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二章 パート3

ページを開いて頂きありがとうございます。

二章パート3です。今回から秋久雅人の生徒である綾乃裕視点でストーリーが進行します。

ベランダから差し込む朝日に照らされ綾乃裕は重い目蓋を開ける。

「昨日、髪の毛を切られたから、今日の髪型どうしよう? 寝癖もそうだけど左右の髪のボリュームが歪なのは嫌!」

学生寮の部屋の内装は綺麗にリフォームされていて玄関とその横にダイニングキッチンと手洗い場と風呂場がありさらに玄関から奥に進むとリビングと寝室で3LDKととても寮とは思えない広さである。一人だととても持て余す広さだ。

「この広さも昨日あの人が言ってたことが関係してるのかな?」

そもそもこの寮はバブル経済期に都心ぶへ人口が集中した際に核家族世帯向けに建築された団地で現在は桜花崎学園が学生寮と改修されたものなのでこうして不釣り合いな広さになってしまっている。

綾乃は布団から起き上がり工具箱からハサミを取り出して洗面台へ向かう。

「とりあえず逆の髪を切って左右のバランスを整えて……っと。昨日あの人と部屋で話したけど私のことは知らないって言ったし、どうして生まれたのか分かるにはまだまだ掛かるかなぁ? やっぱり」

ぶつぶつと言いながら綾乃は右側の結び目を解き手で束ね直して根元からハサミで一気に切り落とす。左右のバランスを均等になるよう調整し横を向き今度は前後のボリュームを確かめる。サイドが短めなのに対して後ろが長いと見た目が不自然なので後ろも鏡を見ながら器用に切って行った。

「あれ?」

完成した髪型を見て肩を落とした。ボーイッシュなショートヘアになっていた。

「私が思ってたのはもっと女の子らしい髪型だったのにぃ!」

洗面台の鏡を思い切り睨んだ。八つ当たりなのは分かっているがどうして睨まずにはいられなかった。

「あの女たちが悪のよ! こんなの私らしくない!」

一人鏡に言い訳をする。

昨日、そう昨日昼休みに売店にカレーパンを買いに行った時だ、突然後ろから中等部の女生徒に連れて行かれてそのまま髪型が生意気だとかで左の結び目を切られたのだ。

「あの女の人の名前くらい調べとけば良かった」

洗面台で顔を洗ってタオルで拭きキッチンへと向かう。

食器棚には学園側が指定した皿が用意されたいた。その中から適当に皿を取って台所に置いた。朝食は何にしようかと冷蔵庫のドアを開けた。

だが、中には何も入っていなかった。

「あ、そうだった! 昨日、スーパーに行く途中に考え事をしてて気づかない内に車道を歩いてて、それを先生に助けてもらったんだった」

昨日の出来事を思い出して、赤面する。

ふと、時計を見る。時刻は七時五十二分、綾乃はゆっくりと過去を思い出しながら制服に着替える。


物心付いたのは六歳のときだった。綾乃家の両親は川辺で倒れていた私を見つけて病院に連れて行き警察に通報して親を必死に探したけど、結局見つからなかったそうだ。その後私は彼らに綾乃家として迎えられた。『裕』という名はその際に付けて貰ったモノで、私を見つける以前に一人、娘を水難事故で亡くしているようで、本棟はその娘の名前なのである。両親も私を自身の娘と重ねてるんだろう。それからは裕としての厳しく作法を躾けられて育てられて来た。

物心付く前の記憶はないのだけれど、時々、以前に見たことがない景色が夢で出て来る時がある。それが何を意味するか分からないけど、ただそれらの景色はどこかに在る或いは在ったのだということは直感でしかないが分かる。

「お父さんたち心配してるだろうな。きっと」

玄関の下駄箱の横に置かれた全身鏡で身だしなみをチェックしながら言った。

あっ! っと大変な忘れ物に気づく。靴下を履き忘れていた。綾乃は慌てて靴下を履きに戻った。

(いつもだけど、どうしてみんなが普通に出来ることが私には出来ないんだろう?)

昔から、今の調子だった。小学生の時に服を着忘れたりスカートを履き忘れたりなんて当たり前。ドジッ子と言えば可愛いが、ただの馬鹿な女だ。そして、両親に怒られたことは両手では数えられない程の愚かな女だ。

「やっぱり、私って他の人たちと何か違うのかな?」

綾乃は肩をすくめる。心の中では誰かに否定して欲しかった。みんなと何一つ変わらないと言ってくれれば少しでも気が楽になる。

ドアを開けて外に出る。学園は目の前に見えている。すぐ近所のコンビニに行くよりも遥かに近い所にあった。

綾乃は柵の下を見る。そこには焦げ茶の髪で清々しいショートヘアのボーイッシュな女の人が歩いていた。どこまでも堂々とした風格は周囲の生徒たちよりも圧倒的な存在感を出していた。

「あの人、誰なんだろう?」

初めて見るタイプの人だ。自信に満ち溢れた佇まいが綾乃にそう直感的に伝えた。

更に彼女の後ろをゆっくりと歩く紺のブレザー姿の天然パーマの少年がいた。さらにその隣を同じく紺のブレザーを着た女子高生が歩いている。二人の雰囲気は仲良しカップルといった感じではなくどこか仮面夫婦のように体裁上の付き合いしているようにに綾乃には映った。いや、誰にでもそう映るだろう、お互いの顔を見ずにただ真っ直ぐ前をただひたすら見ているだけで会話する時の表情が一切変化しない。それはバイト先で嫌いな先輩と会話をするアルバイターを連想してしまう。

綾乃は二人の様子をしばらく眺めた後、学園に向けて歩き出した。



綾乃は教室に入って自分の席に着く。出席番号は一番なので最前列のドアの最も側になる。

(そろそろ、先生が来る頃だけど。昨日のことちゃんと謝らないと)

教室に備え着けられた時計を見る。八時三五分、昨日の記憶では先生が教室に来たのは四〇分ちょうどだった。

気が付いた時から目で見たものや耳で聴いたことはすべて記憶することが出来た。どうして出来るようになったのかは綾乃本人にも分からない。この常軌逸した能力を持つ病気を医学界では『サヴァン症候群』と呼ぶそうだ。分かり易く言い換えるなら『完全記憶能力』だ。他にこれと同じ症状を持っている人々がいるけど、個人によって記憶の仕方と記憶に対する感情の感じ方が異なることがある。自分の体験を記憶するエピソード記憶で例えるなら、ある一人が記憶する際の手続きをビジョンとして記憶したとしよう。すると、その人は何年経っても記憶したことを昨日出来事のように感じて喜んだり悲しんだりすることがある。さらに別のもう一人は記憶する手続きを文字や数字、記号なのどその出来事に関連する単語で記憶するといつ思い出しても感情が伴わない。そして、その場合はある年のある日に起きた出来事も並行して記憶される。綾乃は前者のパターンだ。


突然、後ろ方で笑い声が聞える。

綾乃は振り返る。三人の女生徒たちが憐みの目でこちらを眺めている。

「一体、何がおかしいのよ! あなたたち!」綾乃は声を荒げる。

「フフ、何がおかしいか分からないのがおかしいんじゃない」

真ん中に座っているリーダー格の縦ロールの女生徒が意味深なことを告げる。

「それが何か聞いてるんじゃない! 人の話聞いてる?」

「おい! テメェ、あんま粋がんなよ」

リーダー格の女生徒は立ち上がり綾乃の前に歩み寄る。その表情はまるで相手を人と見ていない虫けらを見るような冷酷で残酷な目だった。

周りの生徒は見て見ぬ振りを貫き傍観者に徹していた。誰だって厄介事に巻き込まれたくない。だから当然粗相ないように振舞うのは当然なのである。綾乃はそのことを知っているので彼らを責めることは決してしない。

「おーい、お前ら席につけ」

ドアを開け昨日と違い白のTシャツと紺のチノパンとラフな格好の秋久が入って来る。昨日の疲労が抜けてないのに元々落ち着いたトーンの声でも疲労感を感じさせなかった。

リーダー格の女生徒は柔和な笑みを浮かべながら綾乃の耳元で囁いた。

「運が良かったわね綾乃さん」

柔和な笑みとは別に口調から腹黒い敵意が溢れていた。

言い返すことも出来ずただ相手の威圧に圧倒されるだけだった。

「おい、綾乃……聞いてるのか!」後ろから突然呼ばれて慌てて「は、はいィ!」と返事をして席を立つ。後ろを向いたまま立ってしまった。秋久も思わず教卓に肘を置いてそのまま頭を抱えている。

恥ずかしさの余り綾乃は立ったまま固まってしまった。

「どうしたんだよ? お前のスカート濡れてんぞ」

うえぇ! っとまた素っ頓狂な上げてスカートの尻の部分を触ってその手を見て濡れていたことにようやく気づいた。

「いつも間に濡れてたの?」

ショックを受ける綾乃に秋久は言う。

「ホールルームが終わったら着替え用意してやるから。今は座ってろ」

「はい」っと返事をして席に着く。

周囲の生徒たちは笑っている。ただ、磯原と夜代と他数名は仮面を被っているかのように全く笑わっていなかった。



昼休み秋久に昨日の一件の事情を説明と謝罪を済ませた後、綾乃は売店で来ていた。昼休みだけあって中等部と高等部の生徒たちで溢れ返っていた。お目当ては大好物のカレーパンだ。外の衣は食感がしっとりしており、それに中のカレーが見事にマッチしていてこの世に二つとない絶品の庶民のグルメだと本人は勝手に考えていた。

「嫌なことが遭った後はやっぱり食べるに限るよね。他の食べ物は美味しく感じないけどこれは格別」

売店と言っても建物は広くガラス張りで開放的、テーブルが並べられていてどこか大学の食堂のような内装だ。

(先生に制服の替えを貸して貰ったけど、これ学園の予備の制服だよね。明日洗って返さないと)

カレーパンを片手に秋久に用意して貰った展示用の制服を見るて思う。勝手に使わして貰って良いかのかと心のどこかで負い目を感じる綾乃。

「おい!」っと後ろから突然声を掛けられる。

ひゃい! コミカルに綾乃は飛び上がる。

「おいおい、いくらなんでも驚き過ぎだろ」

男子生徒は理解不能そうに首を傾げる。髪は金髪でいかにもヤンキーなオーラを出していた。その顔に見覚えがあった。同じクラスの菅谷誠基(すがやまさき)だ。

(こういうタイプの人には関わっちゃダメ! 適当に話を合わせて逃げよう)

ヤンキー関連のエピソードの中で今までロクなものがない。わがままで何かことあるごとに直ぐに暴力に訴えるそんな彼らに綾乃は腹を立てている。

「あのぉ、何かご用でしょうか?」綾乃は相手を刺激しないように下手に立つ。

「てめぇはクラスメイトを知らんぷりか? 随分と冷てぇな」菅谷はこめかみを搔きなが綾乃を睨み付ける。

「お前に用がある奴がいる。特に用事がある訳じゃないだろ? ついて来いよ」菅谷は手を掴んで無理やり引っ張って連れて行こうとする。

「ちょっと、放してよ!」必死に抵抗しながら周囲に助けを求める。

周囲はやはり見ざる聞かざるの傍観者に徹っしているが、菅谷の場合は目すら誰も合わさない。

「要件が済んだら返してくれるの?」綾乃は抵抗を止め財布を取り出す。すると菅谷はその財布を戻させた。

菅谷の取った行動に綾乃は驚いた。

「オレがいつ金が欲しいなんて言った? あぁ」菅谷は目じりを釣り上げて問い掛ける。

だって、っと涙ぐむ綾乃。

いいから来い!、っと菅谷に力付くで連れて行かれた。

綾乃裕は「サヴァン症候群」と呼ばれる。脳機能の異常発達で常人を陵駕する記憶力を有しています。

そんな彼女の前に現れ、連れて行った菅谷誠基の目的は? 彼女の運命は? そして秋久の私服のセンスは?

という訳で次回は随時上げて行きます。 

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