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ラブコメは刺激臭と共に  作者: 天秤
第1章 【高校時代】
43/60

第43話 『魔王vs聖女』

「鷹宮さん、ちょっと話があるんだけど」

「いきなりなによ?」


 早乙女先生の個別指導から一夜明けて、翌日の放課後。

 悩み続けていた問題が解決した私は、すぐに行動に出ることにした。

 向き合うべき相手は2人いる。有村くんに関しては、後回しだ。

 さし当たってまずは、自分の好みのタイプであるショタと向き合うべきだと、判断した。

 何故そう思ったのかと言えば、そうしなければ有村くんに対してあまりに失礼だからだ。

 最近一緒に帰らなかったのも、なんとなく後ろめたさを感じていたからだった。

 彼方くんへの感情をちゃんと理解しないことには、彼と接することはできない。

 もっとも、早乙女先生のおかげで大体はわかった。あとはそれを確認するだけだ。

 自分の認識であっているのか、それを確認して、初めて有村くんと向き合うことができる。


 だから私は、彼方くんの姉である鷹宮さんに頭を下げてお願いした。


「お願い、鷹宮さん。今日の帰り、彼方くんに会わせて欲しいの」


 この間のように、帰り道で会わせて欲しい。それがどうしても必要なことだった。

 あの騒動以来、鷹宮さんとも口を利いていなかった。とはいえ、彼女は大人しかった。

 いつものように突っかかってくることや、噛みついてくることもなく、ただ何かを待っているようだった。

 事の発端は、彼女の自宅にお邪魔した際に言われた、あの言葉。


『神崎直には年下は向いてないから、やめときなさい』


 その指摘に対する私の返答を、鷹宮玲奈は静かに待っていた。

 それを察して、答えを見つけるまでは話しかけないと決めていた。

 そして、答えは見つかった。ならば、答え合わせをしなくてはならない。

 そんな私の決意を受けて、鷹宮さんはふんっと鼻を鳴らして。


「わかった。神崎直がどんな女なのか、見せて貰うわ」


 あっさりと承諾してくれた鷹宮さん。だが、手放しには喜べない。

 彼方くんの実の姉である彼女は、私がどんな女か見極めるつもりらしい。

 その結果、失望されたらと思うと、とても怖い。鷹宮さんに嫌われたくない。

 だが、そんな脅しに屈するような弱い自分こそ、一番見せたくなかった。


「それならよく見てなさい。本当の私がどんな女か、思い知らせてあげる」


 典型的な売り言葉に買い言葉。お互いに向き出しの敵対心を隠さずぶつかり合った。

 内心の不安を微塵も表に出すことなく、私は自慢の鉄仮面をしっかり被る。

 その鉄のバイザーの隙間から、じっと視線を向けると、鷹宮さんのちょんまげが逆立った。

 私の冷たい視線とは対照的な、火花姫の熱い眼差しが火花を迸らせる。

 鉄花姫と火花姫は暫し視線を交差させて、睨み合った。教室がどよめきに包まれる。

 たぶん事情を知らない者には、どこぞの男でも取り合っているように見えるのだろう。

 そしてその最有力候補として囁かれる無関係な男に、何故か鷹宮さんが声をかけた。


「有村秋」

「ん? どうした、鷹宮?」

「ちょっと耳貸して」


 私との睨み合いを中断して、有村くんに何事か耳打ちする鷹宮さん。

 教室内のざわめきが更に増大して、まるで火花姫が先手を打ったかのようだ。

 とはいえ、今現在有村くんは全然関係ない。本当に無関係な筈なのに、どうして。

 彼女の意図が全く読めず、首を傾げていると。


「いいわね、わかった?」

「ああ、わかった」

「それじゃあ、頼んだわよ。有村秋」


 耳打ちをやめて、確認を取る鷹宮さんに頷く有村くん。

 どうやら話は終わったらしい。しかし、いったい何のつもりだろう。

 不審な行動に眉を顰めていると、火花姫はくすりと笑って。


「気になる?」

「別に」

「なら、さっさと帰りましょ」


 挑発には乗らない。鉄花姫の防御力は伊達ではないのだ。

 有村くんのことは後回しだと決めている。今は彼方くんと決着をつけるのが先決だ。

 自分がそれほど器用でないことは重々承知しているので、ひとつのことに専念しよう。

 改めて自分自身を戒めてから、騒がしいクラスメイトを置き去りに、教室を出た。


「あ! 姉ちゃん、今度はなんだよ!?」

「よく来たわね彼方。神崎直があんたに話があるらしいのよ」

「直さんが?」


 今日も今日とて今にも降り出しそうな曇天の梅雨の空の下を鷹宮さんと2人で無言で歩き、いつもの公園に辿り着くと、そこには既に彼方くんが居た。

 相変わらず、とても可愛い男の子だ。やはり彼は理想のショタであり、好みのタイプと言えよう。

 そんな好みのタイプの男の子に対する私の気持ちが、いったいどんなものなのか。

 既に答えはわかっているとはいえ、それを実際に確かめなければ納得出来ない。

 私は本当に、ショタが好きだ。目に入れても痛くないほど、大好きだ。

 その感情は間違いなく本物であると確信している。伊達や酔狂でショタコンやってんじゃないんだ。

 問題は、その気持ちにプラスアルファがあるかどうか。重さや厚みが備わっているのか、否か。

 こればかりは実践で確認する他ない。では、どうすれば確認出来るのか。答えは簡単だ。


「彼方くん、ちょっと私の膝に乗ってくれない?」

「へっ?」


 開口一番、私は彼に膝に乗るよう頼んだ。

 これぞ、私の秘策だった。これなら確かな実感が得られる筈だ。

 なにせ昨日体験したばかりなのだ。早乙女先生に私はわからされた。

 だから今日は彼方くんにわからせて貰い、私も彼にわからせてあげようとした。

 私がどう思い、そして彼がどう感じるのか、それがなによりの答え合わせとなるだろう。

 この瞬間のことを想像して、昨夜はあまり眠れなかった。知れず、鼻息が荒くなる。


「な、直さん、何言ってんですか……?」

「いいから、膝に乗って。そうすればわかるから」

「わ、わかるって、なにが……?」

「ああもう……彼方くんったら、焦らしてるの?」

「い、いえ、そんなつもりは……」

「じゃあ、早く乗って! もうお姉さんは堪らないの!!」


 公園のベンチに座って、自らの膝をペチペチ叩いて急かすと。


「なにが堪らないよ!? アホか!!」

「ぶへっ!?」


 スパーン!と、後頭部をぶっ叩かれて、意識が遠のく。

 な、なんだ……? いったい、なにが起こった……? ここは、どこだ……?

 朦朧としながらも、私は目的だけは忘れてなかった。

 私は、ショタを膝に乗せるために、ここに来た! それ以外は全て、些末なことだ。

 重さ? 厚み? そんなことはこの際どうでもいい。ただ、ショタを膝に乗せたい。

 最初は膝に乗せてぎゅっと抱きしめて、次は私が彼の膝に乗って抱きしめて貰うんだ。

 それこそが我が悲願、その為には、こんなところでくたばるわけにはいかんのだよ!!


「まだ終わらん、終わらんよ!!」

「うっさい! またぶっ叩かれたいの!?」

「あ、すみません……お姉様」


 朦朧としすぎて耄碌したことを口にすると、鷹宮さんに怒鳴られた。

 そう、さっき私の後頭部をぶっ叩いたこの人は、鷹宮玲奈。

 彼女は彼方くんの実の姉であり、詰まるところ、将来、私の義理の姉となるお方だ。

 気分を損ねてしまったら大変なのですぐに謝ったのだが。


「えっ? あ、あんた、今なんて……?」

「すみませんと謝りました」

「そ、そうじゃなくて、そのあと!」

「お姉様と呼びましたが、それがなにか?」


 なにやら突如狼狽し始めたお姉様。

 顔が真っ赤で、目が盛大の泳いでいる。

 なにか気の障るようなことをしてしまったのかと、不安になっていると。


「……も、もっかい」

「はい?」

「もう一回、呼んで!」

「と、申しますと?」

「だ、だから、さっきみたいにもう一回私のことを呼んで!!」


 何だかよくわからないけれど、将来の義理の姉の頼みならば、お安いご用だ。


「はい、お姉様。これでよろしいですか?」

「……もう死んでもいい」


 再びお姉様と呼ぶと、鷹宮さんの目はとろんとして、夢見がちな表情となった。

 よくわからないけど、満足してくれたご様子だ。それでは、この隙に。


「さ、彼方くん。邪魔者は消えたわ」

「ひっ! ね、姉ちゃん! おい、姉ちゃんってば!!」

「ふへへ……幸せすぎて妊娠しそう」

「なに馬鹿なこと言ってんだよ!? 戻ってこい!!」


 保護者を失った彼方くんに視線を向けて、ちょいちょいと手招き。

 彼は慌てて姉を正気に戻そうとするが、無駄だ。その女はもう使い物にならない。

 私はあくまでベンチに座ったまま、彼方くんを呼ぶ。にっこり笑顔で、引き寄せる。

 ダッシュで捕獲したら通報されかねない。ショタコンは知恵を付けたのだ。

 怯える彼方くんに辛抱強く声をかけ続けると、彼はおっかなびっくりしつつ。


「あ、あの、直さん……」

「ん? どうかしたの、彼方くん?」

「膝に座ったら、姉ちゃんを元に戻してくれますか……?」


 なんと姉思いの弟なのだろう。やはりこの子は本当によく出来たショタだ。あっぱれである。

 とはいえ、鷹宮さんの病状は既に危篤状態。あとは本人の生命力に頼るしかない。

 名字に神の字が使われているこの神崎直とて、神の手を有しているわけではないで、ここまで弱ったクランケに対して効果的な治療を施すことは難しい。匙を投げつつ、容態を見守る他なかった。

 だが、そんな事実を患者の遺族に告げるのは忍びない。もしかしたら泣いちゃうかも知れないし。

 というわけで、楽観的な言葉を口にしつつ、崇高な目的を果たそうと思う。


「うん、私の膝に乗ったらすぐに良くなるよ」

「……わかりました」


 よしよし、これでいい。

 別に嘘を吐いたわけではない。信ずる者は救われる。彼方くんの思いはきっと姉に届く筈だ。

 そんな無責任なことを思いながら、こちらに歩み寄る彼方くんに舌なめずり。

 実に美味そうなショタである。あー早くかぶりつきてー。

 一応、膝は行儀良く揃えて万全の体勢。お迎えの準備はバッチリだ。

 あと少しでショタコンの悲願が叶う。そう思うと、とても感慨深い。

 彼方くんの細い足が大きく広げられて、ゴクリと喉を鳴らす。奇声をあげて狂喜したいが、我慢。

 ゆっくり膝に跨がり、ちょっと涙目の彼は、私に向けて最後の確認をした。


「ほ、本当に、座りますよ……?」

「もう……彼方くんってば、本当に焦らし上手なんだから」

「えぇっ!? そ、そんなつもりは……とにかく、失礼します!!」


 極限の興奮状態の私が煽ると、彼方くんは真っ赤な顔をして、慌てて腰を下ろそうとして。


「そこまでよ!!」


 ちっ……もう目が覚めたのか。


「あら鷹宮さん、おはよ。よく眠れた?」

「ええ、おかげさまでね……ようやく目が覚めたわ。もう神崎直の好きにはさせないんだから!!」


 現れたのはさっきまでガラクタだった鷹宮さん。

 弟の危機を察知して正気に戻ったらしいお姉さんたる彼女は、その瞳に灼熱の炎を宿して、火花姫の本来の姿を取り戻していた。

 迸るその火花に焼かれぬように私も鉄花姫の鋼の鎧を纏い直す。

 私の邪悪な欲望に照らされて、テカテカと黒光りしたそれは暗黒を司る魔王の鎧とも呼べよう。

 対して彼女の纏う煌びやかな火の粉は、さしずめその聖なる身体から溢れる正義の炎と言ったところか。

 言うなれば、私の愛読書のラノベの魔王vs聖女といった様相で我々は対峙していた。

 腰に手をやって小さな身体から陽炎を立ち昇らせる聖女と、座して静かに闘気を漲らせる魔王。

 両者、臨戦態勢である。そこに小さな英雄たる彼方くんが割り込んだ。


「ね、姉ちゃん、大丈夫なのか!?」

「もう平気よ。彼方は下がってなさい」


 姉の復活に喜ぶ弟。彼は言われた通りに私から距離を取り、後方に控えた。

 あと僅かで我が手に落ちる寸前。思わず手を伸ばして引き留めたくなるが、堪える。

 下手に動けばこの聖女に焼き尽くされかねん。魔王たる私は常に冷静さを見失わず、平常心を保つ。


「てっきりもう使い物にならないと思っていたけど、見上げた執念ね」

「ふんっ……あの程度でやられるもんですか!」

「お望みならば、もう一度お姉様と呼んで差し上げてもよくてよ?」

「う、うっさい! 誘惑すんな!!」


 ちょっと気取って甘言を口にしても、この聖女は撥ね付けてきた。なかなかやるな。

 なんて感心している場合ではない。私には私の目的があるのだ。

 今日こそは小さな英雄を我が物にしてくれる……じゃなくて、自分の気持ちを確かめるのだ。

 その為には、この正義の味方である火花バチバチの聖女様をなんとかしなくてはならない。

 というわけで、とりあえず普通にお願いしてみることにした。


「出来れば私の邪魔をしないでくれるとありがたいのだけど……」

「私はあんたの邪魔をするのが目的なの!」

「それはなぜ?」

「神崎直を変態にしたくないからに決まってんでしょ!?」

「そう……でも、私は見ての通り変態なの。ごめんなさいね」


 私の身を案じる火花姫に現実を突きつける。

 これもまた、私の目的のひとつだった。

 鷹宮さんは、私に憧れている。だが、彼女の理想とする私は、現実とは大きく異なる。

 本当の私は、どうしようもないショタコンであり、真っ黒な欲望に染まった魔王だ。

 それを彼女に知られるのは、怖い。だけど、もう隠すのはやめた。

 鷹宮さんときちんと向き合い、そして向き合わせる。そして私のことを知って貰う。

 彼女の憧れが自己満足であると認識させる為に、自分の変態性を曝け出したのだが。


「そんなの私は絶対に認めない!!」


 それでも頑なに認めようとしない火花姫。

 どんだけ私に心酔しているんだ、この子は。

 その好意を嬉しく感じつつも、理解して貰えないことに憤りを覚えながら、私は問う。


「なら、どうするの?」

「あんたが年下好きに相応しいってことを、私に認めさせて!!」

「だからそれを示す為に、彼方くんを膝に乗せようとしたのだけど……」

「んな馬鹿みたいな方法は絶対に許さないんだから!!」


 馬鹿とか言われた……ちょっとショックだ。

 私は昨日、この手法で早乙女先生に諭されて、納得したのだけど。

 それを否定されてしまうと、どうすることも出来ない。


「それなら、どうやって証明しろと?」

「私に考えがあるわ。彼方、例の物は持ってきた?」

「う、うん! 姉ちゃんの分も持ってきたよ!」


 代案を尋ねると、なにやら考えがあるらしい。

 弟である彼方くんを手下のように扱い、鷹宮さんはとあるアイテムを彼から受け取った。


「このゲームで、彼方と対戦しなさい」

「ゲームで?」

「そう、この前のような体たらくを見せたら、私は認めない」

「つまり、ゲームで彼方くんを負かせと?」

「そういうこと。それで、やるの? やらないの?」


 私の眼前に突き出されたのは1台のゲーム機。色は赤。これが鷹宮さんのものらしい。

 もう1台は彼方くんの手に握られている。色は白。その純白は、穢れなきショタにとても似合っていた。

 機体には液晶画面が付いていて、どうやら屋外でも遊べる仕様らしい。すげーな、最近のゲーム機。

 ふむふむと感心しつつも、内心は焦っていた。この前の鷹宮さん宅での光景が脳裏をよぎる。

 またあの屈辱を味わう羽目になるかもしれないと思うと、身が竦む。

 だけど、たとえそうなったとしても、私は向き合うと決めたのだ。

 対峙するのは自分自身の気持ち。無論、彼方くんと鷹宮さんに対しても目を背けてはならない。


「……やるわ。私は逃げたりなんかしない」

「ふん……それでこそ、神崎直ね。せいぜい頑張りなさい」


 敵である火花姫の激励を受けつつ、鋼鉄の篭手でその真紅に染まったゲーム機を受け取る。

 たぶん、私は今日、この聖女様に失望されるだろう。

 それはたしかに怖いが、同時に望むところでもあった。


「それじゃあ彼方くん、よろしくね」

「あ、はい。なんかよくわからないけど、よろしくお願いします!」


 自分がどんな女か知るために、そしてわからせるために。

 鷹宮さんが見守る中、私はゲームで彼方くんと対決したのだった。

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