第37話 『突然の修羅場』
「なおちゃん、今日は部活に来れる?」
「瀬川さん、実は今日も……」
「神崎直、帰るわよ!」
翌日の放課後、瀬川さんに声を掛けられたタイミングで、鷹宮玲奈が呼びに来た。
鷹宮さんは今日も弟の彼方くんを連れて来てくれるらしい。そういう約束を交わしていた。
なので、本当に残念ながら今日も部活に行けないと伝えようとすると、何故か瀬川さんがまるで拗ねたかのようにさくらんぼ色の唇を尖らせて。
「ふーん……今日も鷹宮さんと一緒に帰るんだ」
「ご、ごめんなさい。昨日のうちに約束してたから……」
「瀬川灯は余計な口出ししないで!」
まるで浮気の弁明をするかの如く、おろおろしながら瀬川さんに事情を話すと、鷹宮玲奈が口を挟む。
それを受けて、瀬川さんは少しばかり怯んだ様子で、自らの立場を口にした。
「余計な口出しなんかじゃなくて、私はただ、なおちゃんの友達として……」
「そういうのが余計だって言ってんのよ。神崎直は私と帰るんだから、邪魔しないで!」
「そ、そういうの、良くないと思う」
「はあ? なにが?」
「だ、だから、そうやって独り占めするのはやめたほうが……」
「独り占め? 何言ってんのよ。そんなこと、あんたにだけは言われたくないわ」
「っ……!」
「私、瀬川灯のそういう傍観者気取りなところ、大っ嫌い!!」
いかん。これは不味い。
よもやこんな展開になるとは思わなんだ。
いくら何でも急展開すぎるだろ。完全に修羅場になっちまった。
なにはともあれ、早く2人を止めなければ。
「ふ、2人共、落ち着いて。喧嘩しないで、ね?」
「なおちゃんが浮気するのがいけないんでしょ!?」
「神崎直がこんな女と仲良くしてたのがそもそも間違ってたの!!」
おおっと。止めに入ったつもりが、余計に悪化してしまった。遺憾だわ。
女の子2人に責められて、ショックのあまりその言い分がまったく耳に入ってこない。
なんだかとても理不尽な怒りに晒された気がするけど、とにかく自分が悪いことはよくわかった。
私はいっつもこうだ。気がついたら、何故か渦中のど真ん中で右往左往。これが運命なのだろうか?
そんな絶望の淵から救い出してくれたのは、2人の男子生徒だった。
「鷹宮、落ち着け」
「せ、瀬川さんも、落ち着いて」
鷹宮さんを宥めるのは、有村くん。
そして瀬川さんを宥めたのは、吉田くんだった。
「有村秋には関係ないでしょ!?」
「吉田くんは私の味方、だよね……?」
「へっ? いや、今はどっちの味方とかじゃなくて……」
「吉田くんは、私のこと裏切らない、よね……?」
「うっ……あ、有村、後は任せた!」
2人の仲裁にも、火花姫たる鷹宮さんの憤激は収まらず。
そして瀬川さんは吉田くんに泣きついて、彼を使い物にならなくしてしまう。見事な手腕である。
吉田くんが早々と離脱する中、残された有村くんは怒り狂う鷹宮さんに物怖じすることなく、一喝。
「鷹宮、お前は誰彼構わず噛みつきすぎだ」
「な、なによ!? 変態の癖に偉そうにしないで!!」
「俺や神崎に噛みつくのはいい。けど、これ以上敵を増やしてどうすんだ?」
「どうもこうもない! 私は誰とも馴れ合わず、独りで強く生きていくの!!」
「神崎みたいに?」
「そうよ!! 神崎直みたく、強く、そして気高く、孤高の存在になって、見返してやるの!!」
ヒートアップした彼女は、それが誘導尋問だとは知らずに、胸中を吐き出した。
「私は、あの女よりも強くなりたいのよ!! だから邪魔すんな!!」
そこまで言い切って、鷹宮さんは我に返ったらしく、慌てて付け加えた。
「も、もちろん、大嫌いな神崎直を倒す為にね! か、勘違いしないでよね!?」
勘違いもなにも、そんなことは重々把握している。
しかし、強く、気高く、孤高の存在とか。それはいったい誰のことだ?
もし私のことをそんな超人のような人間だと思っているならば、それは大きな間違いであり、完全に誇大妄想と言えよう。だから、速やかにその誤解を解こうとして、口を開く、その前に。
「神崎は、そんなに強い奴じゃないぞ?」
有村くんが、私の代わりに反論してくれた。
まさに、我が意を得たり。そう、私はそんなに強くなどない。
補足することも皆無だったので、口出しすることなく、有村くんに全て任せることにする。
彼は信用に足る男だ。全幅の信頼を委ねて、大人しく後方待機。
開きかけた口を閉じると、まるで甘いものを食べたかのような幸福感を感じた。
それを飲み込むと、胸の奥がジンと熱くなって……自分が嬉しさを覚えたことがわかる。
有村くんが、私の胸中を代弁してくれている。
そのことが、堪らなく嬉しかった。感激だ。
とはいえ、そうやって喜んでいると、必ずしっぺ返しが待っているもので。
「神崎はな、ある日突然うんこを漏らして逆ギレしたり、犯罪紛いの妄想を人に聞かせて愉悦を感じたり、実は大痔主だったりと、とても不安定で脆い、メンヘラ女なんだよ」
や、やりおった……この男!
えっ? なにこれ? 何がなんだか、わからない。
どうして私は、まだ大勢の生徒が残っている放課後の教室で、あることないこと言われなきゃならないんだ?
というか、ほとんどがこの勘違い男の虚言だし。ふざけんなよ、誤解されるだろうが。
しかも、メンヘラとか。勝手に新しい属性付けんなよ。もうやめてくれ。
ここまで来るともう怒りとか通り越して、私は祈っていた。
どうか、嘘だと言ってくれ、有村くん。お願いだから、これ以上私を傷つけないで。
もちろん、そんな心からの祈願などお構いなしに状況は進んでいく。無論、悪い方向に。
「へっ? な、なにそれ……誰の話?」
「なんだ、鷹宮。神崎の生態について、何も知らなかったのか?」
「う、嘘よ……神崎直が、そんな精神疾患者みたいなことするわけ……」
「ところがどっこい、嘘じゃない。な、神崎?」
話を振られても、私のカラカラの口は何も発することが出来なくて、ただ掠れた呻きを漏らすだけ。
「ほらな、神崎もそうだって言ってるだろ?」
なに言ってんのこの男は。私は何も言ってない。
あうあうって喘いでいただけだ。勘違いはもうやめて。
さっきまでの冴えた共感力はどこに忘れてきた?
ちゃんと私の気持ちを代弁してから、さっさとくたばってくれよ頼むから。
使い物にならない口の代わりに、そんな殺意の念を送るが、全然彼は気づいた様子がなくて。
「とにかく、そういうことだから、神崎のことはそっとしといてやってくれ」
なんだか良い感じに話をまとめて、切り上げやがった。
要するに、可哀想だからそっとしておけってことか? ふざけんな、人を病人扱いするんじゃない。
ん? なんだその顔。まるで、神崎のこと守ってやったぜ、みたいな。苛つくからやめろ。
お前は私の株を上場廃止にした挙げ句に多額の負債を背負わせただけだろうが。
ぜんっぜん、わかってないんだもんなー……どうしましょ。
破産申告をして民事再生法を利用するか? いや、債権者が見つかるとは思えない。
もう、駄目かもなー私の高校生活終わったかもなーさよなら、我が青春。ただいま、ぼっち生活。
というわけで、これにて高校時代編は完結して、高校中退からのぼっちニート編がスタートです。きゃっほーい!
「そんなの、この私が認めない!!」
マジで精神が崩壊してヘラヘラし始めた私の遠い耳に、火花のように刺激的な金切り声が届いた。
その絶叫で我に返り、焦点の合わない視線をなんとか声の方へと向けると、そこには火花姫が居て。
ふーふー荒い息を吐きながら、ぎらついた目から火花を飛ばして、再び雄叫びを上げた。
「もしも今の神崎直がそんな狂人になっているんだとしたら、それは全部あんた達のせいよ!!」
そう怒鳴り散らして、周囲を威嚇するように睨めつけ、鷹宮さんは私に猛然とタックル……もとい、抱きしめてきた。
身長差があるので、傍から見れば私が彼女を抱きしめているようにしか見えないだろう。
それでも、彼女の細い腕は痛いくらいに私の腰を締め付けていて、自分が守られているのだと実感する。
私の胸に片頬を埋めながら、鷹宮さんはまるで母猫のような苛烈さで、外敵に立ち向かう。
「有村秋も、瀬川灯も、そしてそこの薄汚い豚も!!」
あ、吉田くんが死んだ。
とても幸せそうな顔をして、安らかに息を引き取った。
「どいつもこいつも、神崎直に余計なことして、私の憧れを汚して、絶対に許さないんだから!!」
なんか憧れとか言われてしまった。
とはいえ、照れている暇などもちろんなくて。
鷹宮さんの言い分に、有村くんと瀬川さんが矢継ぎ早に反論する。
「だから、それは鷹宮の夢物語なんだって!」
「自分の理想をなおちゃんに押しつけないで!」
「うるさい! 私がこれまでどんな思いで高校生活を過ごしてきたか、あんた達にわかる!?」
彼らを一蹴して、鷹宮さんは自らの心中を、吐露した。
「なんとか同じ高校に入学して、奇跡的に神崎直と一緒のクラスになれて、嬉しいけどそれを表に出さないように我慢して、この女を見返したくて、認めて貰いたくて、友達も作らず、お昼ご飯も独りで食べて、勉強も独りで頑張って、もっと強く、もっと気高くなろうって必死に、がむしゃらに、そうしたら近づけるんじゃないかって、そうしたら今度は対等な関係になれるかもって、ただそれだけを考えて、毎日毎日毎日、神崎直ばかり目で追って、神崎直の真似ばかりして、この女みたく格好良くなりたくて、この女ことだけをずーっと考えてきたの!!」
感極まって、涙を零しながら独白した、鷹宮怜奈。
その内容は極めて重く、重大なことであり、当事者の私に口を挟む余地はない。
教室内の生徒も皆、ひそひそ話をやめて、真剣に聞き入っていた。
有村くんも、ただ黙って、耳を傾けている。
そしてぶっ倒れた吉田くんに寄り添う瀬川さんに至っては、青ざめた表情で涙を流していた。
彼女に抱かれている私には、鷹宮さんの表情は見えない。
だが、制服を濡らす涙、濡れた声、そして身体から伝わる震えによって、どんな顔をしているのかわかる。
きっと、必死なのだ。それを見た瀬川さんがつられて泣いてしまうくらいに、本気なのだろう。
そう思うと、私の鉄で出来た胸にも、振動が伝わってくる。心を震わせ、そして奮わせる力を、ひしひしと感じた。
たぶん、この子の一番の魅力は、こうしたカリスマ性なのだろう。
リーダーとして先頭に立ったり、人を導いていく才能に、満ち溢れている。
だからこそ、彼女の演説は、誰にも止められない。
「それなのに、神崎直は高校に入学してすぐに瀬川灯と友達になった!!」
火花姫の怒りの矛先が、瀬川さんへと向かう。
びくっと、彼女が身を竦めるのが見て取れた。
そんな気の弱い柔花姫のことを、火花姫は容赦なく責め立てる。
「瀬川灯と仲良くなるにつれて、神崎直はどんどん普通になっていった! 孤高で気高い存在じゃなくなってしまった! それでも私はなるべく気にしないように目を瞑った! どうしてだかわかる!?」
「わ、わからない……」
「それはそれで可愛かったからよ!!」
「えっ?」
「入学当初はかなりダサかったのが、瀬川灯のおかげでいくらかまともになったから見逃したの!!」
おい。なんだそれ。ただの悪口になってないか?
ていうか、入学当初の私はどんだけダサかったんだ?
うっわ、なんか変な汗出てきた。勘弁してくれよ。
有村くんといい、どうして皆、私を傷つけるんだ。そっとしといてくれないかな、本当に。
容赦なくボコボコにされて、なんとも言えない気持ちになっている私をよそに、火花姫は今度は有村くんを叱った。
「一番の問題はあんたよ、有村秋!!」
「なんで俺が問題なんだ?」
「男であるあんたに神崎直が声をかけたのが許せないの!!」
「おいおい、そんなこと言われても困るぜ」
「意味もなく格好つけんな変態!!」
「へ、変態は関係ないだろ?」
「関係ないわけないでしょ!? あんたのおかしな趣味のせいで、あたしがどれだけ迷惑したと思ってんの!?」
「俺はお前に迷惑なんてかけた覚えはない。下剤だって結局飲んでくれなかっただろ?」
「飲むわけないでしょ!? だったら、ランドセルのことはどう落とし前つけるつもりよ!?」
「あれはお前が勝手に俺の好みを誤解しただけだろ?」
これに関しては自分にも非があると認めざるを得なかったようで、鷹宮さんは咳ばらいをして誤魔化した。
「とにかく! あんたが神崎直をおかしくした張本人なの!!」
「決めつけは良くないぞ、俺が被害者かもしれないだろ?」
「うっさい! いい加減なことを言うな! この変質者!!」
「おいこら、さすがに変質者はやめろ。変態のほうが遙かにマシだ」
気を取り直して、これまでの鬱憤を晴らすかの如く、罵倒しまくる鷹宮さん。
そんな火花姫の火球をヒラリヒラリと躱わす有村くんの飄々とした態度は、私から見てもムカつく。
先ほどの虚言も相まって、心の中で鷹宮さんを応援していると、話はどんどん掘り下げられて。
「んなことどうでもいいのよ!! 私があんたに言いたいのは、神崎直と関わるなってことだけ!!」
「そう言われてもな。それでお前は痛い目を見たんだろ?」
「だからこそ余計にムカついてんのよ!! あんたみたいな変態は、女なら誰でも良いんでしょ!?」
「そんなことはない。俺の好みは、膨らみかけの中学2年生だ」
「だからそれがおかしいって言ってんのよ!? つーか、だったら私でもいいでしょ!?」
ついに、確信に辿り着いた。これこそが、目下もっとも気になる話題である。
たぶん、鷹宮さんは気づいていないかも知れないが、これは所謂、告白である。
高校生活において、これ以上に大きなイベントはあるまい。俄にクラスが騒がしくなった。
そんな連中の様子に首を傾げた鷹宮さんの身体が、びくっと竦んだ。ようやく、気づいたようだ。
私の腰に回す手の力がぎゅっと強まって、彼女が待ってと、口にするその前に。
「ほほう? 鷹宮は、俺のことが好きなのか?」
有村くんが何やら顎に手をやって、ニヤニヤと値踏みするようにそう尋ねてきた。
現在、私は鷹宮さんに抱かれているので、彼のそのいやらしい視線がこちらを向いている。
なんとなく、からかっていることは伝わった。この男は恐らく、本気じゃない。
しかしながら鷹宮さんは冗談が通用するタイプではなく、彼の問いかけに息を呑んで、真面目に答えた。
「あ、あんたのことなんて、大嫌いに決まってんでしょ!?」
それはもう完全に、言ってることがおかしい返事だった。
前後の文脈が、めちゃくちゃだ。
より簡潔に解説するならば、私と付き合って→俺のこと好きなの?→嫌いに決まってんでしょ!?と、まあ、こんな感じになる。誰が見たって、おかしいと思うだろう。
たぶん、鷹宮さんの性格から察するに、素直になれなかったのだと思われる。
そう私は解釈したのだが、どうも有村くんの解釈は異なるようで。
「だったら、俺は鷹宮とは付き合えない」
「な、何を偉そうに……」
「いいか、鷹宮。好きでもない相手と付き合おうとするな。もっと自分を大切にしろ」
先ほどとは一転して、すごく真面目な面持ちで、彼はそう諭した。
そんないつになく厳しい有村くんに違和感を覚える。
大嫌いと言われたのが、そんなに悔しかったのだろうか?
いや、彼はそういうタイプではない。きっと、何かしら意図があっての言葉に思われた。
そしてそれを示すかの如く、鷹宮玲奈は身を強張らせて。
「……軽率なこと言って、ごめんなさい」
なんと、自らの非を認めた。
まさか、この火花姫の口から謝罪の言葉を引き出すとは。
何がなんだかさっぱりだが、この有村秋という男は、やはり侮りがたい存在だ。
改めて、私が彼に戦慄を覚えていると、鷹宮さんがやや強引に話を戻した。
「と、とにかく、私が謝ったんだから、有村秋も少しは反省しなさい!!」
「俺が? なんで?」
「おかしなことばっかり神崎直に吹き込んで、汚さないでってこと!!」
「いやいや、神崎は最初っから汚れまくってたぜ?」
「そんなことない! もしそうだとしても、私が綺麗にしてあげるんだから!!」
失礼な有村くんの言葉を拒絶して、私の胸に顔を埋める鷹宮さん。とっても可愛い。
もうすっかり火花姫の威厳は失われており、完全に一人の少女と化していた。
初めて見る彼女の素顔は、とても頑固な、わがまま姫だった。
とはいえ、頑固さにかけては私の方が上である自覚はあるし、女など皆、わがままなものだ。
だからそんな彼女を見ても少しも好感度が落ちることはなく、ただひたすらに愛おしいと思った。
今日は思いがけず、鷹宮さんについて色んなことが知ることができた。
彼女が私のことをどう思っているのか、そしてこれまで何を考えてきたのか。
基本的に白黒はっきり付けたい私としては、今日の独白は願ってもない展開と言えた。
しかし、その心中を聞いても彼女の全てを理解することは出来なかった。
明らかになった謎もあったけれど、謎が謎を呼ぶ台詞も、多々見受けられた。
だが、人間が使っている言語など、案外そんなものかなのもしれない。完全ではなく、不完全なのだ。
だからこそ、伝わらない部分もあるし、誤解を招くこともある。深追いは禁物だ。
一番気をつけなければいけないことは、都合良く解釈しないこと。それが大事だろう。
だから私は、先ほどの独白のことなんて綺麗さっぱり忘れて、鷹宮玲奈に頬ずりをした。
「鷹宮さんのほっぺ、すっごく柔らかいわね」
「うぎゃっ!? な、ななな何すんのよ神崎直!?」
「ほらほら、憧れの神崎直ですよ~」
「や、やめなさいよ!? もし唇が当たったらどうすんの!?」
「ん? 鷹宮さんは、憧れの神崎直とキスがしたいの?」
「んなこと、ひとことも言ってないでしょ!?」
「大丈夫。怖くない怖くない。ほら、目を瞑って」
「へっ……ほ、本当に……?」
「なーんちゃって」
「ぶ、ぶっ殺す!! やっぱり私は神崎直のことが大っ嫌い!!」
よしよし、これでいつも通りだ。
さて、大嫌いと言われたので、是非ともあの男にお裾分けしてあげよう。
「有村くん」
「ん? なんだよ神崎、お礼なんて水臭いことはやめてくれ」
「大っ嫌い」
「おいおい、照れてんのか?」
「もう有村くんのことなんか知らない」
「お前さ……そういうのは、笑いながら言ったら台無しだろう?」
よし、とりあえずこれで溜飲は下がった。余は満足じゃ。
これ以上何を言っても彼には無駄だろう。本気じゃないことは見抜かれてるし。
なので最低最悪な有村くんのことは捨て置いて、今度は瀬川さんに声をかける。
「瀬川さん、大丈夫?」
「うん……ごめんね、なおちゃん」
「謝る必要なんてないよ。でも今日は、鷹宮さんと一緒に帰らせて?」
「わかった……私は、余計な口出ししない」
「そんなこと言わないで、思ったことがあったら何でも言って」
「ん……でも、今日は、我慢する」
「ありがとね、瀬川さん」
なんていい子なんだ。健気な瀬川さんに感動。
というか結局、浮気を許して貰ったみたいになってしまった。
そう考えると、自分が悪女のように思えてきて、後ろめたくなる。
いや、でもさ、そもそも私は瀬川さんと付き合ってるわけじゃないんだよ。
私はノーマルだし、瀬川さんもノーマル、そして鷹宮さんもノーマル。
そんなすこぶる健全な我々がドロドロの三角関係を築くこと自体が、間違っている。
それぞれお互いに、清く、正しく、美しい関係を築いていくべきだろう。昼ドラ、ダメ、ゼッタイ。
という自分勝手な解釈をしつつ、自分本位な結論を出してすっきり爽快な気持ちで、意気揚々と。
「それじゃ、帰ろっか、鷹宮さん」
「に、にやにやしないでっ!」
「おっと、こりゃ失敬」
こんな修羅場の後だというのに、私ったら、にやついていたらしい。
反省しながらも、やっぱり嬉しいものは嬉しくて、はにかんでしまう。
ハーレムモノのラノベの主人公とは、こんな感じなのだろうか。
主に有村くんのせいで酷い目に遭ったことは間違いないが、その何倍も幸福な気持ちになれた。
そんなふわふわした気持ちで、鷹宮さんを伴って数歩進んで、ふと気づく。
「そう言えば、いつまで私に抱きついているの?」
「……公園まで」
はいはい、仰せのままに。お姫様。




