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第一話 出会い

            ―鳥は今、戦場へ飛び立つ―





 ここはとある亜細亜州の紛争地域。人間の本能が最も爆発する場所。戦闘が行われているのは市街地、あちこちに砲弾の後や崩れかけているビルが立ち並んでいる。そして上空では戦闘ヘリが飛び交い、下では戦車が敵兵士と戦闘を繰り広げている。

「ぐわあ!」「ぎゃあ!」「げばあ!」

人間の断末魔の叫びが激しい銃声とともに聞えてくる。

 パシャ!

 どこかからシャッターの押す音が聞えてきた。

「よし。」

一人の少年がまだ安全な遠い所からこの戦闘を傍観していた。少年はデジタルカメラを持っていた。日本人で、彼はまだ17歳であるにもかかわらず戦場カメラマンを生業としていた。少年のポケットから携帯電話の着信音が鳴る。少年は携帯電話を取った。

「どうだチキン。いいものは取れたか?」

「そのあだ名はやめてくださいよ。でもまあいい内容のものは取れたと思いますよ。」

「そうか。どうだ生の戦争のご感想は。」

「やっぱりテレビとかでみるそれよりかなり緊張するね。怖いし、グロいし、でも実際の現場を見てみると案外エロもあるのには驚かされましたよ。」

「はははそうだろう。周りをちょっと見渡しゃ恐怖を紛らわすために自慰をやる奴はいるし難民の女を強姦する兵士もいる。あちらこちらに売春婦もいる。やはりお前にはまだ早すぎたんじゃなか。」

「そんなことありませんよ。意外と慣れました。実際の現場で戦っているといってもやっぱり所詮は他人事ですからね。ところで師匠?あんたはどこにいるんですか?」

「俺か?俺はキャンプにいる。お前の今いる所よりずっと安全なところにな。」

「え〜。ずるいっすよ。師匠もそんな所にいないで俺に師匠の腕前見せてください。」

「何を言う。誰のおかげでまだ17歳の餓鬼のお前がこんな所にいれると思うんだ。俺のおかげだぞ。俺がなんとか上のお偉方に許可とってやったんだ。だからお前はそこで戦争写真を撮ることができるんだぜ。まあいい。さっさと俺のケータイにそのデジカメで撮ったのを送れ。」

「はいはい。」

 その少年(チキンというあだ名らしい)がデジタルカメラと携帯電話をケーブルでつなぎ、送信した。

「どうですか?」

「うーん。なんか『ひねり』がねえなあ。もうちょっと戦車がずばぁんて大砲ぶっ放しているところとか写せないかねえ。迫力のある写真になる。」

「ええ?いいと思ったんだけどなあ。」

「人がアサルトライフル撃つところなんてもう業界じゃ常識なんだよ。時代遅れなんだよ。そんなの撮ったってなんにもなりゃしねえ。あ、そうだ!兵士が自慰やってるところ写したらどうだ?戦争の現状ってことでな。意外とそういうイメージが戦争には無いからなあ。結構いい金になるかもしれないぜ。」

「お、そうですねえ。それいいかもしんない。」

「だろ、じゃあさっさと違うところへ行け。いいもん頼んだぞ。」

「はい!」

電話は切れた。少年はカメラを腰にかけ、移動した。

 少年のあだ名であるチキンとは彼の中学校の頃から呼ばれ始めたあだ名である。体育はドベ、根性無しで地味な性格、そのおかげでクラスの不良からいじめられていた。

 そんな彼が何故戦場カメラマンなぞになったのかというとチキンが高校2年の夏休みの前日に彼の伯父である戦場カメラマンの『ターキー』というあだ名(本名は知らない。)で呼ばれている人がチキンの家にやってきて、

「どうだ?お前、どうせ夏休み暇だろう。俺と一緒に行かないか?」

と誘われて、チキンは夏休みの間だけターキーと一緒に戦場へ行くことにしたのだ。無論そんな危険な所に少年を行かせるなど両親が承知しない。しかし二人ともターキーに言いくるめられてしまい、仕方無く行かせることにした。また、色々なややこしい条約だの規制などもあったが、それもどうやったのか知らんがターキーはそれらを一蹴して結局一緒に戦場に来てもいいということになった。

 チキンも戦場に行くということでかなり不安だったが、戦場というものに対する物珍しさというものがあったので、ついていくことにした。

 そして実際に日本国を出発し、亜細亜州のどこかの国の中で行われている民族紛争の取材に行ったのだが、思いのほか戦争というものはとんでもない場所だとチキンは思い知らされた。まずあちらこちらに人の死体があって、それの死臭のせいでなんとも臭い。さらにいたるところで発砲音や爆発の音が聞えて、うるさいことこの上ない。そして極めつけが兵士たちが難民の女どもを襲ったり、自慰をしているというこの人間らしからぬ行動の連続。まさに人間の本能が爆発する場所だということをチキンは知った。そして現在、チキンはターキーのことを師匠というようになり、一人で戦争写真を撮るようになったのである。

 移動中、チキンの後ろからいきなり爆音が聞えた。間違いなく戦車砲の発射の音である。

(お、戦車かあ。いいもんが撮れるぞお!)

チキンはそう思いながらその音がしたところに行った。その場から逃げていく兵士がチキンを通り過ぎる。

「くっそお!あんな化け物とやりあえるかあ!」

一人の男がそう叫んで逃げていった。

(化け物?戦車のことか?)

チキンはそう考えながらその戦車のあるところについた。確かにそこに、戦車はあった。しかし、チキンが今まで見てきた戦車とは明らかに違う形の戦車であった。まず足が4本生えている。キャタピラが無く、その代わりに4本の足が下半身というのだろうか、そんな部分から生えており、その上に普通の戦車のような砲身部分があるのだがその砲身部分の横からもチューブ状の腕が生えており、そのチューブ状の腕の先端は機銃になっている。そんな形のバケモノ戦車が、兵士を次々と殺していた。

「ひええ!」「助けてくれええええ!!」

兵士達はその4本足の怪物にアサルトライフルを撃ちながらも口では逃げろ逃げろと叫んでいる。それをそのバケモノ戦車がチューブ状の腕の先端にある機銃を撃ちまくって、兵士たちを悉く殺している。

ガシャンガシャンという音を立てながらその戦車が歩き出し、逃げ惑う兵士たちも機銃で容赦なく殺していった。チキンはそれを呆然と眺めていたが、すぐ仕事を思い出し、カメラをその怪物に向け、シャッターを押そうとした。

 その瞬間であった。

 何かが上空から飛んできた。それはバケモノ戦車の砲身部分の上についた。その何かは『人』であった。人が空から飛んで現れたのだ。

「なんだ?」

チキンが思わずそう呟いた。その人は右手に柄の両方に刃のついた槍を持っていた。その槍をもった人は、すぐ砲身部分と下半身の足が生えた部分とをつなぐ接続部分のところに移動し、槍でその接続部分を斬った。頑丈に出来ている筈の接続部分の金属がまるで豆腐が切れるようにあっさりと切断され、砲身部分が前方にガダンと倒れた。

「え?」

チキンは眼を見張った。とても人間とは思えない。空から飛んでやってきて、あの怪物のような戦車をあっという間に破壊してしまった。まるでアニメのヒーローである。

(そんな、そんなのが現実世界にいてたまるか!)

チキンは心でしきりに考えたが現に戦車は破壊されている。ふと見ると、その謎の人間はどこにも見えなかった。

「あれ?どこ行った。」

チキンはしばらく周りを見渡していると後ろから声が聞えた。

「よ!」

「わあ!」

チキンはびっくりして思わずそう叫んでしまいながら後ろを向いた。声をかけたのは一人の少女であった。しかし少女は右手にあの槍を持っていた。つまり、

「あ、あんたが、あの、せ、戦、戦車を?」

「そうだよ。なんか悪い。ところで、ターキーから話は聞いたよ。始めましてチキン君。あちきの名前は『ツバメ』。よろしくね。」

彼女はウインクした。

「つ、ツバメ。」

「そ、ツバメ。何か可笑しい?」

「い、いえ、全く、ていうかいろいろ質問したことあるんだけど!」

「何よ?ターキーから何も聞いてないの?」

「聞いてないもなにもなんであんたがうちの伯父のこと知ってるんだ!?それになんだあれ!人間がどうしてあんな力を持ってるんだよ!あとどうでもいいけどその『あちき』ってなに!?」

「ねえ、一気に質問されてもこまるんだけど。」

「あ、す、すいません。」

チキンはそう言って改めて彼女を見た。このツバメという女、身長は大体159センチぐらいで、年齢はチキンと同じ17歳のようだ。どうやら亜細亜系のようで、現に目の色が茶色である。髪は黒く肩にかかるぐらいの長さで、なかなかの美人である。胸もなかなかあり、顔と同時に体型も悪くない。腕とかは普通に女の子らしい細さで、あんな頑丈そうな接続部分を豆腐のように切断するような力はどう見ても備わっているように思えない。着ているものは雪女のような白くて薄い和服に白いコートを羽織っている。腰に黒いベルトが着いており、それにバックパックがついている。履いているものは黒いブーツだ。

「よし!」

ツバメはいきなりそう言うと持っていた槍に着いているボタンを押した。すると槍の刃の部分が柄の中に入り、さらにその柄がまた柄の中に入り、といった感じに槍は30センチぐらいの短い棒になってしまった。ツバメはそれをベルトの横についている細長い革の袋に入れた。一見してみればただの警棒である。

「まあターキーの奴なにも話してないようだからさ。ちょっとキャンプに戻ろうや。」

彼女はそう言いながらチキンのほうに腰を向け、前かがみになった。

「ほら、おんぶするよ。」

「はあ?なんだよいきなり?」

「なにって飛ぶんだよ。」

「飛ぶ!?」

「え、なに、あんた『風』(ふう)も知らない訳!あきれた。あいつ何も教えてねえんだなあ。まあいいや。飛ぶよ。」

「え、ちょっと『風』ってなに!」

「それも後で教えてあげるから。さっさと、ほれ。」

チキンはまるで自分だけ何も知らないような感じになり、もうここは従うしかないなと思って彼女におんぶされた。

「よおし、飛ぶよお。しっかり掴まってなよ。」

ツバメがそう言った瞬間、彼女の周りの空気がうねりをあげた。

「なんだ!?」

チキンがそう叫ぶと、いつの間にかビルより高いくらいのところに浮かんでいた。

「なんだよこれ!?」

「ちょっと黙ってな!」

ツバメがそう叫ぶとまた空気がうねり、ツバメの体は前方に移動し始めた。

「あわわわわ。」

チキンは思わずこうわけのわからない声をあげてしまった。完璧に空を飛んでいた。ところどころであの空気のうねりが起きていつの間にか前方に移動しているのである。しかも宙に浮かびながら。チキンはあまりにも無茶苦茶なことでとうとう気を失ってしまった。

「ありゃりゃ。こいつ気ィ失っちまったあ。全く、いずれはコイツも使う能力だってのに。」

ツバメはそういいながら、キャンプに向かって飛んでいったのであった。

 

 

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