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「兄さん、今日はもう寝ないと」
「・・うん、わかってる」
この頃お見舞いにくると、兄はいつも窓の外を眺めている。そして、扉を開ける音に対して敏感なった。俺が病室に入ると、振り向いて、それから間を空けて苦しそうに笑う。
いつも悪いな、そう言ってまた窓の外を眺める。
話をしていてもどこか上の空で、笑っていても瞳の奥が暗いまま。
理由は分かっている。
もう2週間が経つんだ。
毎日俺よりも早く来て、俺よりも長くいたあの彼が突然来なくなった。
初めは忙しいんだろ、と気にしていない風に装っていた兄も、日を増すごとに表情が曇っていった。心に咲く一輪の花が徐々に萎み、枯れて痩せ細っていく様子が手に取るように分かる。
もう遅い。
0時を過ぎる前には眠りについていた兄。
そんな人が夜更かしをするようになったのはいつからだろう。
不安で眠れない。
焦りで目が覚める。
彼は今どこで何をしているのだろう。
2人が過去でどのように付き合ってきたのか俺には分からない。
けれども、同じくらいにお互いを慕っていたことが記憶のない状態でも、よくわかった。兄のことをいつも1番に思ってくれているのだと、彼の目から感じ取れた。
だから安心して兄を任せていたのだ。
きっと彼も兄と同じように苦しんでいる。
それでも俺には何もすることが出来
ない。兄の目はいつでも彼の姿を探していて、俺の付け入る隙など見つからないのだから。
花瓶にもたれる萎れた花が
幸せを蝕んでいくようで
少し怖くなった。
《君にあいたい》