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【完結】公爵継承の条件が、堅物令嬢の心を掴むことだった  作者: 水瀬みずか


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第6話 見極め

 翌朝


 スティーブは、王都のとある邸宅の前で馬車を降りた。


(……俺が、こんな用件でここに来るとはな)

ノーランド男爵家。

質素だが、手入れは行き届いている。

成金でも没落でもない、堅実な家――それが一目で分かる佇まいだった。


「グランフォード公爵家、スティーブ様ですね。」

迎えに出た老執事は、過剰なへりくだりも、警戒も見せない。

それが、かえって居心地を悪くさせた。

応接室に通されると、数分後。



「……失礼いたします。」

 扉を開けて入ってきたのは、リリベットだった。

 相変わらず飾り気のないシンプルな装い。

 昨日までの冷たい仮面ではなく、少しだけ疲れた表情。

(……屋敷だと、雰囲気が違うな)



 そう思った自分に、スティーブは内心で舌打ちした。

「なぜ、こちらに?」

「正式な訪問だ。逃げ道はないだろ?」

「用件次第では、追い返しますわ。」

椅子に腰を下ろし、彼女はまっすぐにこちらを見る。



逃げない、媚びない、怯えない。

スティーブは、あえて軽く息を吐いた。


「……単刀直入に言おう。俺は君を口説いている。」

「存じております。」

即答。

「ですが、お断りしています。」

「理由は?」

「あなたが信用に値しないからです。」

容赦のない言葉。

だが、今回は腹が立たなかった。


「じゃあ、逆に聞こう。」

スティーブは身を乗り出す。

「君は、俺を“噂”で裁いた。それは事実だな?」

「事実を集めただけです。」

「俺自身を見ていない。」


その言葉に、リリベットは一瞬だけ黙った。

「……見る必要がありますか?」

「ある。」

きっぱりと言い切る。

「少なくとも、この試験では。」

「試験?」

その単語に、彼女の眉がわずかに動いた。

スティーブは、ここで初めて気づく。


――彼女は、何も知らない。

「君は知らないまま、ここにいるのか。」

「一体、何の話です。」

スティーブは、ゆっくりと言葉を選んだ。

「俺は、君を“選ばされた”。」

沈黙が落ちる。




「後継者試験だ。君を口説き、一夜を共にし、その後どう責任を取るか。それを見られている。」

リリベットの表情が、凍りついた。

「……最低ですね。」

「否定はしない。」

「つまり私は、あなたの試験材料だと?」

「そうだ。」

嘘はつかない。

それが、今の彼なりの誠意だった。

リリベットは、立ち上がった。

その目には、怒りも嫌悪もある。



だが、それ以上に――

「……やはり、噂通りですわね。」

震えを必死に抑えた声。

「今すぐお帰りください。これ以上関わるつもりはありません。」

「それはできない。」

「なぜ!」

彼女が声を荒げたのは、初めてだった。



スティーブは、静かに答える。

「君が試験官だからだ。」

「……は?」

「俺がどんな男かを決めるのは、国王陛下でも父でも王太子殿下でもない。」

一歩、近づく。


「君だ、リリベット・ノーランド。」

彼女は、息を呑んだ。

「君が俺を拒み続けるなら、俺は落第だ。」

「それでいいでしょう。」

「――俺は、それでも構わないと思い始めている。」


沈黙。


その言葉は、計算でも口説き文句でもなかった。

スティーブ自身が、口にしてから驚いた本音。

リリベットは、彼を見つめた。


(……この男、危険だわ)

誠実さと不誠実さが、同じ顔で存在している。


「……一つだけ、約束して下さい。」

「何。」

「私に、触れないこと。」


スティーブは、ゆっくりと頷いた。

「それでいい。」

リリベットは、深く息を吸い、吐いた。

「では――あなたを、見極めて差し上げますわ。」



その瞬間スティーブ・グランフォードは確信した。


(ああ……)

これはもう、

愛だの恋だのと甘く口説く試験ではない。

裁かれる試験だ、と。



――そしてその裁判官は、

彼が初めて、失いたくないと思った女だった。

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