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雨だ。
その日俺は、薄暗い部屋で、窓に叩きつける大粒の雨を静かに眺めていた。
月日は過ぎ、季節は秋。
昨年の今頃には彼と旅行に行く約束をしていたことを思い出す。
体の奥底から絞り出すように小さく息が漏れた。
あの日から俺は毎日のように病院へ通いつめ、現在ハルキは動かない左脚のためにリハビリを繰り返す日々を送っている。
体力を少しずつ取り戻し
よく笑うようになった。
そして今日は土曜日で、一週間のうちで唯一残業が長引かず早めに帰宅できる日。
そんな日はいつも土産にプリンでも買って彼に会いに行く。ありがとう、と嬉しそうに受け取る彼は誰よりも幸せそうに笑うのだ。
でも、行けなかった。
足が動かなかった。受け止めようと決めたのに、どんな彼でも愛し続けようとしていたのに、出来なかった。
彼との距離が縮まるたびに、俺の心はじりじりと焦がされていた。このまま彼が記憶を取り戻さなかったら。そんなことばかり考えて苦しくなる。
どんなに願っても今の彼は、今の彼なのだ。
辛いのは俺じゃない。
本当に苦しんでいるのは俺じゃない。
それでも隣にいることが寂しさを一層大きくした。心が抉られるようだった。
「はるき・・・」
心の弱い俺を彼はどう思うだろうか。
その日は部屋から一歩も出ないまま
朝を迎えた。
《眠れない夜》