表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

習作:瞬きの雨

別名で描いた漫画、「瞬きの雨がつれて来た恋」のショートショートです。

 その老紳士は、クラブのドアマンであった。

 一見かどうかだけでなく、その人がどこから来たどういう人物であるかも、品格までも見通して、ドアを開けるかどうか決める。


 その晩、ドアマンは雨にずぶぬれの青年を、珍しく一見ながらバーに入れた。

 その青年が、いかな人物であるか。

 若きドアボーイは、老紳士の暖かいまなざしを、いぶかっていた。


「ボーテンエルフェの湖の側を、わたしは毎朝散歩するのだが——」

 老紳士は、口を開く。


 ——一人の青年が、一人でボートを漕いでいた。いつもは恋人と思われる女性と一緒なのに。


 それから何日か後、通り雨が降った。私はその青年が車にひかれそうになるのを見た。車から美女が飛び降りてくると、青年は一瞬色めき立ったようだった。

 女性は、クラブの歌手だった。

 男に振られる前に、振って飛び出したのだ。

 涙を見せる彼女に、青年の心が揺れたのがわかった。


 青年は、その晩クラブにやって来た。

 この青年は、何か思いつめた顔をしていた。彼もまた、ボートの彼女を。振られる前に振ろうとしているかのようだった。

 私がそれを助けていいのか。あの歌手に心を寄せてのことなら、それはそれで良いのかもしれない。しかしそれは、彼の心の弱さでもあるのだ。

 私は心を決めた。彼に、男になってもらえる気がした。


 歌手は一言、「さようなら」のうたを歌い、マイクを置いた。

「わたしは今日、このクラブを去ります。雨とともに何かが私から去って行ったので」


 青年は、花束をそっとおろした。

「あの雨は瞬きの恋であった。それが彼女を一時濡らしたなら、それでいい。彼女が去るのだ、僕はとどまらねば」


 青年は、そっとクラブをあとにした。


「——私のかけは、良い方向に転がったのだった。さあ、若者よ。ドアを開けるということは、その人を受け入れるということだよ。君も、受け入れることをしれば、良いドアマンになるだろう」


 老紳士は、今夜もドアを開ける。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ