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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

どこかの異世界で

推定・乙女ゲー世界。いろいろユルい。

作者: 浮月重月
掲載日:2026/07/04

7月9日、文章を微修正。

「ヴィクトリア!この俺、サイケ・デリック・エキセントリックは

 悪辣にして冷酷無比なお前との婚約を破棄し、

 身も心も愛するこのミナネトリーを新たなる婚約者とする!」


現在王国学園卒業式後の記念夜会最中、行われている断罪劇場の主役。

「悪辣にして冷酷無比」と呼ばれたわたくしは、

ヴィクトリア・アイアンソーン公爵令嬢と申します。

宰相の長女として、わたくしが物心つく前に王家と公爵家による婚約が結ばれておりました。

お察しとは思われますが、怒鳴り散らしたのが婚約者の第一王子殿下でございます。

愛は最初からございません。


どうやらここは話に聞く「乙女ゲーム」の世界であり、

知らぬ間にわたくしは転生を果たしていた様子。


つい先ほど、婚約者がいつまで経っても夜会に現れず、

あちらこちらと探している間にファーストダンスが始まってしまったのですが、

その動きを観ていて、


「カニの求愛行動とか観たことないけど、

 こんな動きなんじゃないの?スクショ撮りたい」


と、思わずつぶやいたら転生前の記憶が流れ込み、現在の記憶と融合しておりました。

かつての名前とか職業とかは思い出せませんけど、確かゲーマーだったなあ、と。


残念ながら、格闘、アクション、シミュレーションばかりで、

乙女ゲームは全く手付かずだったこと。当然美少女ゲームもさっぱりですわ。


よってこの世界の予備知識はなく、ここに生を受けてからの一般常識しかございません。

王子妃としての教育は、幼少時より強制的に受けさせられておりましたが。


なのになぜ乙女ゲームと判断したかと申しますと、一般人でも美男美女があふれてて、

人物の声が洋画とかアニメとかで聞き覚えのあるものばかりでしたので…

ちなみに第一王子はノートに名前書いてそうな声ですわね。


あ、スクショは無事撮影できました。

念じたらポーズがかかってメニュー出てきたのです。便利。


ただ、この世界の原型ってあまり予算確保できなかったのか、

あるいは絵師様やデザイナー様と人気声優さん起用で力尽きたのか、

妙にユルい部分が多いように思われます。さっきのダンスといい。


国名からして、世襲の絶対君主制なのにエキセントリック『共和国』だったりしますし。

まあ転生前にも世襲の絶対君主制で『共和国』名乗ってたところもありましたっけ…。


しかしようやく現れた金髪碧眼美形王子よ、

本日初見ですが横にはべらす小柄なピンク髪はなんなのですか。


思春期男子の欲望詰め合わせみたいなあざと可愛さを振りまきつつ、

人をダメにする胸で王子の腕をこれでもかと包み込んでいるけど、

なんかヒップワークの軽そうな名前といい、国の将来大丈夫なのかしら。


このところ、殿下が平民の特待生と仲睦まじくしている、

とは噂が流れていましたけれど…。


ちなみに彼らの周囲ですが、

騎士団長の次男、宮廷魔法使いの孫、宰相の息子がそろってわたくしをにらみつけ、

口々に責め立てています。


あ、ちがう、みなさん顔はこちらを向いてますが、

視線は王子とピンク髪の接触面に集中してますわ。

にらんでいるのではなく、うらやんでいるのですね…願望に忠実ですこと。


ちなみに宰相の息子はわたくしの義弟になります。

愛してくれた母が亡くなるとすぐ再婚した義母の連れ子とされておりますが…。

母の生前から関係があったのでしょうね、

義弟は父の若い頃の肖像画とそっくりなので。初対面の時から敵です。


「ヴィクトリア様!せめて…せめて一言謝ってくださいませ!」


あ、ピンク髪がなにか言い出したわ。

ってこの声わたくしお気に入りの声優さんじゃないの!ひどいわ。


「すれ違いざまに腐った魔物の臓物を頭からかけられたり、

『目障りなのよ!』とファイアーボールをぶつけられたり、

 歩いていたら校舎の二階からブロンズ像を投げつけられたり、

 校舎裏に呼び出されて崖から突き落とされたりしましたけど、

 謝って下されば許します!」


すごいわね捏造されたわたくし!

嫌がらせどころか殺意の化身だわ!貴女、それでなぜ生きていられるのかしら。

そもそもこの世界、治癒魔法はあっても蘇生魔法は伝説の存在なのだけど…。


というか、このピンク髪とは本日初対面、

実行不能だったものを謝れなどと言われても。


「なんという女なのだお前は!

 心優しいミナネトリーが許そうとも、この俺は許せんぞ!」


「デリックさまぁ…

 それでもあまりひどいことはなさらないでくださいませぇ」


好感度上げに余念のありませんこと。ええ、わたしも心優しいと思いますわ。

そんな危険人物は世間も許せないでしょう。事実なら。

片頬少し上げているピンク髪が目に入ってイラッとします。


「殿下、婚約破棄は承りますわ。

 その件でお伺いしたいことがございますが、よろしいでしょうか?」


「む?なんだ?罪人の戯言だろうが聞いてやろう、申せ」


(こいつ…)「わたくしの魔法の主属性は覚えておられますか?」


「覚えているぞ、闇であろう。陰湿な貴様に実にふさわしいわ」


(んだとコラ)「…校舎の二階にブロンズ像はございますか?」


「ブロンズ像は学園の正面玄関にしかないだろう。記憶力がないのか、貴様」


(おいキサマ)「…校舎の裏にある崖をご覧になったことはございます?」


「はっはっはっ。何を言っている、校舎裏は貴族街ではないか。

 崖などどこにあるのだ」


(えーと…)「質問は以上でございますわ。

 今の殿下の回答を踏まえておかしな点はございませんこと?」


「ん?おかしな点とはなんのことだ。煙に巻こうとでもしているのか」


うおおダメだこいつ。矛盾点とか感じていないわ。

あ、段々転生前と意識融合してきた。


「どうやら謝罪も反省もないようだ…

 王都追放で勘弁してやろうと思っていたが生ぬるい。

 ヴィクトリアはこれより一旦地下牢へ投獄し、

 後日大衆の前で公開火刑に処すこととする!」


…王子には権限がないのに裁判もなしに処刑!?

証拠とやらはでたらめな証言のみで?


えーい、こんなユルさ必要ないわ。幸い記憶と同時に目覚めたものがある。

なんとしても切り抜けてくれる。物理で。


まずは無言で踵の高い靴を脱ぎます。踏み込みに支障がありますので。

王子たちは、わたくしが何をするつもりかわからず、傍観していますね。

この機は逃しませんよ。


瞬歩で王子の懐に飛び込み、片足を踏みつけて逃れられなくし、

肘打ちをボディに叩き込みます。


「おぶっ」


踏みつけた足を外し、王子が身体を折り曲げ、

下がってきた顎を掌底で上へと打ち抜いて。


「ごあっ」


浮きあがった王子の身体に鉄山靠を。

大広間の壁に無事めりこみました。ユルい世界設定に感謝を。

壁の中でうめいているので彼も生きてはいるようです。まだ。


…あー、予想通りメニューにあったので格ゲーの技が出せたのですが、

思い通りとはいきませんね。掌底打った手が痛い。

この場を切り抜けた後はなにかトレーニングを考えないと。


「きっさまぁ!よくもデリック殿下を!」


惚けていた取り巻きたちがようやく我に返りました。

今怒鳴ったのは騎士団長の次男ですね。

よりによってこれもお気に入りの声優さんだ…。


「この場で切り伏せてくれる!」


身の丈ほどもある片刃の大剣を振り回して接近してきました。

危なくて他の方々は近づけません。

え、夜会は武器持ち込み禁止なのにどこからそんなもの出したの?

イヤなユルさだわ。


騎士団長の次男、赤毛の獅子と渾名されるブユーデン・イキリマクール。

いずれは父君を継いで騎士団長にもなれるだろうと評されるだけあり、

大剣を苦も無く扱っています。


剣筋もブレてないし振る速度も速い。ですが…

なんというか、全部確認して避けられる。


最初はポーズして(ポーズ中わたくしも動けませんが)、

回避方向見極めていましたが不要ですね。


どうやら、この乙女ゲー世界(推定)とは別の法則が

わたくしに作用しているようで、回避は楽です。


横なぎ、袈裟懸け、突き。当たれば痛いでは済まないのでしょうが。


「おのれ、ちょこまかと!だが、手も足も出まい!」


踏み込んで大剣を振り下ろし切る直前、足払いをかけると同時に闇魔法で。


「ピット(ぼそっと)」


軸足に浅い落とし穴を仕掛けてみます。あっ。


「のぼっ!?」


大剣の柄部分が、次男の股間に直撃してしまいました。

ごめん、ここまで狙ってはなかったから。

倒れ込む次男は顔面を大剣に盛大にぶつけます。

顔を土気色にして言葉を発することもできない様子。


「弔い合戦です!二人の遺志は無駄にしません!」


この発言は宮廷魔法使いの孫ですね。

白銀の若き知性(笑)ヘリックツ・レスバトル。


全属性に才を持ち、彼のおじい様に匹敵する魔素と魔力の持ち主で、

学生の身ながらもう魔獣討伐にも参加するとか。

この声もお気に入りの声優さんじゃない…がっかりですわよ!


あ、一応ツッコミは入れましょう。戦闘不能の二人ともまだ存命中ですよ?


「アイシクルバラージ!ライトニングレイン!クリスタルジャベリン!」


評判通りの高威力、上級魔法を呪文名だけの短縮詠唱で次々放ってきます。

でも…


「うわわっ!?」「きゃあっ?」「ぐはあっ!」「ひいいっ!」


高威力の広範囲魔法を屋内で使ったら、

そりゃあ周囲はとばっちりが来るわよね。彼の知性はどこに。

わたくしが瞬歩で移動しながら呪文を回避するたびに、

後方で悲鳴と怒号が上がります。


倒れてた次男にも雷撃が当たってたし。

こちらのほうが股間強打よりダメージ大きいのではないかしら。


「ええいっ!次こそ当てます!インフェルのぉぉぉぉ!?」


被害が拡大し続けているのでそろそろ決着を。

瞬歩で距離を潰して呪文発動直前にひじの内側を曲げてあげたので、

炎熱地獄の方は見事に顔面に自爆。


長い銀髪が焦げて縮れて、黒いブロッコリーに。

倒れて煤を吐いてるけどまだ生きてるみたいね。


「くっ、あ、義姉上っ、これ以上の狼藉はっ」


「あら、どうなるのかしら?」


最後の取り巻き、うちの義弟はわたくしをにらみつけ…てないわね、目が泳いでる。

だいたい罪って何よ。断罪のでっち上げ部分は無罪だわ。そりゃあ抗うわよ。


ミックビル・アイアンソーン。彼もまた声がいい。腹立つ。

これがわが公爵家の後継者になることは残念なことに決定しています。


一応言われた事はこなすし、学園での成績も上位と聞いているけど、自信家の癖に小心者。

頼もしい?先輩方が倒れていく中、必死に打開策というか逃走経路を探している模様。


「先輩方、ここは応援を呼んできますっ」


やっぱり逃げた。けどね。こちらは殴る必要もないのよ。


「ふんっ!」


敷いてある赤絨毯を引っ張れば、あなたの足元も連動するの。

なんか妙にいい音を立てて、顔面から床に激突。そのまま気絶したようね。


さて。

残るは元凶たる、おっぱいでっかちただ一人。

ここは、転生前言ってみたかったセリフをアレンジさせていただきましょうか。

呆然としているピンク髪に向けて歩を進めます。


「ええと、ミナネトリー嬢、でしたわね?

 貴女にも当然冤罪の代償をいただきますわよ。

 お花摘みは済ませまして?

 女神様にお祈りは?

 大広間のすみでガタガタ震えて命乞いをする準備はよろしいかしら?」


「はうっ」


…少し脅した程度で失神ですか。一撃ぐらいは入れたかったですが。

あ、お花摘みはまだでしたのね。泉を作られてますわ。


さて、立っているのはわたくしひとり、大広間は主に魔法乱打でがれきの山。

そろそろお暇しましょうか。


国内にわたくしの味方は期待できません。父もおそらく義弟につきます。

王子の取り巻きたちには泣かされている婚約者がいますが、

確か全員下級生なので今夜の夜会に参加もしていません。


彼女達は家格も低いし、わたくしに加勢してくださるかはあやしいでしょう。

ここは即出奔一択かしら。


メニュー内には装備品や食糧、金貨銀貨などがアイテムとして入っています。

生活面では当面支障ないはず。

まずは脱出して国境は避けて森を抜け、隣国へ逃れましょう。


この際やりたいことはやりつくしましょうか。

動きやすい靴に履き直し、大広間のステンドグラスを盛大に突き破って外へ。

また、転生前の野望を達成です。




…この時のわたくしは思いもよりませんでした。


その後、王子主導の悪役令嬢討伐軍をゲリラ戦で撃退したり、

復活した魔王と邪神をハメ技で圧倒したり、

真の悪役令嬢四天王と激闘を繰り広げたり、

夕日を背にしてヒロインと聖女が拳で語り合うのをチベスナの目で見届けたりするとは。


あ、ちなみにピンク髪はヒロインでも聖女でもなかったようです。

何者だったのよ。

主人公が比較的まともな名前なのは、本来物語の人物ではなかったためです。

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