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『赤信号』  作者: 目栗芽栗(めぐりめぐる)
1/8

1*


どうしても忘れられない人がいる。



雨の日。

傘を片手に歩く俺は、いつもの癖で俯いたまま横断歩道を渡ろうとした。イヤホンから流れる音楽の音量はやや大きめで、視界には地面しか映っていなかった。


もしあの時。

あのまま渡っていたら。


「おにーさん」


そんな呼び声と共に俺の腕を掴んでくれた彼がいなければ。




《あの信号を渡れば》




突然のことに驚いた俺の耳からイヤホンが外れ、成人男性にしてはやや高めの声が鼓膜をくすぐった。


「赤だよ」


人の良さそうな笑みで信号を指差す彼。

見れば真っ赤なランプに人の絵が照らしだされている。そして、目の前を白い乗用車が勢いよく通りすぎた。


状況を把握した途端、身体中の強張った筋肉が解れ、俺は小さく息を吐いた。


「・・ありがとうございます」


上手く動かせない表情筋を精一杯柔らかくして礼を言う。そのぎこちない言葉に小さく手を振り『気にしないで』と照れ臭そうにはにかんで、彼は立ち去った。





半月後。



その日も、雨が降った。



通行人の邪魔になる道の真ん中で、俺は身動きが取れずにいた。

青に変わった信号が再び点滅し始め、ライトの動きと連動する鳩の鳴き声が人々を急かす。



もう一度赤になれば。


『おにーさん』


雨音に混じる彼の声が木霊した。




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