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ラブコメは刺激臭と共に  作者: 天秤
第1章 【高校時代】
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第58話 『弱さの良し悪し』

「トイレで吉田を着替えさせてから、とりあえず公園に向かうぞ」


 心神喪失状態の吉田くんを半ば担ぐようにして、シュウはひとまず校内のトイレへ。

 瀬川さんは未だに泣きながら謝罪を口にしていて、私は鷹宮さんにしがみついたまま。

 さすがに鬱陶しく思ったのか、火花姫はキッパリと自らの立場を告げた。


「私は部外者だから、あとはあんた達で話し合いなさい」


 冷たく突き放して教室に戻ろうとする鷹宮さん。

 だが、私は彼女を離すつもりはない。

 今支えを失えば、きっと駄目になると思い、懇願する。


「お願い……傍に居て」


 そんな情けない私を見て、鷹宮さんは呆れたように首を振りつつ。


「仕方ないわね……わかったわよ」


 押しに弱い火花姫は、同行を承諾。

 まもなくシュウとスラックスを体操着に穿き替えた吉田くんが戻ってきて、いつもの公園へ。

 そこで今後のことについて話し合いが行われた。


 平日の昼間から高校生が公園でたむろして居るのは相当に不自然な光景だったとは思うが、幸いに通報されることなく、結論は比較的速やかに出た。


「私、産む」


 瀬川さんの決意を受けて、吉田くんも覚悟を決め、頷く。


「わかった。僕も責任を取る」


 軽々しく責任などと口にする彼に、色々と言ってやりたい。

 高校生の分際で、何が出来るのか、聞いてやりたい。

 しかし今の私はボロボロで、声を出すのも辛かった。

 そんな私の代わりに、鷹宮さんが質問をしてくれた。


「責任って、具体的にはどうするつもり?」

「瀬川さんをお嫁さんにする」

「結婚するってこと?」

「うん」

「でも、あんたはまだ17歳でしょ?」

「18になったらすぐに籍を入れる」


 その返答に鷹宮さんは納得……などする筈もなく。


「あたしは部外者だから、後先を考える必要はない。だから、あんたを殴る」


 言うが早いか、思いっきり吉田くんの顔面をグーで殴った。

 ぶっ飛ばされて、鼻血を流しつつも、彼は立ち上がり、罰を受け入れた。


「ありがとう鷹宮さん……僕を殴ってくれて」

「殴られてお礼を言うなんて、頭おかしいんじゃないの?」

「いいんだよ、ボコボコにされた分だけ、強くなれるから」

「それなら、もっと殴ってあげる」


 右頬を殴る。


「これは、有村秋の信頼を踏みにじった分」


 左頬を殴る。


「これは、神崎直を悲しませた分。そしてこれは……」


 そしてもう一発殴ろうとして。


「もうやめて!」


 瀬川さんが、間に割って入った。

 自分の恋人がボコボコにされている姿を、見ていられなかったのだろう。

 そんな柔花姫の頬を、火花姫は平手打ちした。


「た、鷹宮さん……!?」


 これには私も驚いて、声を取り戻して止めに入るが、それを制して、鷹宮さんは瀬川さんを責めた。


「瀬川灯にも責任がある」

「……ごめん、なさい」

「別に謝って欲しいわけじゃない。これから自分の旦那になる男が殴られてんのよ? 悔しくないの? 産むって決めたなら、戦いなさい! 私を殴り返すくらい、してみなさいよっ!!」


 一方的な暴力と思われたが、違った。

 これは叱咤であり、瀬川さんを鍛える為に敢えてそうしたのだ。

 優しいだけでは母親になれないと。現実と戦う強さを授ける為に。

 しかし、それでも、それが伝わってしまったからこそ。


「こんなに優しくされて、戦うなんて……出来ないよ」


 柔花姫は泣き崩れ、それを吉田くんが支える。

 そんな彼らを見て、火花姫はまるで火花が爆ぜるかのように苛烈な舌打ちをして。


「ちっ……どいつもこいつも、雑魚ばっかりで嫌になる」


 憎まれ口を叩き、踵を返して立ち去ろうとする火花姫の背に、柔花姫が気持ちを伝える。


「私は、玲奈ちゃんのこと、友達だと思ってるから!」


 すると、鷹宮さんは振り返り、真っ赤な顔をして怒鳴り返した。


「あんた達の友達ごっこに、私を混ぜるな!!」


 その二人のやり取りに、黙っていられず、私も思いを吐き出す。


「鷹宮さんが居なかったら、私はまた失敗してしまうところだった」

「な、何よ突然……だいたい、友達なんか作るから、弱くなるのよ!」

「そうかも知れない」

「なら、今すぐ友達ごっこはやめて昔に戻りなさいよ、神崎直!」


 いつだかも同じことを言われた。

 しかし、それに対する返答は、変わらない。

 むしろ、前よりも強くなったとも言える。


「それでも、私は昔に戻るつもりはない」

「そんなに弱くなった癖に、どうして……」

「弱くなったことで、こうして助けて貰えるから」

「ッ……!」


 友達を作って、私は弱くなった。

 今回のように、他人のことで取り乱してしまうことが増えた。

 しかしそれは悪い面ばかりでなく、良い面もある。

 弱くなったからこそ、鷹宮さんはこうして助けてくれた。


 我ながら、甘えた考えだと思うが、それが本心だった。


 もちろんそれを聞いた火花姫は怒り狂い、怒鳴り散らした。


「か、神崎直も、瀬川灯も、大っ嫌い!」

「それでも、私は友達だと思ってる!」


 これは前にも言った言葉だ。

 どれだけ嫌われようと、憎まれようと、私は鷹宮さんを好きで居続ける。

 瀬川さんも同じ気持ちらしく、こちらを見つめて、しっかりと頷いてくれた。


 そんな頑固で強引な我々に反論することを諦めて、鷹宮さんは投げやりながら、認めてくれた。


「ならもう勝手にしなさいよ!」

「うん……そうする」

「もう、帰る!」


 プリプリ怒って立ち去る彼女の背に、瀬川さんが優しく言葉をかけた。


「今日はありがとね、玲奈ちゃん」


 鷹宮さんは、振り向かない。

 それでもその場で足を止めて、暫し逡巡した後、ポツリと小さな声で囁いた。


「……せいぜい、お腹は大事にしなさいよ」


 その忠告には、火花姫の優しさがこれでもかと含まれており。

 私と瀬川さんは顔を見合わせて、くすりと笑う。

 やっぱり彼女は良い子で、かけがえのない友達であると、改めて思った。

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