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ラブコメは刺激臭と共に  作者: 天秤
第1章 【高校時代】
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第25話 『舞い落ちた火種』

「私に、話?」

「そうよ。今日という今日はひとこと言ってやらないと気が済まないんだから!」


 乱入者は私に話があるらしい。なにやら不穏な空気だ。刺激的な香りが漂っている。

 互いに視線を交差させて、間合いを計る。まるで人嫌いの野良猫と出くわしたかのように、警戒する。

 そんな緊迫した私たちに、瀬川さんがビクつきながら口を挟んだ。


「あ、あの、喧嘩は良くないよ……?」

「瀬川灯は黙ってて」

「ご、ごめんなさい……」


 牙を剥いて吠え、瀬川さんを黙らせた、オレンジのカーディガンの女子生徒。

 これには流石にむっときた。私に対する接し方については、別にいい。こんな性格なので、知らず知らずのうちに人から恨まれることには慣れている。だが、瀬川さんにそんな態度を取るのは、許せん。


「話があるなら聞くけど、とりあえず場所を変えましょう」

「ふん。望むところよ」


 とりあえず、被害が拡大しないように場所を変えることにした。爆発物は周囲の安全が確保されたところで解体するのがセオリーである。

 ひとまずこれで、瀬川さんに飛び火することはない。不安げな彼女に視線を送り、頷いて安心させる。

 吉田くんは青ざめていて、有村くんは我関せずといった様子だ。だから、特に何も声はかけない。

 その他の生徒達は私たちのやり取りに聞き耳を立てているらしく、教室内は静寂に包まれていた。

 そんな彼らの注目を集めながら、私とオレンジの女子生徒は教室を出た。目立つのは苦手だ。

 直後、俄に騒がしくなる教室内。そんなざわめきを背中で聞きながら、廊下を歩く。


 辿りついたのは、屋上へと繋がる、あの階段だ。

 瀬川さんと喧嘩した時にここで一緒にお弁当を食べたのは、記憶に新しい。

 とりあえず座ろうかとも思ったが、オレンジの女子生徒に座る気配はない。

 だから、階段の中程で立ち止まると、小柄な彼女は私よりも二段上に上り、目線の高さを合わせてから、用件を切り出した。


「あんた、最近調子に乗りすぎ」

「と、言いますと?」

「有村秋と隣になったからって、浮かれんな」


 なんともまあ、今時こんな絡まれ方をするとは夢にも思わなかった。昭和のスケ番か、この子は。

 指摘されたのは調子に乗るなとか、浮かれるなとか。要するに、私が目障りなようだ。

 しかし、そう思うのにはそれなりの理由があるだろう。見当はついている。


 忘れもしない、有村くんと隣の席になった、あの席替えの日のことだ。

 このオレンジの女子生徒はその時に強烈な恨みを孕んだ視線を送ってきた。

 何故睨まれたかについては、考えるまでもない。きっと、有村くん関連だ。

 そして今日も私と彼が弁当を食べさせ合っている時に、こうして乱入してきた。

 それを鑑みると、たぶん、この子は有村くんのことが好きなのだろうと推察する。

 それならば、話は早い。対処も簡単で、単純明快だ。


「有村くんとは席が隣になったから仲良くさせて貰っているだけで、別に恋愛感情はないわ」


 真っ先に、その事実を伝えた。今回は中学の時とは状況が違う。誤解は解けると判断した。


「そんなこと言われても信じられない。今日だって、公衆の面前であんなにいちゃいちゃ……は、恥ずかしくないの!? あんなに破廉恥なことしといて恋愛感情ないとか、絶対ありえないから!!」


 破廉恥って、ただ弁当を食べさせ合っただけなのに。それに、いちゃいちゃした覚えもない。

 彼だって、そんなことを言われたら不本意だろう。だから私はきっぱりと否定する。


「本当に何もないの。彼は私の好みじゃないし、彼も私なんて好みじゃない。だから、気にしないで」


 これもまた、紛れもない純然たる事実だ。

 なにぶんプライベートなことなので、詳しくは差し控えたが、私と彼は互いの好みを知っている。

 有村くんはロリコンであり、それなりのサイズの胸を持つ私には興味がない。

 私はショタコンであり、背が高い彼には興味がない。

 こうも互いの好みとかけ離れた我々が、恋愛関係に発展する見込みは限りなくゼロである。

 だが、オレンジの女子生徒は疑り深い性格らしく、むぅと唸って、噛みついてきた。


「口では何とでも言えるじゃない! もしそうなら、もう有村秋と口利かないでっ!!」


 とんでもない要求をされてしまった。流石にそれは困る。彼は隣の席だし、今となっては友達だ。


「それは出来ない」

「ほらみなさい! やっぱり、あんたは男に媚びるビッチじゃないの!」


 要求を拒否すると、ビッチと呼ばれた。処女の私にその汚名は受け入れられない。

 どうしたら身の潔白を証明できるか。暫し悩んで、名案を思いついた。


「だったら、こういうのはどう?」

「なによ?」

「これからはあなたが有村くんと積極的に関われば、それで解決でしょ?」


 導き出した結論は、極々単純なものだった。

 彼女は有村くんに好意を抱いている。だから隣の席の私が目障りらしい。

 ならば、彼女が積極的に彼と関われば、それで解決だ。好きなだけ彼と過ごせばいい。

 今更、恥ずかしいから無理、だなんて言わせない。人をこうして呼びつけたのだ。

 それなりの覚悟を持って貰わないと困る。でなければ、筋が通らない。


 私の提案を聞いて、彼女はきょとんと目を丸くした。

 ややあって、意図が飲み込めたらしく、それならそれでいいか、などと呟いてやら、頷いた。


「わかった。それでいいわ。神崎直は引っ込んでてね」

「わかった。ちなみに、放課後はどうする?」

「は? 放課後って、なに?」

「私と有村くんは同じ部活で、終わったあとはよく一緒に帰るのだけど……」

「はあっ!? なにそれ! 駄目に決まってるでしょ!?」

「じゃあ、どうするの?」

「うぅ……しょうがない。私が有村秋と一緒に帰るから、あんたは一人で帰りなさい!」

「わかった。上手くいくことを祈ってるわ」


 思いの外、あっさりと話はついた。彼女も拍子ぬけした様子だ。

 ともあれ、これで私は有村くんと友人のままの関係を続けられる。

 しかし、放課後まで接触を制限されるとは。まあ、致し方あるまい。

 話が終わったので、その場から立ち去る前に、彼女にこれだけは聞いておく。


「そう言えば、聞きたいことがあるのだけど」

「なによ?」

「あなたの名前を、教えて」


 いつまでもオレンジの女子生徒と呼ぶわけにはいかないので尋ねると、彼女は憤慨して、名乗った。


「クラスメイトの名前くらい覚えなさいよ! 私の名前は鷹宮玲奈! よく覚えておきなさい!!」

「鷹宮さんね。わかった、覚えておく」

「ふんっ。それと、私はあなたのことが大っ嫌いだから!! わかった!?」


 自己紹介のついでに大嫌いと言われた。なんとも気性が荒い性格の持ち主だ。ちなみにルビの振り方なんて知らないので、名前は『れいな』と読むことを、付け加えておく。

 私の返事も待たずに、彼女はそのまま立ち去る。後頭部の短いポニテがピコピコ揺れて、可愛い。

 こうして、私の平穏な日常に鷹宮玲奈という火種が舞い落ちたのだった。

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