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Mr.ステルス  作者: 山口翔矢
序章
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12月24日。あれからかれこれ1か月ちょっと経った訳だが、外に出るような事は殆ど無く、出かける時は大体日用品の買い物くらいでそれ以外は家で過ごす生活を送っていた。俺の大学では、卒論は生徒が出すかどうか決める事が出来る。つまりは、やらなくても卒業には何も影響しないのである。加えて単位も全て取り終えているので、大学に行く必要はこれといって無い。最近まで就活だの何だのと忙しかったのは一体何だったのかと言うくらい落ち着いた日々――こんなの何時以来だろうか。

しかし、決してのんびりだらだらと家に閉じこもっていた訳では無い。ストーカーを追跡する過程で、まずはそのストーカーがどのようなタイプに属するのか知らなければならない。インターネットでその辺りを調べてみたところ、まあ色々出てきた。詳しい詳細はいまいち理解出来なかったが、大雑把に言うならどのタイプのストーカーも"自分は彼彼女に愛されている筈だという妄想に駆られて行う"のが共通しているらしい。えらい迷惑な連中である。

と、こんな感じで色々ストーカーについて自分なりに調べていた。知識が無ければ加害者に対して正しい対応が出来ない。それに加味して、最近日本で起きたストーカー事件についても調べていた。今年の5月だったか、T県K市で男性のシンガーソングライターが女性ファンにストーカーされ刺殺された事件があった。全身を滅多刺しにされて辺りは血の海。心臓部にまで到達する刺し傷もあったらしい、凄惨な事件だった。加害女性は「私の彼にならないなら、いっそ殺してしまえと思ってやった」と供述していると事件が起きた時のニュースで報じられていた。この事件では男性は女性に直接後を付けられたりはしておらず、SNS上でのストーカーに遭っていた。ストーカー=尾行では無くなった訳である。T県警察はこのような被害が出ているにも関わらず事態を重く見ておらずしっかりとした対応をしていなかったと言われている。SNSは誰とでも繋がれる反面、この事件のようにストーカーの一種の手段としても使われる恐ろしいものでもある。今は利用する多くの人が自分の顔写真を上げたり生活模様を簡単にSNSに載せてしまう事も被害を大きくしてしまっている。

更に、警察がこのようなストーカーについてあまり真剣に考えていない事も被害を拡大させている1つの要因だろうと俺は考えている。介入しすぎれば民事不介入の原則と言う――簡単に言えば痴話喧嘩に警察が割って入る事だが――に反する事になるし、逆に入らなさ過ぎるとこうなる。バランスも非常に難しい。勝さんが元警察と言っていたがこの事件も何か関係しているのかとも思ってしまう。ストーカー事件は思っている以上に複雑なのである。


勿論過去にも同じような事件は起きている為、それも調べなくてはならない。それに、会社の仕事はストーカーの追跡である。体も丈夫にしなくてはならない。もし追跡がバレて犯人に襲撃されたら、不意打ちだって仕掛けてくるかもしれない。でも、高校以来運動を一切してこなかった自分にまず出来る事――自宅での筋トレだ。

腹筋・腕立て伏せ・背筋・スクワットの王道筋トレを10回3セットから始めたが、これだけでも結構きつい。筋肉痛にも随分と苦しめられていた気がする。それでも、少しでもあの会社の力になれるなら――。

たかが1か月、されど1か月。この期間にどれだけ情報を収集できるか。そして、己の肉体を変えられるか――。そう思って過ごしてきた。


今日はクリスマスイブ。クリスマスの前夜祭である。本来クリスマスはキリスト教か何かでは重要な宗教的行事の日らしいのだが、日本ではただのセール実施日だ。大して安いものも無いのに人々は何か楽し気な雰囲気に導かれてお店の中に入っていくのだ。そんな人々の中に、見えざる犯人は何気ない日常を送っている。スマホを片手に、SNSという伝染媒体を使って被害者を恐怖に染め上げる。平穏の中には静かな狂気が今もどこかで彷徨っている。ストーカーの事を調べれば調べる程、自分が追われている訳でも無いのにその気分になってしまう。単純に人混みが嫌いと言うのもあるが、この仕事に就く以上は容易に外出するのも避ける事になるだろう。今は準備期間だ。


テレビのニュースでストーカー対策についての討論番組が流れている。白熱した討論バトルが行われている。彼等は理解しているのだろうか、自分もその標的になっている事に――。意見を言うのは簡単だが、いざそれを実行しようとなると中々難しいものなのだ。それが出来ない以上はあの場に立つべきではない。ネットでの調べ物の休憩に炭酸ジュースを飲みながら俺はそう考えていた。



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