一章 パート6
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パート6です。
午前七時四十五分 中等部校舎西棟二階 第三職員室
職員室では現在、教職員による朝礼が行われている。
(ここが俺の席か?)
濃いメン教頭の相沢朱鷺が今年度の方針について説明している。一番奥にある自分の席で教頭の説明を頭の中に入れながら室内を目だけを左右に向ける。
室内は一般的な職員室の様に向かい合わせで机が手前から奥に並んでいる。
「今年度は校長先生より提案された、大学進学を目的とした授業カリキュラムを発表を行う」
教頭で目の堀の深い男性がまるで海外旅行に行くかの量の資料を配って来た。
またか、っと言いたくなるのを心の中に抑えて資料に目を通す。
まず『中等部、高等部の授業に大学レベルの教材を一部用いて授業を行う』っと書いてある。
それはゆとり教育の対策だろうか? それにしてはかなり無理がある方針だ。
(急に授業のレベルが上がれば、当然着いてこれなくなる生徒が出て来るだろ。やっぱ例のゆとり教育の遅れとやらを挽回する為か?)
秋久も一年前は大学通っていたから分かる。中高生がそう簡単に理解できるような生優しい内容ではないことぐらい。
次に『保護者の意見を優先する環境を築く』っと書いてある。
より良い教育環境を築き上げるのにかなり理に適っている。
(確かに、理に適っている考え方だけど、この学園は人口の川で市街地から隔離されてて近くは町工場ばかりだから、殆どの生徒は寮生活を送っている。実家からだとバスも電車も学園から四〇分も掛かる。つまり、結果的に実家から通えるのは自分の車を持っている教員か近所に住んでる生徒だけことになる。それじゃ生徒全員の保護者の意見を聞くのは難しいだろ)
目的が見えないまま考えても時間だけ過ぎるだけだった。
気が付いたらホームルームは終わっていた。
そのまま、席に深く座り出席簿を手に取った。
二年二組 担任 森田俊樹
「……森田……俊樹?」
出席簿を眺めながらぽつりと呟いていると後ろから声が掛けられた。
「秋久君、昨年度の出席簿を眺めて何をしている」
「い、いえ。なんでもないです」
慌てて姿勢を正す。
声の主は先程の朝礼で堀の深い目をした濃いメンの相沢教頭だった。
「クラスのホームルームまでまだ時間があるので、少し書類の整理をと思って。少し机の上を整理していたら引出の中にこの二年の出席簿が入ってたんです」
教頭は少し訝しむがすぐに昨年度の出席簿を受け取り今年度の出席簿を手渡した。
「引き継ぎは済ませてある。この出席簿はわたしが預かっておこう」
手渡された出席簿を机に置いて立ち上がり、秋久は質問する。
「異論ではないですが、どうして引出の中に昨年の出席簿が入っていたのでしょうか? 普通はクラス分けをして一か所に集めて学園で管理するものだと思うのですが?」
もっともな疑問だった。成績を付ける際に出席簿がなければ出席数も分からない、それではテストの点数と授業態度で成績を付けるしかなくなる。それに高校受験や大学受験、就職活動においても出席数を正確に把握しておかなければ学園そのモノの信頼問題や生徒個人に対して大きな損害に繋がる。
(さっきの様子じゃ出席簿を探していた風には見えなかったし、それに森田って人は何処にいるんだ?)
「秋久君、初めてだから分からないことが多いだろうから説明しておく。この学園では出席簿はデジタル化の進んで二〇〇八年から出席簿などのデータは我が校のサーバーに保管されている。つまり、紙媒体は即記録用として教員に持たせている」
教頭は秋久の質問に的確に答えて見せた。
「なるほど、そう言うことだったんですね」
実際はまだ納得出来ていないところが残っているが取り合えず納得することにした。
(学校も時代で変わるんだな。俺の時は何でもアナログだったのに)
秋久は考えに浸る。
すると突然ざわめく音が聞こえて来た。
しばらくして騒音が突然ざわめきが止んだ。
不思議に思い秋久は周囲を見渡す。
「……私だ…………………………むっ?、切れたか……」
ざわめきの正体が教頭の携帯の着信音だと気づいた。教頭は電話を切った後職員室を後にした。
(どんな着信音だよ)
秋久は職員室から出て教室へ向かった。
教頭の携帯の画面には着信履歴が映っていた。午前八時一〇分、夜代結。
今パートは職員室です。
教頭の相沢朱鷺が新たに登場しました。彼と夜代結との関係が気になるところです。
次回は早めに上げます。