1(須美視点)
投稿が滞ることもあるかもしれませんが出来るだけ頑張ります。よろしくおねがいします。
――――気がつけば、私はいつもあの人の背中を見てる気がする。
ずっと、ずっと。
私はあの人を追い掛け続けてる。こっちを向いてと叫びながら。
私には佐隈哲平という名前の幼馴染みがいる。私はてっちゃんと呼んでいる。
といっても、てっちゃんは私よりも七つも年上なので幼馴染みと呼ぶのは少し不自然に感じる。多分てっちゃんもそうだと思う。
私の家とてっちゃんの家は隣同士で親同士の仲が良い。私が小さい頃は両親の仕事が一番忙しかった時期で、私はよくお隣に預けられていた。おじさんもおばさんもとてもよくしてくれたけど、一番私の可愛がってくれたのはてっちゃんだった。
てっちゃんはそれこそ私が自分でも覚えてないくらい小さい頃から面倒を見てくれて物心がついた頃にはてっちゃんの側を着いて歩くのが当たり前になっていた。両親と手を繋いだ記憶はあまりないけどてっちゃんとはいつも繋いでいた。そういうのが恥ずかしくなるまでは。
両親には申し訳ないけど、家族で遊園地に行くよりてっちゃんに家で絵本を読んでもらうのが好きだった。
毎日毎日一緒にいても飽きなかった。いつも楽しかった。
てっちゃんの方は…………どうなのかわからないけど。
ずっと一緒にいたから気付いてしまった。
ある時を境にてっちゃんとの距離が遠くなった気がする。近くて、遠い。隣にいてもこっちを向いていないのだ。
だから私はこっちを向いてと呼び掛けて。いつも彼を追い掛けて、その背中を見つめるのだ。
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朝が来て、日が昇り初め、目覚ましが鳴ると今日もまた新しい一日が始まる。
ムクリと布団から起き上がって働かない頭が徐々にクリアになっていく。
ミャー、と鳴いて飼い猫のライアンがベッドに乗っかり手元に摺り寄ってきた。
私はそれを抱き上げて朝の挨拶をする。
「おはよう、ライアン」
『ライアン』という名前の由来は三年くらい前まで私の好きなプロ野球チームで助っ人として活躍してた外国人選手の名前だ。
外国人選手にしては珍しい走攻守揃った万能型の外野手で華のあるプレーと活躍した時に見せるパフォーマンスでとても人気のある選手だった。そんなライアン選手にあやかって名付けた我が家のライアンは二歳のアメリカンショートヘア。
「よしよし」
膝の上で丸くなったライアンをゆっくりと毛並みを整えるように撫でてやると、かぷかぷと指を甘噛みしてじゃれついてくる。
至福の瞬間だ。
とはいえ、時間には限りがあるもので、そろそろ学校へ行く準備をしなきゃいけない。
「またあとでね」
ライアンをそっと脇にどかせて部屋の角にある餌用のお皿にキャットフードを盛ってやる。ライアンの朝御飯だ。足元にまとわりついていた愛猫は現金なものであっという間に餌の方に飛び付いた。
そんな様子を見やりながら手早く制服に着替え準備を整えると私は部屋を出た。部屋を出る瞬間、ライアンが顔を餌皿から上げてニャアと一声鳴いて見送ってくれた。
うん。今日も、がんばろう。
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一階へ降りると家の中は静まり返っていた。
私はまずキッチンへ向かうと冷蔵庫を開け、しばらく考えたあと卵とハムを取りだす。
今日の朝食のメニューはハムエッグに決定。
私の家では朝起きるとお父さんもお母さんもいない、という状況は珍しくない。仕事が落ち着けば家にいるけど、基本的に忙しい人達なので何日も泊まり込みで仕事、なんていうのも日常茶飯事だ。
この数日もそんな感じで今日もきっとそうだろう。
熱したフライパンに油を引いてよく馴染ませたらハムを焼いて卵を落とす。
少し水を入れて蓋をして火力を弱火に落としたらあとは焼き上がるのを待つだけ。
待ってる間、私は今日の予定を考える。
ひとまずは学校へ行かなきゃいけないけど、その後はどうしよう。
部活にも入っていないし、今日はアルバイトもないので差し迫ってやる事がない。でも、だからといって誰が待ってる訳でもない家に真っ直ぐ帰ってくるのも味気ない。
なら、遊べばいいじゃないかと人は思うかもしれないけど、私の場合どうも世間一般の女子高生と感覚がややズレてるらしくファッションとかショッピングとかいう事にあまり興味がない。なので友達と連れだって街に繰り出すという事もあまりしない。したとしても仲の良い友達と付き合い程度だ。
恋愛映画もドラマも見ないし少女マンガもほとんど読まない。私が好きなのはアクション映画と野球中継と熱血展開の少年マンガ。
学校のみんなは野球中継の延長でドラマの時間がずれるのを嫌がるけど、むしろ私はドラマなんかやらなくていいから野球中継を試合終了まで放送してほしい。
………以前、親友にそう言ったら何故か大爆笑された。何が面白かったのか未だにわからない。
とにかく、そんなわけで放課後にやる事がない。
「あ」
そこで、ふと思い出してカレンダーを見る。
「明日、てっちゃんの誕生日だ」
すっかり忘れていた。
「お祝いしないと」
私の誕生日にはささやかながらお祝いしてもらったし、そのお返しはしたい。
プレゼントは何がいいだろう。放課後になったら街で何か探してみようかな。
予定がようやく固まって、ちょうどハムエッグも焼き上がった。
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その後は、いつも通りに登校する。
私が通う高校は自宅から電車で五駅、時間にすると約四十分の距離にある女子高だ。
中学までは自転車通学で今はその分早起きしないといけないけど元々朝に弱くないのでそれほど辛くはない。
そんな通学路を私は考え事をしながら歩いていた。
内容は明日てっちゃんに渡すプレゼントの事。
いつもお金には困ってるみたいだけど、あの人は元々物欲のあるタイプじゃないから何をあげればいいのか悩む。
アレが欲しい、と明言してもらえれば悩まずに済むのにと今回ばかりは思うけど、かと言って誕生日プレゼントを自分からねだるような人はどうかと思うので結局は自分で考えるしかない。
予算も限られてるし。
「うーん」
ダメだ。いいアイディアが浮かばない。
「あー! すーみーん!」
と、校門前までやって来たところで大声で声をかけられ振り返る。
「あ、杏子」
そしてすぐに彼女を見つけた。
「うおおおおおおっ!!」
すごい声で叫びながらすごいスピードで駆けてくるのでかなり目立つ。今は通学している生徒が一番多い時間帯だ。
「よしっ、ゴォーーールッ!!」
しかしそんな生徒達の間を縫うように猛スピードで私の脇を通りすぎると彼女は両手を高々と突き上げて校門を駆け抜けた。
「記録………十三分二十一秒! 自己ベスト更・新・だー!」
だー、と高らかに歓喜して彼女はこちらに向き直る。
「イェーイ! すーみん、おっはよーう! 素晴らしい朝だね!」
シュバッと手を上げて挨拶をしてくる。朝からすごいテンションだ。
「おはよう、杏子。そうだね、曇ってるけど」
「細かい事は気にしなーい。天気なんてさしたる問題じゃないよーん」
「そうなんだ」
「そうともー!」
見ての通り、とても快活な彼女の名前は桜井杏子。
私のクラスメイトで一番の友達でもある。
私の『ドラマなんかより野球中継を~』発言の時に大爆笑した親友とは彼女の事だ。
二人並んで教室へと向かう。
「はー、いい汗かいたー」
言いながら杏子がぐい、と額の汗を拭う仕草をする。
「杏子は朝なのに元気だね」
「オフコース。もう朝のランニングは日課になってるから走らないと逆に落ち着かないんだー」
「でも何も学校来るときに走らなくてもいいと思う」
「ちっちっち。甘いよ、すーみん」
人差し指を左右に振って不敵に笑う。
「ランニング通学すれば体も鍛えられて遅刻もしないという一石二鳥なんだよ!」
「わかるようなわからないような」
「ふふ~ん? すーみんにはまだちょぉーっと早かったかにゃー?」
「というかランニング通学って言葉を初めて聞いた」
「にひひ、時代の最先端を行く女と呼んでくれたまい」
「どちらかというと、むしろ時代に逆行してると思います」
「ありゃ、そうかい?」
「うん」
でもランニングは健康的でいいと思う。
「すーみんもやる? ランニング通学」
「私は………無理そう。運動苦手だから」
絶対杏子のスピードについていけないと思うから無理。
「む~、残念ナリ。また気が変わったら言ってー」
「うん」
とか言ってる間に教室に着いた。それぞれ机の横にカバンをかけると私の席に集まる。
「ところですーみん?」
「ん?」
「今日の放課後は空いてるかにゃ? もし予定ないなら一つこの杏子さんと遊びにいかないかい?」
「あれ。杏子、部活は?」
「今日はカントクがどーしても外せない用事があるらしくて休み! やって出来ない事はないけどたまには休まないと逆に効率悪いしケガとかしかねないし、そういう時でもないと休めないからってキャプテンの鶴の一声でそう決定しましたよ。で、どうかにゃー?」
にゃー、と可愛く首を傾げる杏子は陸上部の長距離選手で毎朝ランニングしながら通学してる理由もそれ。
うちの高校の陸上部は県下でも有数の強豪らしく、練習も厳しい。
だから部活が休みになるのは、とても珍しい。
「うん。空いてる――――」
って。そういえば放課後は。
「―――と言えば空いてる、けど」
「んん? なんかまずかったかにゃ?」
全然まずくはない。
あまり外出しない私だけど杏子みたいに気心の知れた友達となら何処かへ遊びに行くのも楽しい。
日頃、部活で忙しい杏子程じゃないけど私もバイトがあったりしてなかなか予定が合う事もないからこんな機会は滅多にない。
だから全然まずくない。
まずくないどころか二つ返事でオーケーしたい。
「ええと」
ど、どうしよう。
「んん? 用事あるならまた今度誘うから無理しなくていいよ?」
「む、無理じゃないんだけど」
また今度、なんていつになるか分からない。
むぅ、てっちゃんの誕生日が明日でさえなかったら………。もうプレゼント探しは明日にしようか。絶対に今日じゃないとダメって事はない。
ただ明日は二時間だけだけどバイトが入ってるから時間がないし……。
うーん。
「あ」
と、そこでぴーんと閃いた。
杏子と遊びに行けて、プレゼント探しも出来る一石二鳥なアイディア。
それには杏子の協力が必要になる。
「あの…………杏子?」
「ん?」
「ちょっと相談、っていうかお願いがあるんだけど」
「お願い、ですか?」
「うん。お願いです」
「ふむ。聞きましょう」
いきなり話題を変えた私に杏子は仰々しい仕種で聞く体勢を取る。
「あのね」
「うん」
「明日、てっちゃんの誕生日なんだ」
「てっちゃんってえと、すーみんの彼氏だっけ?」
「え」
一瞬固まった。
「ち、違う。彼氏じゃない。てっちゃんは幼馴染みだから」
「にゃっははは。じょーだんじょーだん」
いきなり何を言うのかと思った。
「むぅ………」
てっちゃんが彼氏なわけないのに。
「にはは、ごめんごめん。幼馴染みだよね、幼馴染み」
「そう、幼馴染み」
「オーケー、理解したよん」
「うん。それで、ね。その…………遊びに行って、そのついででいいから」
「うんうん」
「プレゼント選ぶの手伝ってくれない、かな、って」
恐る恐る尋ねてみると、
「うん、いいよー」
あっさり快諾された。
良かったけど、ちょっと拍子抜け。
「本当に?」
「もちろんさ。杏子さんはすーみんのお願いなら、よっぽどの事じゃない限り断りませんぜ。っていうか改まってお願いとか言うから何事かと思っちゃいましたよ。それくらいならお安い御用っす!」
オーバーリアクション気味に胸を張る。
「ありがとう。杏子」
「いやいや」
「今度何かお礼するね」
「にははー、そんな大袈裟な」
杏子は軽快に笑って、ドンと胸を叩いた。
「とにかく、この杏子さんにお任せあれ!」
頼もしい。持つべきは友達だ。




