二章 パート5
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前パートの続きになります。
今パートは綾乃裕の能力に関して言及がメインです。
この異様な光景に一同が呆気にとられた、ただ一人岡崎を除いて。
菅谷から紙鉄砲を受け取って倒れ込んで悶絶する綾乃に見せる。
「おい、綾乃! しっかりしろ! 今のはただの紙鉄砲だから心配ない大丈夫だ」
綾乃は紙鉄砲を見ると先程の悶絶が嘘のように何とも無かったかのように立ち上がる。
「どうして、いきなり後ろから背中を叩くのよ! すっごく痛かったじゃない!」
目尻に涙を浮かべながら岡崎に詰め寄る。
「ごめん、悪かった。だが、俺の推理を実証する為にどうしても必要だったんだ」
訳を言って一言詫びると全員に今起きたことを説明する。
「昨日からの抱いていた疑問が二つあった」
岡崎は綾乃の方に向き直る。
「菅谷、お前は気づいてるだろうが、綾乃は痛覚がまるで無いんだ」
「お、おう」
岡崎のフリに菅谷は答える。
「一体、どういうことだよ! 俺にも分かるように説明してくれよ」
メンバーの中で磯原は一人取り残される。
「分かってるから、ちゃんとお前にも理解できるように説明するから。な!」
どうやら磯原と言う人物は難しいことは苦手らしい。
「オ、オホン、そんじゃあ、まず昨日抱いた疑問の一つ目から言うから良く聞けよ」
「ああ」
「まず、一つ目の疑問は昨日の昼休み窓から机の紙が飛ぶくらいの強風が吹いた時があったろ? そん時に綾乃、お前が取った行動に俺は違和感を感じた」
綾乃は昨日のこと思い出すが自身では違和感を感じない。あの時綾乃が取った行動は風が吹いてから一呼吸置いてから『ツインテールが揺れた方を向いて、その後に服を見ながら服装を整えた』ことだ。
「あれのどこに不自然なところがあるの?」自身の行動が不自然な理由が理解できなかった。
「昨日、あの時のことを良く思い出してみろよ。出来るだろ、お前は『サヴァン症候群』だったよな? だったら直ぐにでも思い出せんだろ」
どうしてそれを、っと岡崎から飛び出した単語に驚いた。自身を含めてその事実を知っているのは両親しかいないからだ。
「それはこの学園に転入する際に行う試験でお前が満点を取ったことだ」
「けどよぉ、それと発達障害でなる『サヴァ何とか』とかってのをどうやって結びつけんだよ?」
菅谷は突然出た転入試験の話をどうしても繋がりを見つけられないようだ。
あっ、っと何かに気づいたように瀬川は岡崎に話しかける。
「この学園の転入試験の結果って、一般の人でも見ることが出来るんだよ。それとテストで出題される内容は過去五年間分の入試で出された五教科の過去問集からいつも来ているから、過去問集さえあればその気になれば満点を取れるだろうけど、かなりの量を記憶しないといけないよ」
岡崎はプリント二枚取り出した。それは綾乃のテストの問題用紙と模範解答を印刷したモノだ。
「そう、過去問集を暗記すれば満点を取れるだろう。けど、それは十分な期間と根気が無ければ出来る芸当じゃない。だから誰だって出来ることじゃない」
岡崎はさらに続ける。
「それに転入試験の期間は大体一週間くらいだ。さらに突発的行われることがあるから、それらを考慮すると実質は一週間も無い。そんな短期間で五教科の過去問集を五年分を丸暗記なんて常人じゃ無茶な話だ」
岡崎は綾乃の解答用紙と回答用紙の印刷を机の上に並べて全員に確認させる。
一同は驚き言葉を詰まらせる。解答用紙と模範解答の二枚が一言一句全く同じだった。
「おいおい、あれを丸暗記しちまったってのか?」
一番初めに口を開いたの菅谷だった。だが、その声色は生気を抜かれたように弱々しものだった。
「これがわずかな時間でお前が過去問集を完全に記憶したことの裏付けだ。お前が記憶してたのは過去問集の内容ではなく、目で見たもの、映像として記憶したんだろう」
どんなに高い記憶力を持っていても短期間で膨大な量の問題を理解することは出来はしない。これによって考えられるのは中身を理解しながら記憶したのではなく『目に映るあらゆる文字を一字も洩らさず記憶した』ということだ。
「綾乃、お前の記憶力なら昨日の時に自分以外の女子の反応を覚えてるはずだろ」
うーん、っと綾乃は自分の取った行動と自分以外の女子の反応を比べる。綾乃の頭の中では当時の出来事をまるで録画されていたかのように精細、さらに精彩で音声も全くズレもなく正確に脳内で再生される。三度目の再生で岡崎の言う違和感に気付いた。
「あっ! 私以外、みんな強風が吹いた瞬間背を向けてスカートを押さえてた」
「そう、普通髪が飛んでいくような風が吹いたら机の上モノを必死に押さえるか、立っていた場合は当然埃が目に入らない後ろ向いて、尚且つ女子はスカートを押さえる。それがお前に疑問を抱いた理由だ」
岡崎は瀬川にドアを開けさせる。開けたドアからあらかじめ開けておいた窓に向かって昨日の程ではないがそれなり強い風が吹く。
綾乃は全く風に反応を示さない。風は見えない手となって綾乃のスカートをまくり上げ中の純白のパンツが衆人の前にさらされる。
それでも一切反応を示さない。
見かねた岡崎は綾乃に窓が開いていることを伝えた。
すると綾乃は窓を見て慌ててお尻を押さえるが風はドアから吹いているので、全くっと言っていい程隠せていない。
「風が吹いてるのはドアからだ」
菅谷は少し苛立ったように口を尖らせて綾乃に言った。
あわぁ、っと素っ頓狂な声を出してスカートの前を押さえてようやくパンツを隠した。
「これで、分かっただろみんな?」
岡崎は全員に問いかける。
「綾乃は痛覚と触覚から情報が伝達されない代わりに目と耳でそれらの情報を補ってるんだ」 つまり、綾乃は目で見た耳で聞いた情報を触覚と痛覚に変換している。例を出して言うなら
綾乃の場合『パン!』と『パッーン!』 では擬音としては同じでも音の印象が変わってくる。
『パン!』っと乾いた音が鳴ったときは九ミリ弾を撃った時に出る音と爆竹を鳴らした音をイメージしている。
さらに『パッーン!』っと炸裂したような音の場合、綾乃は長くて良くしなるモノので何かを叩いたとイメージする。
「さっきの異常なリアクションは菅谷、おまえが紙鉄砲を鳴らした音を綾乃は鞭のようにしなる何かで打たれたと脳で認識したからだ」
「分かってたんなら実証しないでよ! あれはかなり痛いだから」
「真夜ぁ、綾乃のことは理解できた。それでこれからどうするんだよ?」
菅谷は今後について意見を求める。
「そうだぞ、真夜。俺たちにとってお前は無くてはならい参謀なんだからな」
菅谷に続くように磯原も意見を求めた。
「分かってるよ。全くお前らはせっかちだな」岡崎は面倒くさそうに頭をかいた。
「サヴァン症候群」を持つ者は一定の割合で発達障害も伴うこともあります。
綾乃の場合は発達障害の例は見られませんが感覚器官が正常に機能していないので、他者の目から見れば不自然な反応を示すなど浮いてしまっています。
秋久の「アノミー体質」と違い外部に物理的に干渉出来るモノではありませんが、使い方次第ではかなり有益な能力でしょう。
長くなりました。次回は随時上げて行きます。