表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブコメは刺激臭と共に  作者: 天秤
第1章 【高校時代】
18/60

第18話 『藪蛇』

「さあ、食べて」

「ああ、サンキュ」


 私と有村くんは昨日来たサンドウィッチのお店に再びやってきた。

 注文内容も昨日と同じ。そして同じ席に着いて、食べ始める。

 もちろん、今回は私の奢りだ。瀬川さんと仲直りできたら奢ると約束したから、それを果たした。

 遠慮することなく美味しそうにサンドウィッチを頬張る有村くんを見て、心から良かったと思う。


 一悶着あった本日の部活は、私と瀬川さんの連携によっていつもの平穏を取り戻した。

 その結果、彼女と吉田くんの距離が縮んだように見えたので、邪魔にならぬよう、一足先に帰ることにしたのだ。

 あの分なら、きっと上手くいくだろう。そう思って、有村くんと部室を出た。


 あとで聞いたところによると、瀬川さんはかなりの引っ込み思案らしく、同じ部活に入部したはいいが、どうやって彼に話しかければいいのかわからなかったそうだ。

 遊戯部は基本的に行きたい時に行けばいい緩い部活動らしいので、たまに部室に行って遠目で吉田くんの横顔や後ろ姿を眺めていたとのこと。それで満足していたというのだから、なんともいじらしい。瀬川さんにそこまで思って貰える吉田くんは、果報者だ。

 そんな折、昨日私がやらかした、というのが背景のようだ。

 自分がなかなか話せなかった吉田くんと、昨日知り合ったばかりの私が普通に話をしている。

 そう言われてしまえば、たしかにずるいような気もしなくもない。無論、そんなつもりは全くなかったけど。


 ともあれ、今回のことを機に、2人が仲良くなってくれれば、それでいいと思う。

 そうなれば、私たちが喧嘩をしたことも良い思い出となるだろう。

 というか、私としてはさっさと彼に思いを告げればいいのにとも思う。

 瀬川さんのような胸の大きい美少女に告白されたら、どんな男子でもイチコロに決まっている。

 しかし、人にはそれぞれペースというものがある。どうやら瀬川さんはマイペースな人らしい。

 ゆっくりと、時間をかけて吉田くんと仲良くなることを望んでいるのならば、口出しはしない。

 実を言えば、少しほっとしている自分もいる。もしもすぐに2人が付き合うことになれば、淋しいもの。

 だって、瀬川さんに彼氏が出来たら、私は独りになってしまう。他に友達もいないし。

 もちろん、彼氏が出来たから疎遠になるとは思っていないけど、やはり彼氏が一番になるだろう。

 つまり、私は二の次になってしまうわけで……そうなる前に、私も好きな人くらい見つけたい。

 そんな詮無きことをつらつら考えていると、有村くんは早々とサンドウィッチを食べ終えたらしい。


「ごちそうさま」

「おそまつさま」


 そう答えながら、別に自分が作った料理ではないので不自然な返答だったと自省する。

 もしも機会があれば、今度は手料理を食べて貰って、その時こそ自然に言いたいと思った。

 とはいえ、彼に自分の手料理を振舞う機会など、あるとは思えないが。


「有村くん」

「なんだ?」

「改めて、ありがとね」

「おう。仲直り出来て、本当に良かったな」


 自分の分のサンドウィッチを食べ終えてから、改めて彼に礼を告げた。

 今回の一件で、彼には大きな借りが出来た。

 昨日の時点ではサンドウィッチを奢ればその借りを返せると思っていたが、まだまだ足りない。

 今朝だって、睡眠不足の私に寝ていいと言ってくれたし、ノートも取ってくれた。

 そして、実際に瀬川さんと仲直りをしてみて、その借りの大きさが身に染みた。

 それはとてもサンドウィッチ程度で返せるような借りではなかった。

 だから私は、彼にこう尋ねる。


「有村くんは何か悩みとかないの?」

「なんだよ、藪から棒に」

「今回のお礼に、あなたの力になりたいの」


 今回、私は彼に助けられた。だから、今度は自分が彼を助けたかった。

 そうでなければ、借りを返せない。借りたままでは、申し訳がない。

 同程度の悩みを抱えているのであれば、それの解決の為に尽力するつもりだった。

 想定していたのは、恋の悩み相談とかだ。彼にもし好きな人がいるなら、微力ながら協力しよう。

 こんな私に何が出来るのかは定かではないが、有村くんの為に何かをしてあげたかった。

 彼とて、年頃の男子だ。それも、男子高校生。つまりは、猿の筈だ。

 昨日の早乙女先生とのやり取りからも、彼が劣情を持て余しているのはよくわかった。

 だから、好きな人の一人でもいるのだろうと、そう踏んでいた。

 もっとも、それは瀬川さんの前例があるから、なんとなくそんな気がしただけなのだが。

 とにかく、その方向で私は彼に質問を重ねる。


「有村くんは、好きな人とかいる?」

「はあ?」

「もしかして、もう誰かと付き合っているとか?」


 そう口にして、あの時感じた強烈な視線が脳裏をよぎる。

 席替えの際にこちらを睨みつけた女子生徒の、強烈な恨みを孕んだ、刺激的な目つき。

 もし彼女がいるとすれば、きっとその視線の主であるオレンジのカーディガンを着た短いポニテの小柄なあの子だろう。

 しかし、そんな私の予想はあっさりと否定された。


「いや、別に誰とも付き合ってない」

「それなら、好きな人くらい、いるでしょう?」

「別に……いなかったら、おかしいか?」


 おかしいか、と聞かれてしまうと、答えに詰まる。

 別に、おかしいわけではない。そう言えば、私にも好きな人がいない。

 自分にそんな存在がいない癖に、おかしいなどとは、とても言えない。

 どうやら前提を間違えていたらしい。反省をして、質問内容を修正する。


「じゃあ、有村くんってどんな女の子が好きなの?」


 至って、普通の問いかけだと思う。特に不自然さはない筈だ。

 しかし、この何気ない質問こそが藪から蛇、いや、アマゾンの奥地に眠っていた巨大なアナコンダを引きずり出す要因となってしまった。

 あとになってつくづく思う、やめておけば良かったと。


「ほう? 俺の好みのタイプが知りたいのか?」


 有村くんの顔つきが、変わった。

 にやりと、不敵な笑みを浮かべる彼を見て、とても刺激的な香りに鼻腔を刺激されたような感覚に陥る。鼻がむずむずして、たまらない。

 なんだかよくわからないけれど、とても危険だと思った。嫌な予感が押し寄せる。

 それでも、なぜだろう。それに飛び込みたいと、思ってしまった。愚かだと、そう思う。

 だが、どうしても、知りたいと思ってしまったのだ。だって、気になるもの。


 好奇心に負けた私は、大口を開けた大蛇の口腔内に、無警戒に身投げした。


「知りたい。聞かせて」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ