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プロローグ
大陸の内、中央よりもやや東に平和を謳う小国がある。
エレイネ王国――肥沃な大地はあれども周囲は平原といくらかの街道、そして背の低い山脈に囲まれた辺境の地。城というにはいささか質素にも思える王族が住まう居住、それを取り囲むように貴族諸侯が暮らす居住区があり、そこから先に城下町が栄え、その更に外側をぐるりと石の砦が覆っている。
特産品と呼べるようなものもなく、強大な軍事力も持たず、それゆえに国交にも乏しい。時折行商人や旅人が訪れるくらいで、血気盛んというわけでも、活気盛んというわけでもない。
しかしこの国を来訪した者は口を揃えて言う――あそこは豊かな国だ。これほど豊かな国が、果たして大陸中、いや海を越えた先にだっていくらもあるものだろうか。
そんな国を治めているのは、わずか齢十七の少年。心優しき王が治めるその国は、今日も今日とて平和で、そして豊かである――