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プロローグ

恐らく、最初で最後のファンタジー作品です。不慣れな面も目につくでしょうが、最後までおつきあいいただければ幸いです。



──────それは、彼の口癖のようなものだった。




「…………退屈だな」



 その言葉を聞いた瞬間、いつものように彼のそば近くに控えていたリオディウスは、一瞬身を震わせた。彼がその言葉を口にした結果、大なり小なり被害を受ける者がまた増えることを、リオディウスは誰よりもよく知っていたから。


「ならば、また武道会でも開きましょうか。それとも狩猟大会でも?」


 彼が美しい女性を好むことも熟知しているリオディウスは、それでも女性の美を競うような大会を催す提案はしなかった。


 過去、それで上位に入賞した女性の幾人が彼に気に入られ、その結果弄ばれたかよく知っているから────もちろん彼を補佐する立場にあるリオディウスも細心の注意を払い、彼の気をそらそうとしたり諭そうとしたり懸命に努力をしたが、あくまでも立場は上である彼を完全に止めることはできなかったのだ。


 その女性たちの誰かを彼が本気で愛し、ずっとそばにおくことを決めたのなら、それならそれで構わない。彼の立場ならば、たとえ複数の妻や愛妾を持つことも許されることだったから。けれど彼は、一時の寵愛を与えはするものの、まるで子どもが飽きた玩具をあっさりと放り出すように放逐するために────たとえその女性が彼の子を身籠っていたとしてもだ────リオディウスは少しでも悲しむ人々を増やさぬよう努めているのだ。


 彼の身の回りの世話をするためにそばにおかれ、たった一夜の遊戯の果てに捨ておかれた女性を入れても、とても両手の指の数では足りない。


「武道大会も、狩猟も飽きた」


 先代が亡くなって、彼が二十歳という若さでその座を引き継いでから約五年────たかだかそれほどの時しか経っていないのに、リオディウスがなるべく被害者を出さぬように考えた提案を、彼はあっさりと「飽きた」と口にする。


 武道大会も狩猟も、単に体術の優劣や動物を狩った数や技を競うものではない。この世界の、上位に挙げられる者たちの特殊能力を駆使して行われるそれで、普通ならばそうそう飽きられるほど単純なものではないはずだった。なのに、この世界で誰よりも強い能力と権力を持つ彼は、リオディウスの内心を知ってか知らずかそれを一蹴するのだ。


 彼の「退屈しのぎ」につきあい、その能力を限界まで駆使し続ける彼らのほんとうの使命を、誰よりも一番知っているのに────リオディウス同様、幼い頃からその心身に叩き込まれて育ってきたというのに、だ。


「ならば、何を行いましょう。陛下の御為になら、不肖のこの私もこの身のすべてを賭けて従う所存でございますが」


 リオディウス自身、何も思いつかないのであれば、とりあえず彼自身に何かを提案させて、それを出来る限り被害を最小限に食い止める方向へと誘導するしかない─────ただし、あまりあからさまにやると彼の機嫌を損ねて更に酷い結果になりかねないので、そのへんのさじ加減は難しいところだが、生まれた時から彼と共にあるリオディウスは、そのすべを誰よりも心得ていた。


 そして彼も、そんなリオディウスを特別に思っているらしく、他の重鎮よりはリオディウスの忠言を聞く耳を持っているようだった。それでも、完全に彼を止められるほうが稀なのだけれど…………。


 この世界の誰よりも奔放な心を持ち、たとえどんな無体なわがままを見せつけられたとしても、誰もが惹かれずにいられない不思議な魅力を持つ……けれど子どものような残酷さをも持ち合わせ、それさえも彼の魅力のひとつと言わしめるような彼─────リオディウスが一生をかけて仕えると心に誓った、その主。ほぼ同じ時に生まれ、まったく同じ金髪と青い瞳、まったく同じ顔とほぼ同じ体格と能力を持った、リオディウスのたった一人の兄。もしも生まれる順番が違っていたら、恐らくはまったく逆の立場になっていただろう、彼─────アナディノス。


 そんな彼だからこそ、リオディウスは彼に仕えることをやめられないし、心身ともに離れることもできないのだ。どんな時でも感情よりも理性的かつ常識的にふるまうことしかできず、自分はつまらない人間だと痛いほどに実感しているリオディウスだからこそ、アナディノスの誰よりも自由な精神に焦がれずにいられなくて…………。


 彼もそれがわかっているのかいないのか、完全に聞き届けることはできなくても、他の重鎮────それが仮に先代の頃から仕えている人物だったとしても、だ────よりはリオディウスの言葉には耳を傾けるのだ。


「面白いことを思いついたぞ」


 それまで黙って何ごとかを考えていた彼が発した言葉に、リオディウスはハッとする。彼の顔を見やると、そうとう面白そうなことを考えついたのか、その顔はこれまでのどんな時よりも輝いていて……だからこそ、不吉な予感をリオディウスの胸に抱かせる。彼が楽しいと思うことは、常人の神経からすればとてもそうは思えないことが多いからだ。


「────────」


 そうして彼が語った内容は、リオディウスに脅威と絶望を与えるには十分過ぎるほどの威力を含むものであった………………。

ついに始まりました、悲劇への序章。

彼らの行く先に待っているものは、いったい何なのか……。

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