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ラブコメは刺激臭と共に  作者: 天秤
第1章 【高校時代】
30/60

第30話 『大馬鹿者』

「見損なったわ、有村くん」

「藪から棒にどうしたんだ神崎。顔が怖いぞ?」

「黙らっしゃい。ネタは全て上がっているのよ」


 鷹宮さんの被害届を受理した私は、その日の部活で有村くんを叱りつけた。

 彼はしらばっくれているようだが、そうはいかない。確固たる証言が存在しているのだ。

 それに加えて、私の秘密についても彼は外部に漏らした。そのことに関しても許しがたい。


「鷹宮さんが、あなたに下剤を突きつけられたと言ってたわ」

「それは誤解だ。俺はただ、あいつが便秘で悩んでいるんじゃないかと思って……」

「そんな言い訳にもならない戯れ言は聞きたくないわ」

「ちっ……神崎は頭が固すぎるぞ」

「鉄花姫なのだから、当然でしょ?」


 彼のお粗末な弁明を切り捨てると、頭が固いと言われた。本当に失礼な男だ。やんなっちゃうわ。

 なので、自分のお気に入りのあだ名を引き合いに出すと、彼は命名者である吉田くんを呼びつけた。


「おい、吉田! お前が変なあだ名を付けたせいで神崎がその気になっちまったじゃないか!!」

「でも、神崎さんにぴったりなあだ名じゃん」

「ぴったりだからこそ問題なんだろうが!?」


 まったく、不利を悟って責任転嫁しつつ論点をずらそうなどと、本当にがっかりだ。

 とはいえ、彼を更生させるのは私の宿願でもある。途中で問題児を放り出すような真似はしない。

 だからこそ、今日は厳しく、彼に教育を施そうと、決意していた。


「有村くん、女の子に下剤を飲ませようとするのはもうやめて」

「だったらお前が代わりに飲んでくれるのか?」

「は?」

「ほら、実は今日も持ってきているんだ。やめろと言うなら、お前がこれを飲んでくれ」


 そう言って、白い錠剤をこちらに突き出す有村くん。この男は、本当に、頭がおかしい。


「飲むわけないでしょ。だいたい、それを飲ませてどうするつもりなの?」

「腹痛に喘ぐお前の顔が見たい」

「本当にどうしようもない変態ね」

「ぶひいいいっ! 鉄花姫の本気の罵倒、しびれるっす!!」


 有村くんとやりとりしてたら、何故か吉田くんがしびれはじめた。

 近くでカードゲームをしながらこちらの様子を伺っている瀬川さんも、気が気ではない様子。

 このまま変態有村くんを野放しにしておけば、周囲への被害が拡大する危険性がある。

 早い段階で収束出来なければ、非常事態を布告せねばならない状況に陥ってしまう。

 よって、これ以上犠牲者を増やさない為にも、速やかに手段を変える必要があると、判断した。


 では、どうすれば変態を大人しくさせられるか。それが問題だ。

 きっと、私が頭ごなしに否定するから、有村くんもむきになって反論してくるのだろう。

 ならば、ここはこちらが大人の対応をするべきだ。柔軟な応対で、彼を矯正する。

 その為にはまず、相手に歩み寄る姿勢を見せる必要がある。無論、歩み寄る振り、ではあるが。

 譲歩すると見せかけて、警戒心を解くのだ。ここが私の腕の見せ所である。やってやんよ。


 だから私は、自分の過去の経験を、彼に話して聞かせることにした。


「有村くん、聞いて」

「……どうせ、俺が間違っているとか言うんだろ?」

「そうじゃない。実は私も……少しはあなたの気持ちがわかるの」

「なにっ!? それは本当かっ!?」

「ええ。あれは、まだ私が中学生だった時のこと」

「ふむふむ。つまり、神崎が一番可愛かった時代だな」

「今は可愛くないみたいな言い方はやめて」

「いいから、続きを話せよ」


 まったく、これだからロリコンは。

 ともあれ、中学時代の私に興味津々らしい彼は、真剣にこちらの話に耳を傾けた。


「その頃の私は、発育が悪くて悩んでいたの」

「ほう……発育、ねぇ」

「もっとも、身長は今と大差ないけれど」

「ということは?」

「そう、身体の発育が……遅かったのよ」


 話しながら、妙な気持ちになる。まさか、誰かにこの話をする時がくるとは、思わなんだ。

 少しばかり気恥ずかしいが、これも彼の為だ。洗いざらい話してやろう。


「いつまでも平らな自分の胸を嘆いた私は、連日大量の牛乳を一気飲みしてたの」

「それは逆に身体に悪そうだな」

「その通り。決まって、お腹を壊す羽目になった」

「火を見るよりも明らかだな。それで?」

「あまりに頻繁にお腹を壊すものだから、だんだんトイレに行くのが面倒になってきたのよ」

「まあ、尻も痛くなるだろうしな」

「汚いことは言わないで。それで私はいつしか、限界まで我慢するようになった」


 茶々を入れられながらも、なんとかここまで話した。頑張ったぞ、私。偉い。

 先に結論を述べると、我慢する苦しみや、そのリスクについて説こうとしていた。

 幸い、私は失敗したことはないが、限界を越えてしまった場合、大変なことになる。

 そんな恐怖心を語って聞かせる前に、この男ときたら。


「それは良くないぞ、神崎」

「はい?」

「限界まで我慢するとか、なに考えてんだ。さっさとトイレに行けよ」


 お、お前がそれを言うかっ!? あーもう、キレそう。


「ん? どうした神崎、顔色が悪いぞ」

「……ええ、ちょっと気分が優れなくて」

「それみろ! うんこを我慢するから痔になっちまうんだ! まったく、やれやれだぜ」


 駄目だ。こいつは生かしておけん。


「勝手なことを言わないで!! 私は痔になんかなってないっ!!」

「おいおい神崎、大声を出すと尻穴に負担がかかるぞ」

「だから、どれだけ負担がかかろうが私のお尻の穴は……!」

「お尻の穴が、なんだって……?」


 激高して我を忘れていると、背後に殺気を感じた。

 戦慄が走り、声の方を振り向くと、そこには笑顔の早乙女先生が。

 しかし、目が笑ってない。明らかに、怒っていらっしゃる。

 持ち前の小柄さを武器に、ステルス状態で後方に占位された私は、集中砲火を食らった。


「さっきから尻穴だの痔だの、うるさいんだよお前らっ!!」

「も、申し訳ありませんっ!!」

「そんなに尻穴に興味あんだったらこの場であたしが脱いでやんぞ!?」

「か、勘弁してくれよ頼むからっ!!」

「有村ぁ!! それはどーゆー意味だこらぁっ!?」


 平謝りする私と有村くん。彼はぺこぺこ頭を下げて謝罪を繰り返す。

 私は後方に占位されているので、頭を下げられない。そして現在進行形で執拗に攻撃をされていた。

 狙われたのは、私の可愛いお尻。早乙女先生は、こともあろうに私のヒップを鷲づかみにしたのだ。

 これにはさすがにどうしようもなくて、ただ謝ることしか出来なかった。完全にセクハラである。


「せ、先生、痛いっ! 痛いですってば!?」

「あん? じゃあ、気持ちよくしてやろうか?」

「ひっ!? な、なに考えてんですか!?」

「ひゃひゃひゃっ! なんだ神崎、良い声出すじゃねーか!! ほれ、もっと鳴けっ!!」


 調子に乗って私のお尻を揉みしだくセクハラ女性教師。いつかぶっ飛ばす。

 しかしながら今の私は無力で、どうすることもできない。

 一縷の望みをかけて有村くんに救いを求める視線を送るが、彼は食い入るように早乙女先生のいやらしい手つきを見つめている。

 他の男子生徒も、似たようなものだ。皆、固唾を飲んで事態を見守っていた。誰か助けろよ。

 吉田くんに至っては鼻血を垂らしている。あいつはあとでお仕置きせねば。

 そんな衆人環視の中で、変態早乙女茜先生はあろうことか私のスカートを捲り上げて。


「なおちゃん、大丈夫!?」

「せ、瀬川さん……!」

「もう平気だよ。私が守ってあげるからね」


 貞操を奪われることを覚悟した私を救ってくれた天使は、瀬川さんだった。

 彼女の柔らかな胸に抱かれて、ようやく魔の手から逃れることができた。

 思わず、その細い腰に手を回して、しがみつく。やはり、全然太ってないではないか。


「瀬川さん、ありがとう……ありがとね」

「なおちゃんは私の大事なお友達だから、助けるのは当然のことだよ」

「……好き」

「私もなおちゃんが大好きだよ~」


 なにこの子。素敵すぎ。

 もう完全にフォーリンラブだった。私は瀬川さんを、愛してる。

 そんな永遠の愛を誓い合った我々は、別の意味で注目を集めているようだが、構うものか。

 このまま、いつまでも彼女の温もりを感じていたいと、そう思っていると。


「なんだ、瀬川も尻を触って欲しいのか?」

「ひゃんっ!?」

「ほれほれ、たくっ……だらしないケツしやがって。けしからんな」

「けしからんのは先生のほうでしょうがっ!?」


 いつの間にか瀬川さんの後方に回っていた変態忍者、早乙女茜。

 私と同じように瀬川さんのお尻を揉んでいるところを、現行犯逮捕。

 子供みたいに細い、その魔の手を掴むと、彼女はキレた。


「いってーな!? 離せよっ!! あたしはせんせーだぞ!? 公務執行妨害だぞ!!」

「生徒の臀部を触ることは公務ではありません」

「うっせぇ!! あたしが触りたい時にガキ共のケツ触って何が悪い!!」

「悪いに決まっているでしょ。だいたい、先生は女なんだからこういうことはやめて下さい」

「女だからこそ捕まらずにガキの尻が揉めるんじゃねーか!! 当然の権利だ!!」

「……最低」


 もう話しているだけで心が穢れそうなので、やむを得ず、解放。

 早乙女先生は掴まれた手を大げさに庇い、痛がって、信者の介抱を受けている。


「これはこれは、先生。お勤め、ご苦労様でした!!」

「おう。まあ、ちょっと手首をやっちまったがな」

「名誉の負傷ですね。まさか、あれだけの武勇を見られるなんて」

「ま、ガキ相手だからな。ちょっとは加減してやったぜ」

「おお! ということは、本気になったらもっとすごいんですね!?」

「あたぼうよ。次はパンツをひん剥いてやっから、楽しみにしときな」

「うおおおおおお!! さすが我らが早乙女先生!! 遊戯部の女王!!」


 信者共々、ろくなもんじゃない。下衆の集まりだった。

 パンツなんか剥かれて堪るか。瀬川さんも同じ気持ちらしく、しっかりスカートの裾をガード。

 とにかく、ムカついたので、今日は早めに帰ることにする。


「なんだ、神崎。もう帰るのか?」

「うん、有村くんと早乙女先生のせいで酷い目に遭ったし」

「俺は別になにも……」

「それより、鷹宮さんのことだけど」

「なんだよ?」

「いくら彼女があなたの好みだからって、無茶なことはしないであげて」


 分からず屋の有村くんに、一方的に釘を刺しておく。グサッと、深々と、打ちつける。

 この勘違い野郎に真意が伝わるとは思えないが、とりあえず言うべきことは言っておいた。

 すると、彼はにやりと笑って、こんなことを言ってきた。


「鷹宮は、神崎のことが気になるみたいだぞ」


 何を今更。そんなことは重々承知している。


「だから、なに?」

「だから、お前が年下好きだってことを教えてやった」


 なるほど。どうやら、この男なりの言い訳らしい。

 しかし、どういう意図があろうと、秘密を漏らしたことには変わりない。

 きっと睨んで、私は彼を咎めた。


「余計なことしないで」

「余計なことじゃない。いいか神崎、よく聞け」

「なによ?」

「本人に直接なんでも聞ける奴なんて、そうそういないんだぜ?」

「だからって、人の秘密を……」

「だから俺が、鷹宮に教えてやったんだよ」


 そこまで言われて、ふと冷静になった。

 私のことが気になっているらしい、鷹宮さん。

 それはてっきり、有村くんとの関係が前提の話だと思っていたが、どうも違うらしい。

 彼の言い方だと、鷹宮さんが私のことを知りたがっていたかのように聞こえる。

 そしてそんな彼女を見かねて、有村くんは仕方なく、話してあげたと。


「……そんなの、詭弁だわ。間違ってる」

「まあ、本人に直接聞くのが、正しいよな」

「わかっているならどうして……!」

「だからさ、神崎。何度も言うが、皆がお前みたいにズケズケ踏み込めるわけじゃない」

「わ、私だって……!」


 私だって、この数日色々と悩んでいたのに。

 聞きたいけど、聞けないことを我慢したりもした。その気持ちくらい、わかる。

 それなのに、どうしてこの男はわかってくれないのか。

 鷹宮さんが私のことを知りたいのなら、尚のこと、彼女に直接聞いて欲しかった。


 とはいえ、この鈍感男には何を言っても無駄だろう。完全に人外の地球外生命体なのだ。

 だから私は、もう一度、念を押して、釘を刺すことにした。


「とにかく、鷹宮さんにこれ以上変なことしないって約束して」

「約束したら、全部許してくれるか?」

「……わかった」

「お前が痔主だと見破ったことも?」

「……もういい」

「わ、わかったよ。約束するから、水に流せって、な?」

「……馬鹿」


 ここまでコケにされても、許してしまう私が。

 この後、結局彼と一緒に帰り、いつもの公園に連れ込まれる、私が。

 誰よりも大馬鹿者であると……そう思った。

そう言えば、年の瀬ですね。

皆さん、良いお年を!

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