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ラブコメは刺激臭と共に  作者: 天秤
第1章 【高校時代】
24/60

第24話 『昼食時の乱入者』

 有村くんに秘密を打ち明けて、早数週間が経過した。

 彼は学校内では至って普通の常識人であり、自分の嗜好について闇雲に語ることはない。

 私もそれに習い、自身の劣等複合を隠して、これまで通り大人しく地味な女子高生を演じていた。

 互いに本性を現すのは、下校時のみ。公園のベンチにて、気が済むまで語りあう。

 たとえば、ついこの間、彼とこんな話をした。


「私の嗜好はセーフだけど、あなたの嗜好はアウトだと思うの」

「なぜだ?」

「だって、法律や条例に抵触するでしょ?」

「ふっ……なんだ、そんなことか。それなら問題ない」

「どうして問題ないの?」

「俺の好きなこの子は実は吸血鬼で年齢が1000歳を超えてるからだ」

「有村くん……その設定は無理があると思うの」

「お前の好きなガキだって、似たようなものだろ?」

「まあ、そうだけど……」

「ロリはロリでも、ロリババアなら法的にセーフだ。そして、お前の好きなショタジジイもな」

「ショタジジイって言うのはやめて」


 このように、彼の更生は困難を極めていたが、とりあえず気長に接していくつもりだ。

 なにより、日常生活においてその弊害が一切ないので、目を瞑るのも楽だった。見た目は好青年だし。

 というわけで特に何か不満があるわけでもなく、私は穏やかな日常を満喫していた。


 しかし、現在の私を取り巻く状況は、以前とは明らかに異なっている。大きな変化が生じていた。

 元より仲が良かった瀬川さんに加え、有村くんと、そして彼の親友兼瀬川さんの思い人でもある吉田くんとも交流する機会が出来た。

 簡単に言えば、友達が増えたのだ。とても喜ばしい変化であると言えよう。やったぜ。


 それによって普段の学校生活にどのような影響が現れたかと言えば、昼食の時間が激変した。

 私はこれまで、昼食のお弁当を食べる際は、瀬川さんと二人で仲むつまじく箸をつつき合っていた。

 そして有村くんは親友である吉田くんと一緒に弁当を食べていたらしく、席が替わってもそれは継続した。

 つまり、それぞれの友人が寄り集まり、四人で箸をつつき合うことになったのだ。


 今日もそうして、昼休みを告げるチャイムと共に瀬川さんと吉田くんがやってきた。


「なおちゃん、お弁当食べよ」

「有村、今日も机借りるぞ~」


 私と有村くんと向き合う形でそれぞれの友人が席につく。

 そうなると、当然、瀬川さんと吉田くんは隣同士になるわけで。

 それだけで、瀬川さんの白いほっぺがバラ色に染まるのが、なんとも微笑ましい。

 嬉しそうな彼女を眺めてホクホクしながら、ふと気づく。


「吉田くんのお弁当って、大きいわね」

「そ、そうでございますか……?」


 吉田くんのお弁当は、私の倍くらいありそうで、瀬川さんのと比較すると四倍相当の容量だ。

 何気なくそのことを口にしたら、おかしな敬語で返事をされた。

 どうも彼は日常的に私を怖がっている節がある。普段は別に何もしてないのに。

 ただ、恐がりながらも物欲しげな視線を送っていることに、最近気づいた。

 これはあれだ。罵倒して欲しいサインだ。瀬川さんも気づいたようで、視線で私を促した。

 やれやれ、仕方ない。瀬川さんの為に、今日もひと肌脱ぐとしよう。


「豚にはお似合いの弁当ね」

「い、卑しい豚に生まれてきてすんませんっ!!」

「吉田くんは卑しくなんてないよ! ほら、あーんして?」

「よ、よろしいのですかっ!?」

「うん。はい、どうぞ」

「あむっ! んまぁーい!! ぶひぶひ!」


 罵倒された吉田くんが大げさに私に謝り、すかさず瀬川さんがフォロー。これをマッチポンプと呼ぶ。

 しかし、今日はまた随分と大サービスをしたものだ。まさか、あーんをしてあげるとは。羨ましい限りである。

 そんな私たちの会話には混ざらず、有村くんは一人で黙々と弁当を食べていた。

 彼は瀬川さんにあーんして貰える吉田くんが羨ましくないのだろうか?

 気になったので、尋ねてみよう。


「有村くんは吉田くんが羨ましくないの?」

「ん? まあ、良い思いしてるな、とは思う」

「淡泊なのね」

「神崎は羨ましいのか?」

「もちろん、妬ましいわ」

「そ、そんなにか……」


 思ったまま口にすると、有村くんはちょっと引いている様子。

 吉田くんにも聞こえたらしく、ひっ!と、身を竦ませてガタガタ震えていた。

 瀬川さんには聞こえていなかったらしく、嬉しそうに次のおかずを彼の口元へ運んでいる。

 その表情の、なんとも幸せそうなこと。天使の頬笑みとは、良く言ったものだ。とても美しい。

 好きな人にはあんな表情を見せるのか。それがなんだか、嬉しいような、寂しいような。

 心中は複雑だが、目の保養であることは間違いないので、その恋する乙女に目を奪われていると。


「ほら神崎、あーんしろ」

「は?」

「なんだよ……俺じゃ不満か?」


 有村くんが、卵焼きをこちらに突き出している。これは、もしや。


「あ、あなたが食べさせてくれるの……?」

「ああ、嫌ならいい」

「ううん! 嫌じゃない。頂きます」


 どうやら食べさせてくれるらしいので、パクリと一口。うん、普通の卵焼きだ。

 味に関しては特に感想はないけれど。


「ありがとう。嬉しい」

「そうか。それなら、良かった」


 感謝を告げると、有村くんは満足げに笑った。本当に、普段の彼はいい人だ。

 きっと、吉田くんを妬んでいる私を気遣ってくれたのだろう。優しさが胸に染みる。

 そこまでしてくれたのなら、私としても何もしないわけにはいかない。

 あくまで私と彼は対等な関係でありたい。よって、お返しをすることにした。


「はい、有村くんも、あーん」

「いいのか?」

「うん。ほら、早く」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 流れに乗って、人生初めてのあーんを彼にする、その間際。


「神崎直っ!!」


 突然割って入ってきた何者かに怒鳴られ、その衝撃で私の特製卵焼きが床に落ちてしまった。


「ああっ! ごめん、有村くん!」

「大丈夫だ。問題なく食える」

「た、食べるんだ……」


 落とした卵焼きを即座に拾って、ひょいっと口に入れた有村くん。止める間もない程の、早技だった。

 あとで聞いたら、男子生徒の間には3秒ルールというものがあるらしく、3秒以内なら落とした食べ物を食べてもセーフらしい。お腹的にはとてもセーフとは思えないけれど、それでも彼は嬉しそうに私にお礼を言った。


「ありがとな、神崎」

「口に合って良かった。今度は落としてないのも食べて」

「おう。それなら俺のももう一つ……」

「こらぁ!! 無視すんなっ!!」


 再びそれぞれの卵焼きを交換しようとすると、乱入者にまたもや怒鳴られた。

 卵焼きに気を取られてすっかりその存在を忘れていたが、何者だろう?

 彼の卵焼きをモグモグしながら声のする方向を見やると。


「神崎直、ちょっとあんたに話があんだけど!!」


 そこにはいつか見た、オレンジのカーディガンの女子生徒が仏頂面で立っていた。

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