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My Little Blue Bird.  作者: TOKIA
第一章
7/11

4(哲平視点)

だいぶ間が空いてしまい申し訳ないです……。



結局、その夜はほとんど眠る事が出来なかった。


朝になり布団の横に置いた時計のアラームが鳴った。

セットした覚えがないけたたましい音に俺は手を伸ばしそれを止めた。

多分昨日、俺がおばさんと話してる間にでも須美がセットしたんだろう。


起きてふと思うのは須美の事。


…………須美は無事に家に帰り着いただろうか。


静寂の中、耳を済ます。

昨日の須美がいた時の声や音が今も耳に残っているような気がする。もちろん、それがただの錯覚だとわかってる。


「…………………」


もはや自分でも訳がわからない。俺は須美を求めているのか。それとも遠ざけようとしているのか。

多分、気持ちの上では前者が本音で、でも実際にしたことは後者―――拒絶だった。


須美が側にいようといまいと俺がやらなきゃいけないことは変わらない。

須美に理由を求めるのではなく俺の方が変わるべきなんだとこうして考えてみれば簡単に分かるのに。

俺がした事は只の八つ当たりだ………。


深く溜め息を吐いてゴロリと布団に転がった。



と、その時マナーモードにしていた携帯が震えた。

のっそりとそれを手に取り開くと画面にはメール受信が表示されている。


一瞬、須美かと思った。が、そんなわけねーよな。とすぐに思い直す。


突き放しておいて須美の事ばかり浮かぶ自分を嘲りながら俺はメールBOXを開いた。












数時間後、俺は繁華街へと出てきていた。


まともに外出するのは実に久しぶりだ。なんというか意味もなく若干緊張しておりますよ、隊長。


とはいえ住んでる所がどちらかと言えば田舎であるからして繁華街といってもその規模は推して知るべし。

やってきたのは電車で二駅の距離にある田舎以上都会未満の街だ。

ちなみに電車は高級品なのでここまでの交通手段は自転車である。


「ぜぇ………ぜぇ………」


死ぬほど疲れましたけどね。やっべ。横っ腹超痛え。


ハンドルの上に腕を乗せグッタリ。

運動不足ここに極まれり。走り出して二分でしんどくなりましたからね。


………やっぱ少しは体を動かさねえとダメだあ。筋肉すげえ落ちた気がする……。


うーむ、とそんなことを痛感していると俯いた頭の上から声がかかる。


「よっ。待った?」


顔を上げると軽ーい感じでヒラヒラと手を振ってくる男がいた。

俺はそいつに答える。


「誰だ、あんた」

「ちょっ!? 久々に会っていきなりそれ!?」

「いやあ、人違いじゃないですかね」

「いやいや、こんなキッタナイ格好のまま外に出てくるヤツ他にいないよ!」

「いやいやいや、我ながらおまえのそのセンスには負けるわ」


そいつな服装を指差し俺は指摘する。

訳のわからん謎の生命体がプリントされたショッキングピンクのTシャツに七分丈ズボン。そして足元はサンダル。


「なんつーか、もうこうして話してるのを見られるのが耐え難い羞恥だわ。レベル的にそれくらいダサい」

「は!? 何言っちゃってんの? これがかっこいいんじゃんかよぅ」

「いや、これはねーよ」


Tシャツの袖を詰まんで引っ張ってやる。


「引っ張んな! 一張羅が伸びたらどうしてくれるんだ!」

「まあ、そりゃそんなTシャツ世界に二つとないだろうがよー………つか、今時一張羅て」


マジ他人の振りしたい。


こんなあり得ない成りをしているがこいつが件の―――永浜レイクスターズのエースピッチャーで俺の友人でもある―――真宮栄治その人なのだから世の中わからない。


ファンが見たら泣くぞ。


………ま、大概俺も人の事を言えないような格好をしてるわけですがね。

身に付けているのはよれよれ白無地シャツにズタズタ穴空きジーンズだから。靴は今は茶色いけど元は白いスニーカーだったんですよ。


「つか大体なんなの。いきなりメールしてきて」

「うん、メールは大抵の場合いきなりだと思うけど」

「こんな遠いとこまで人を呼び出して」

「え? いや、そんな遠くないよね? 電車で二駅だろ?」

「―――――自転車だと遠いんだよ、ボケェ!! 見て分かれや! 俺が跨がってるのなんだよ!」


チャリだろチャリ! 電車でなら20分でも自転車だと一時間以上かかるんだよ!


「え? …………サイクリングが趣味だったなんて初めて聞いた」

「言った事ねーし言う予定もねーよ!? 単に電車賃がないだけですぅー!!」


このブルジョワが! 年棒ン億円の男が! おまえにこの気持ちがわかるか!


「ああ、うん………ごめん。悪かったよ」


謝られると余計に泣きそうになる。そして、その憐れむような目をやめろ………。


「んじゃあ、それ押して歩くのもなんだし車で動くか」


言ってポケットからじゃらじゃら色々くっついたキーホルダーを取り出す。


「どんだけ鍵つけてんだよ」

「ああ、家の鍵とか全部ついてるから。一個にまとめとかないと俺、よく物なくすからさー」


いや、でも、それなくしたら大惨事だろ。言ってやらないけど。


「まあ、いいけど………。つか自転車どうすりゃいいんだよ」

「駅前の駐輪所に停めとけばいいでしょ」

「バカ言え。あそこ、有料だろ」

「…………五百円くらい俺が出してやるから」


それはありがたいが。だから憐れむなって。マジで。












真宮栄治はセンスは悪いが容姿的にはそれはそれは男前である。センスは悪いが(←大事な事なので二回言った)。


180センチを軽く超える長身に引き締まった体躯。あまり髪型なんかに拘るタイプではないが素材が良いので適当に自分で切った髪型でもそれなりに見える。

加えてスター特有のオーラみたいな物を纏っているように見えるのは、やっぱり真宮が「特別」だからだろうか。

真宮とは対等な友人のつもりだがどうしても拭えない劣等感を感じる事もままある。

そんなもの抱えていても何にもならないのはわかってるいるのだが、しかし、意識してどうこうなるものでもない。


だから結局はそれを表に出さないように努めるしかないのだ。


「で?」

「ん?」


駐輪所に自転車を停め、近くの駐車場に停めてあった真宮の車に乗り込む。走り出すと俺は運転席の真宮に尋ねた。


「『で?』って言われても。なに?」

「さっきも聞いたが、わざわざ呼び出したんだから何か用があるんだろ?」

「いや? 別にないけど? なんで?」


えー。


「朝っぱらから『緊急事態発生! 正午に駅前まで来られたし!』ってメールが来たんですけど!?」

「あーあー、あれね。うん、あれは嘘」

「はあ!?」

「そうでも言わないと外まで出てこないだろ、おまえ。ヒッキーなんだから」

「じゃあ緊急事態とか」

「ないねえ。単に俺が遊びたかっただけー」


あっはっは、と無駄に爽やかに笑う。

こいつ、酷い。いろんな意味で。迷惑甚だしい。


「まあまあ、いいじゃん。騙されたと思って傷心の敗戦投手の気分転換に付き合ってくれよ親友」

「実際騙されたけどな。傷心とか自分で言うな。あと親友じゃねえし」


落ち込んでるのはおまえだけじゃねーっての。

まあ、俺の場合は自業自得というか落ち込む資格もないわけだが真宮がそんなこと知るわけないから仕方ない。


「おお、華麗なる三段ツッコミ。相変わらずツッコミのキレは健在だあねぇ」

「まあ、おまえのスライダーよりはマシかもしれんね」

「………え? それはあれ? 大事な所でホームラン打たれちゃうようなしょんべんスライダーと一緒にするなって事? あっは、そうだよね。ボッコボコに打たれて試合ぶち壊したヘボピーのショボいスライダーよりはずっとキレキレだよね、哲平のツッコミは。……………グス」

「落ち着け。俺は何もそこまで言ってない。泣くな、キモい」


なんでこいつはこんなに自虐的なんだ。めんどくせえ。

つか、どんだけ昨日のショック引きずってんだ。


「……なんで俺はあそこで変化球なんて投げたんだ速球で押してきゃよかったのに変化球でかわそうとするとかビビりか俺は。あいつはそんな甘くねえっての………ブツブツ」


なんかブツブツ言い始めましたよ。うぜー。

どうでもいいけど前見ろ、前。


と、その時。


「ちょっ…………真宮!」

「お?」


俺達の乗っている車の進路がフラッと右へと流れていく。

俺の声に真宮が我に返る。


「うわっとお!」


真宮が慌ててハンドルを切った。

その直後サイドミラーの脇すれすれを対向車の大型トラックがクラクションを鳴らしながら通過していった。


あ、あぶねー………。


「………し、死ぬかと思った」

「お、おおう。メンゴメンゴ。全然前見てなかった」

「ざけんな………人を殺す気か、おまえは」

「いや、マジごめん。だが安心しろ、死ぬ時は一緒だぜ!」


それはどこらへんに安心したらいいんでしょうか。いい笑顔でサムズアップすんな。


「悪いが俺はおまえと一緒に新聞の一面を飾る気はない」

「そんなつれない事言うなよ。てっちゃあ~ん」

「死ね」


本気でウザい。


「うん、でもまあ、実際俺もヤだけどね、おまえと一面記事は。死ぬ時は朋ちゃんの胸の中って決めてるもん、俺。文字通りおっぱいに抱かれて死ぬのだ」

「なら言うな。あとそれは胸張って言うセリフじゃないぞ、変態野郎」

「いや、でも、おっぱいは男のロマンだろ?」

「………ま、まあ、わからんではないが」

「だーよねー」

「うむ」


ニマーッと気色悪い笑みを浮かべるバカ二人。

おっぱいはこの世のエデンだと思います。


ちなみに真宮の言う『朋ちゃん』――――姫川朋佳は真宮の恋人で…………いや、元恋人で今は結婚して妻になり真宮朋佳になっている。つい先日テレビで放送された入籍会見は全国に衝撃ニュースとして轟いたものだ。

朋佳とは俺も知らない仲ではない。だって朋佳も真宮と同じく高校の同級生だし。つか、朋佳の場合は中学でも同級生だったので、むしろ真宮よりも付き合いは古い。

結婚については何も聞かされてなかったのでテレビを見た時は驚いたもんだが、なにしろ高校時代二人の仲を取り持ったのはこの俺であるため中々に感慨深いものがあった。


「朋佳は元気?」

「うん。もう、ちょー元気よ」

「今、五ヶ月だっけ」

「そうそう。我が子も元気に母のお腹の中ですくすく育っておりますよ」


真宮と朋佳はいわゆる出来ちゃった婚。最近は授かり婚っていうんだったか?

二人は子供を授かり現在朋佳は妊娠五ヶ月である。


「そういや聞いてよ。朋ちゃんてば安定期入ってからめちゃくちゃ食うようになってねえ。特に甘いもの」

「あいつ昔から自分で『私の主食はスイーツだ』とか言ってたじゃんよ」

「あっはっは、言ってたねえ。でも最近はそれに更に磨きがかかってんの」

「マジかよ」

「マジマジ。この前なんてバケツプリン一人で食い切ってた」


聞いてるだけで胸焼けするわ。


「オフになったら式挙げるからちゃんと出席してくれよー」

「ま、暇だったらな」

「じゃあ大丈夫だ」

「うるせえな。もしかしたら忙しいかもしれねえだろ」

「え? 半ニートの哲平に何の予定が?」


何もないけどさ! 放っといて!


「しっかし、あれだな。ずいぶん朋佳とも会ってねえなあ。おまえから話に聞くばっかで」

「ん? じゃあ会いに行く? 朋ちゃん、家にいるし」

「は? 今からか?」

「今から。朋ちゃんも哲平の事ちゃんとやってるのかなー、って気にしてたっていうか心配してたし、たまには顔見せてあげてよ」

「どっか遊びにいくんじゃないのかよ。だから呼び出したんだろ」

「そんなもんいつでも行けるし。あ、この前いい酒ゲットしたからさ。家で一緒に飲もう」


それは魅力的な提案だな………正直外で遊ぶのは疲れるし。


「まあ、いいけど」


そんなわけで俺達は真宮邸に進路を取った。





















車で揺られること数十分後。無事真宮邸に到着。

そして車を降りて思う。


「しかし、まあ………毎度思うけども無駄にでかいな、おまえん家は」

「そう? 普通じゃない?」

「いや普通じゃねえよ」


これが普通でたまるか。

少なくともうちのアパートの倍はある。しかも一等地。

さすがは真宮。年俸ン億円の男である。


「まあ、とりあえず入って入って」

「あいよ」


真宮に促されて家の中に入る。玄関も豪勢だ。しかもセンスがいい。この家の外装内装のデザインは朋佳がほとんど決めたらしい。真宮の残念なセンスじゃこうはいかない。


「ただいまー。とーもちゃーん!」


玄関先で真宮が大きな声をあげると奥の方から足音が近づいてくる。待つことしばし。果たして彼女は現れた。


「ああ、おかえり。なんだ早かったな。それとも忘れ物でもしたか?」


久々に見た朋佳はマタニティー姿でふっくらと膨らんだお腹に手を添え微笑んでいた。

最後に会った時は長かった髪は少し短くなっていて、気のせいか表情には母の慈愛が見て取れる。

昔から美人ではあったがさらに綺麗になってるような気がする。あくまで客観的に見た感想だが。


「ううん。ただ朋ちゃんが恋しくなっちゃってさー。帰ってきちゃった。てへり」


ぶふっ。

吹きかけた。

先生、ここにアホがいます。


「バ、バカ。何をいきなり恥ずかしい事を言ってるんだ………」

「照れちゃってもう可愛いんだからー」

「う、うるさい」


つかバカップルだ。


「ま、まったく、仕方ないやつだな。それよりなんだお客さ、ん、か…………?」


そこでバッチリ朋佳と目が合った。


「おす」


シュタッと手を上げた。


「………………」

「あ、俺の事はお気になさらず続きをどうぞ」

「………………」


軽ーい感じで先を促す。


「………栄治」


朋佳はすうっと目を細め俺から真宮に視線を移す。


「どーしたの?」

「どーしたもこーしたもない」


そして憮然と不機嫌極まりない顔と声でこう言い放った。


「なんだ、こいつは。生き物は拾ってきちゃダメだといつも言ってるだろう」


って、おいぃ!!


「捨て犬かなんかか、俺は!」

「元の場所に返してきなさい」

「えー、僕がちゃんと世話するからー。飼っていいでしょー?」

「ダメだ。捨ててこい」

「だから、おいぃ! 聞けってぇ!」


真宮も乗るんじゃない!


「イチャついてるのを目撃されたくらいでひどいいじめだな、おい」

「バッ! い、イチャついてなんかいない!」


いや、イチャついてたよ。ベリースイートだよ。


「いい年して恥ずかしがってんじゃねえよ。気色悪い」

「なっ………き、きさまぁ~」


すごい目付きで睨み付けてくる朋佳。俺も目をそらさず睨み返す。

と、その間に真宮が割って入った。


「まあまあ、朋ちゃん落ち着いて。哲平はイチャイチャする相手もいないからやっかんでるだけだよ。ね?」


いやいやいやいや!


「激しく不本意な解釈をされた上に同意を求められても困るわ!」

「じゃ、いるの?」

「いませんけどね!」

「なんだ、哲平。羨ましかったのか」

「いや、違うって言って――――」

「だが残念だ。私は栄治のものなのでおまえの期待には添えそうにない」

「最初から何も期待してませんけど!?」

「な、なん………だと」


ガーンとか音がしそうな勢いで何故かショックを受ける朋佳。意味がわかりません。


「哲平!」

「な、なんだよ」


さらにこれまた何故か真宮が怒っていた。


「おまえ、俺の朋ちゃんに何か期待するほどの魅力も感じないって言うのかー!?」

「いや、おまえ何言ってんの!?」

「どうなんだ、哲平!」

「うるっせーっ………つか、近いわ!」


ズズイと迫り来る真宮の顔面を押し返しながら朋佳に懇願する。


「朋佳、こいつ、なんとかして――――」

「そうか。私には、魅力、ないのか………」

「って、おまえもそれで落ち込んでんのかよ!」

「大丈夫だよ、朋ちゃん。俺は君の魅力にメロメロさ」

「死語! 決め顔で死語出ました!」

「栄治…………私もおまえにメロメロだ」

「で、おまえもキュンとしちゃってんじゃねーーよっ!!」


再会早々、騒がしい同級生達だった。





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