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『赤信号』  作者: 目栗芽栗(めぐりめぐる)
8/8

8*

* *


「おい、何してんだよ。置いてくぞ」

「はい!すみません」


立ち並ぶビルの間を汗を拭いながら歩いていく。今日は全国的な猛暑日で、日傘を持つ人がそこら中に溢れている。


スーツで出歩くにも限界がきそうだ。


鞄と書類を片手に先輩の背中を追いかける。

彼はあまり汗をかかない体質なのか、涼しい顔をしてズンズン先へ進んでいく。


現在俺は中堅企業の営業マンとして勤めている。大学卒業後すぐに事故に遭い、意識が戻るまでに2週間。そこからリハビリを続け退院するまでに一年程かかった。


長い入院生活を終え、やっとまた自分の脚で歩けるようになった。そのことが嬉しくて、普段当たり前にしていた行為も、俺にとっては随分意味を持つようになった。


毎日が当たり前ではない。

そのことに気づかされたのだ。


「これだけ終えたら昼にしよう」

「はい!」


あともう少し。

うちにしては珍しく大手企業の絡む案件で朝からあちこち引っ張りだこで、朝からずっと動き回っていた。


だから、きっと疲れていたんだと思う。


「あ、おい!危ねえぞ!」


先輩の後を追いかけることに必死で

信号が赤に変わってしまったことに

俺は気づかなかった。


やばい、そう思った時にはもう遅くて。


聞こえたのは、車のクラクション、先輩の怒鳴り声、


俺はまた同じことを繰り返すのか。

あの雨の日、彼とイヤホンと手のぬくもり。

反射的に目を瞑った。


「・・っ」


ドサッという物音と腰に響く痛み。

熱いアスファルトと背中に伝わる心臓の音。


「どうして、」


ああ、まただ。

こうして俺は何度も彼に助けられてしまう。


「大丈夫か」


どうしていつも、そこにいるんだ。

少し緩められたネクタイにしがみ付く。


怖かった。

もうこれで終わりなんだと諦めかけた、

その一瞬。


学習をしない自分に腹が立って、後悔して、最後に浮かんだ彼の顔が、いつの間にか目の前にある。


会いたくて、話したくて、どうしようもなく焦がれていた人。


「・・・俊っ」


名前を呼ぶ俺に少し驚いた顔をして、赤くなる目元が柔らかく細められた。

春紀、と小さく吐き出された声は少し震えていた。


やっぱり俺は彼を忘れられない。









『赤信号』(終)

ご了読お疲れ様です。

今回初の完結連載作品となりましたが、長さ的には短編と言って間違いありませんね。今回明かされなかった春紀の事故の原因、俊が病院へ見舞いに来なかった期間の様子、そして春紀と俊の日常的な恋人生活部分等につきましては続編または少し長めの短編として投稿させて頂こうと思っております。その他ご要望等ございましたら、遠慮なくお申し付けください。拙い文章でなにぶん至らない所も多いですが、楽しんで頂ければ幸いです。

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