第3話 晩餐会
その後も、晩餐会は穏やかに進んだ。
音楽が流れ、談笑の輪がいくつも生まれスティーブの周囲にも自然と人は集まってくる。
――いつも通り、の光景だが。
(……落ち着かない)
視線が、どうしても会場の端に戻る。
壁際で、必要最低限の受け答えだけをし誰とも深く関わろうとしない令嬢。
(俺の存在、完全に想定外って顔だ)
それが腹立たしいはずなのに、
なぜか、目が離せなかった。
一方、リリベットは。
(……しつこくないわ。)
内心で、小さく首を傾げていた。
噂の男なら、
ここから強引に距離を詰めるか、
甘い言葉で場を取り繕うはずだ。
だが、スティーブはそれをしない。
話しかけてこない。
無理に視線も送ってこない。
彼は、こちらを見ている。
だがそれは、値踏みでも攻略でもない。
リリベットは、ほんの少しだけ姿勢を正した。
(嫌な男だと思っていたのに)
思っていた以上に、
読めない。
晩餐会の終わりが近づき、客たちが帰り支度を始める頃。
スティーブは、再びリリベットの前に立った。
「今夜は、これで失礼します。」
「……ええ。」
拍子抜けするほど、あっさりだった。
「送らせていただく、と言ったら?」
「お断りします。」
即答。
「でしょうね。」
スティーブは笑った。
「では、また。」
「……次がある前提なのですね。」
「否定されるまでは。」
一瞬、リリベットは言葉に詰まった。
「……変わった方ですね。」
「二度目ですね。」
「褒めておりません。」
「承知しています。」
スティーブは一礼し、踵を返した。
背中を見送りながら、リリベットは気づく。
胸の奥に残った小さな違和感に。
嫌悪だけではないそれが何かは、まだ言葉にならない。
一方、スティーブ。
(これは……)
馬車に乗り込み、天井を仰いだ。
(面倒だな)
今までなら、
こんな手応えのない相手は避けてきた。
だが、また会いたいと思ってる。
(理由を、知りたい)
彼女がなぜ、ここまで警戒するのか。
なぜ、噂を鵜呑みにしていないのか。
そして――
(なぜ、あんな目で俺を見るのか)
その夜。
スティーブ・グランフォードは「初めて落とせなかった令嬢」のことを考えながら眠った。
それが、
後継者試験の本当の始まりだとも知らずに。




