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ラブコメは刺激臭と共に  作者: 天秤
第1章 【高校時代】
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第28話 『姫同士のバトル』

「有村秋」

「おお、鷹宮。どうした?」

「今日も私と一緒に……」

「待って」


 次の日の放課後、昨日よりも赤い顔をした鷹宮さんが有村くんを誘いにやってきた。

 しかし、そうはさせない。もう私は寂しくてたまらないのだ。

 鷹宮さんの台詞を遮る形で悔い気味に待ったをかけた。

 すると、邪魔をされた鷹宮さんはキッこちらを睨んで、静かに怒気を吐き出した。


「……なによ神崎直。引っ込んでてって、言ったでしょ?」

「言われたけど、どうしても有村くんに伝えたいことがあって……」

「ふん。見苦しいわよ、神崎直。あんたは大人しく独りで帰れば……」

「なんだ、神崎。俺になにか用か?」


 鷹宮玲奈の叱責を押し除けるように、有村くんが助け船を出してくれた。

 良かった。少なくとも、彼には私の話を聞くつもりがあるらしい。

 これには流石に鷹宮さんも口出し出来ないようで、悔しげに黙りこくった。

 降って湧いたこの上ない好機。このタイミングしかないと思い、私は自分の気持ちを彼に打ち明けた。


「寂しい」


 たった、一言。それだけを彼に伝えた。

 私のコミュ力のなさが浮き彫りとなって、少々不甲斐無い。

 そして言葉自体には飾り気がなく淡泊ではあるが、その分、様々な思いが含まれていて……ちょっと湿っぽくなってしまった。

 何故だか、鼻の奥がツンとしてきた。そんな自分に戸惑いながら、彼の返事を待つ。

 有村くんはそんな私をじっと見据えていて、鷹宮さんはポカンと口を開けて呆然としていた。

 たぶん、今の私はこれまでしたことがない表情を浮かべているだろう。

 残念ながらこの場には鏡がないので、どんな表情なのかは定かではないが、驚かせてしまったようだ。

 重苦しいその沈黙の中、私は彼に思いが伝わらないかも知れないと不安になったが、杞憂だったようだ。


「鷹宮」

「えっ? な、なに?」

「神崎が寂しがるから、お前とは一緒に帰れない」


 きっぱりと鷹宮さんのお誘いを断って、彼は私の肩を抱いた。

 あまりに突然の不意打ちで動転して反応出来ないノロマな私だが、素直に、その行動を嬉しく感じた。

 嬉しかったので、もし仮に彼がトイレに行って手を洗わない男子だったとしても、この際、構わないと思えた。無論、あとから考えたらやっぱり嫌だけど、この時だけは好きにしてと、そう思ったのだ。

 なので、肩を抱くその手のひらを振り払うことなく、身を預けて大人しく抱かれることにする。

 ちらりと背の高い彼の顔を見上げると、優しげに口の端をつり上げてきた。

 その微笑みを見た瞬間、何故か胸が高鳴り、それ以上彼を見ることが出来なくなった。

 咄嗟に視線を下げると、呆然とこちらを見つめる鷹宮玲奈と目が合った。

 私はそんな彼女から視線を逸らさず、有村くんを促す。


「有村くん、帰ろ」

「ああ、部活はどうする?」

「今日はいい。公園に寄って話がしたい」

「おう。わかった」


 そのやり取りを聞いた鷹宮玲奈の顔色がどんどん真っ赤になっていく。

 彼女の憤りがひしひしと伝わってきて、刺激臭が辺りに充満するのがわかった。

 そんな鷹宮さんに背を向けて立ち去る間際、私はぺろっと舌を出して、おどけてみせた。

 何故そんなことをしたのかは自分でもわからないが、勝利の美酒に酔っていたのだろう。

 生まれて初めてのあかんべーを見せつけられた鷹宮玲奈こと火花姫は、烈火の如き咆哮を上げた。


「神崎直~~~~~!!!!」


 鷹宮玲奈の金切り声は凄まじく、教室に残っていた野次馬は揃って耳を押さえるほどだった。

 しかし、そんな彼女のクレームは、受け付けない。有村くんは私と帰るのだ。

 気にせず野次馬を掻き分けて、彼と廊下へ出る。同時に、教室内が騒がしくなった。


「鷹宮といい、騒がしい連中が多いクラスだな」

「当然でしょ。姫同士のバトルなんだから」

「は? なんだそりゃ」

「三大美姫の一角と下校出来ることを光栄に思いなさい」


 どうやら有村くんは私と鷹宮さんのあだ名を知らないらしい。

 当然、瀬川さんのあだ名についても知らないだろう。無知な男だ。

 すっかりお姫様気分で偉そうにする私を見て、彼はくすりと笑い。


「それは光栄なこって」


 私の肩を抱く力を少しだけ強めてくれたのだった。


「それでね、やっぱり男の子は背が小さいほうが可愛いと思うのよ」

「でも、そんなガキでも一応は英雄の力を秘めているんだろ?」

「もちろん。その気になったらすごいんだから」

「つまり、男は強くないと魅力的じゃないってことになるな」

「まあ、そういう側面も無きにしも非ずね」

「だったら、背が高くて強そうな男の方が魅力的なんじゃないのか?」

「無きにしも非ずと、そう言ったでしょう? 普段はひ弱な男の子がたまに見せる本気がいいのよ」

「ふーん、なるほどな……吉田みたいなもんか」

「どうしてそこで吉田くんが出てくるの?」

「そのうちわかるよ。それより、神崎」

「なに?」

「鷹宮について気になることがあるんだが……」

「鷹宮さんについて? どうかしたの?」

「あいつのあのヘンテコな髪型は、何なんだ?」

「髪型? たぶん、短めのポニーテールだと思うけど……」

「あれもポニテの一種なのか。俺はてっきりちょんまげかと思ったぞ」

「私も初めはそう思ったけど……あれはあれで可愛いわ」

「まあ、たしかに鷹宮は可愛いよな。背も小さいし、髪型もポニテだったわけだし」

「ああいう子、有村くん好きでしょ?」

「好きか嫌いかと聞かれたら、好きだな」

「ちなみに遊戯部の顧問の早乙女茜先生は?」

「ありゃ中身が終わってる。夢の無いロリババアって感じだから、無理」

「ふふっ……明日、早乙女先生に言っておくわ」

「やめてくれ。俺の尻の穴が増えたらどうすんだ」

「どういう心配の仕方してるのよ……まあ、あの先生なら、あり得るか」


 その日の帰りは、公園のベンチにて特殊な嗜好について存分に語らった。

 隣に座る私の肩を、彼は抱く。もちろん、公園に着いてすぐにトイレで手を洗わせた。

 洗ったばかりのその手からは、石鹸の香りがして、心地いい。

 そんな、これまでよりもずっと近い距離での談笑。楽しくて、仕方ない。幸せすら感じる。

 これも鷹宮玲奈のおかげかも知れない。あとでお礼を言っておくべきか。


 とはいえ、次の日の朝っぱらから、私は怒れる火花姫に呼び出される羽目になるのだが。

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