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ラブコメは刺激臭と共に  作者: 天秤
第1章 【高校時代】
23/60

第23話 『中身がどうあれ』

「……という、ストーリーになっているわ」

「……ん? ああ、ようやく終わったか」

「もう一回聞きたい?」

「いや、結構だ」


二度目のあらすじを語り終えて、ひといき。今回は彼もちゃんと聞いてくれたようだ。

 たぶん、人生で一番長く話した気がする。自分で話しながら手に汗握ってしまった。

 そんな私とは裏腹に、有村くんは失礼なことにあくびをして、まだ眠そうだ。

 それでも、やはり興味があるらしく、先ほどの挿絵について追求してきた。


「それで、どうしてこの挿絵みたいなことになってるんだ?」

「魔王は初め、勇者として召還された少年を魔法で女の子にしようとするのよ」

「とんでもない魔王だな」

「ええ、でも気持ちはわかるわ」

「わ、わかるのか……?」

「だってこんなに可愛いんですもの。男にしておくのは勿体ないでしょう?」

「お、おう……」

「あ、誤解しないでね。私は別に女の子が好きなわけじゃないから」

「なんだそれ、どういう意味だ?」

「だから、男の子にスカートを穿かせたり、それを捲ったりするのが好きなのよ」


 テンポ良く会話が進み、私の劣等複合の中でも特別に特殊な部分へと行き着いた。

 しかし、躊躇することなくそれを口にすることが出来た。頑張った。

 きっと、有村くんが聞き上手だからこそ、すんなり話せたのだろう。とっても気持ちいい。

 人に秘密を打ち明けるのがこんなに爽快だとは思わなかった。実に良い気分である。


 だが、有村くんはとても難しそうな顔をして、こんなことを口にした。


「神崎、それは良くない」

「へっ? なにが?」

「だってこの子、嫌がっているじゃないか」

「大丈夫。嫌がっているように見えても、身体は正直だから……」

「大丈夫なわけあるか! そんなの完全に犯罪者の発想だぞ!?」


 おやおや? 何やら、有村くんの様子が変だぞ。


「有村くん、落ち着いて」

「あっ……悪い。つい、かっとなっちまって……」

「気持ちはわかるわ。この子が可愛すぎて、熱くなってしまったのね」

「だから、違うって!」

「ふふっ……そんなに照れなくていいのに。なんなら特別にその本を貸してあげるから……」

「人の話を聞けよ!!」


 鞄からブックカバーを取り出して、再び本にカバーをする。

 人に本を貸したりするのは、初めてだ。それがこんなにも嬉しいとは、夢にも思わなかった。

 きっと有村くんだったら、大事に扱ってくれるだろう。そう信じて、彼に差し出した。


「はい。読み終わったら、返してね」

「いらない」

「遠慮しなくていいから……」

「うるさい! いいか、神崎、よく聞け!!」


 頑なに受け取ろうとしない有村くんに本をグイグイ押しつけたら、なんか怒鳴られた。


「まず第一に、俺はショタコンじゃない。だから、お前の趣味なんかこれっぽっちも理解出来ない。ショタコンな上に、し、縛った挙げ句に、ス、スススカートを捲るのが好きだと!? なに考えてんだ! 気持ち悪いんだよ、この変態犯罪者予備軍女っ!!」


 その怒声を聞き流しながら、私は全てを察していた。

 たぶん、今の私はとても穏やかな表情を浮かべているだろう。

 自分でも信じられない程、優しげな声が口から出て、取り乱した彼を落ち着かせる。


「そう……あなたも、スカートが穿いてみたいのね?」

「は?」

「身長が大きいからって、気にしなくていいわ。有村くんは綺麗な顔をしているから、ウィッグでも被って化粧をすればきっと綺麗な女の子になれると思う。この物語に出てくる、美しい魔王のようにね。もちろん、可愛さではこの少年には敵わないけれど、そんなに悲観しなくても平気よ。そうだ。今度私のスカートを……」

「絶対穿かないからな」


 言い終わる前に、そんな意地っ張りなことを口にする有村くん。

 ジト目でこちらを睨む彼は、どこか子供っぽくて、きゅんとくる。

 残念なことに彼は高身長であり、私の好みではないが、それでもきっと美人になれるだろう。

 着飾った彼を想像して、つい笑みを零すと、それを見た有村くんは盛大にため息をついて。


「まあ、いっか……機嫌直ったみたいだし」

「えっ? なんか言った?」

「何でもない。それよりも、これだけは言っとくぞ」


 聞き逃したその呟きについて尋ねると、彼ははぐらかして、真面目な顔で宣言した。


「お前の趣味は理解不能だけど、それで俺が神崎を嫌ったりすることはない」

「なにそれ、どういう意味……?」

「中身がどうあれ、お前はお前だってことだ」


 いきなりそんなことを言われても、さっぱりだ。

 意外と彼も口下手らしく、色々と言葉が足りなくて、解読するのが難しい。

 ただ、お前はお前と言われたことは、嬉しかった。受け入れて貰えたことは伝わった。

 そう言われると、彼の趣味に対しても同じことが言えると気づく。


 ロリコンな上に、催している時の表情が好きな彼の劣等複合。

 ショタコンな上に、縛ったり、スカートを捲ったりするのが好きな私の劣等複合。


 彼が私の劣等複合を受け入れるのならば、私もそうするべきだろう。

 たとえば、サンドウィッチに嫌いな物が入っていてもその商品自体は嫌いではないのと、一緒だ。

 考えてみれば、欠点や嫌な部分がない人間など、存在しない。

 それがあるからといっていちいち嫌いになっていては、人付き合いなど出来ないのだ。

 そして恐らく、ロリコンへの拒絶反応は同族嫌悪だったのだと思われる。

 だが、見方を変えれば、ロリコンもショタコンも同じ年下好きと言える。

 少なくとも、反目し合う間柄ではない筈だ。そう考えると、有村くんが同志に思えてきた。


 ここにきてまた彼に大切なことを教えられてしまった。

 私の借りは膨らむばかりだ。もう利子すらも返せる見込みはない。

 だけど、とりあえずはそんな負い目を隠しつつ、表面上は対等に接することにする。

 それは意地っ張りな私の、ささやかな抵抗でもあった。


「それなら私も、あなたの特殊な趣味について目を瞑ることにするわ」

「そうか。でもな、俺はお前を更生させるのを諦めたわけじゃないぞ?」


 にやりと笑って、そんな挑発的な言葉を返す有村くん。こちらとしても、望むところである。


「私も必ずあなたを更生させてあげる」

「出来るもんならやってみろ」

「それはこっちの台詞よ」


 結局また言い争うことになってしまったが、雰囲気はさっきとまるで違う。

 有村くんの頬は緩んでいるし、私の頬もまた、緩んでいるだろう。

 どちらからともなくクスクス笑って、笑い合って、仲直り。まるで魔法みたいだ。


 私の隣の席の有村くんは、本の中の魔王のように、魔法の才能があると、そう思ったのだった。

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