ったところでちっとも隠しきれていないのだもの。

 溢れんばかりに零れ落ちそうなそのお胸様に、ゴクリと喉を鳴らす。

 むしろ誘ってるのかと思って、触ったり揉んだりしたほうがいいのかと誤解しそうになったことをよく覚えている。据え膳とはこのことかと思って、女が廃ってしまうのではないかと焦ったくらいだ。

 もちろんその時、私も全裸であり、仕返しとばかりにまじまじと眺められてしまった。


「なおちゃん、奇麗な身体してるんだね」

「そう?」

「うん。可愛いね」


 そんな風に褒められて、同性愛もなかなか悪くないと思ったが、やっぱり恥ずかしかった。

 たぶん、体毛が薄いから綺麗に見えるのだろう。瀬川さんのお気に召したようで、なによりだ。

 そうやって互いの身体を晒し合っていると、なんだか間違いが起きそうな気がしたので、慌ててシャワーを交互に浴びて、湯船に肩まで浸かった。

 そしてそのあと洗いっこしたりもしたのだが、これは少々刺激的過ぎるので割愛しよう。

 

 ともあれ、人生最良の日と言っても過言ではないくらい、素晴らしいひと時だった。

 

 なんて、自分でも何を言っているのかわからなくなるくらい、私は彼女が好きだった。

 念の為に言っておくが、当然、友達としてだ。私に同性愛の趣味はない……と、思う。

 瀬川さんは本当に素敵な友達であり、良き友人として彼女と穏やかに過ごしていると、こんな日々も悪くないと思えてくる。彼氏なんかいらないのではないかと思う瞬間も、多々ある。

 しかし、まだ焦る時ではないのと同様に、諦めるにはまだまだ全然早い。

 私は平穏な日々を過ごしながら、虎視眈々と好機を待つことにした。


 そしてある日、彼と出会う。

 いや、正確に言えば、認識したと言うべきか。

 それは、高1の体育際での、出来事だった。 

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