第26話 最終回
晩餐会の翌日。
公爵邸の応接室は、異様な静けさに包まれていた。
そこにいるのはスティーブの父である公爵、そして、隣国の国王。
「正直に言おう。」
公爵が、腕を組んで口を開く。
「この件、国王陛下と私とで仕組んだ。」
スティーブの視線が鋭くなる。
「仕組んだ、って……何をです。」
国王は、愉快そうに微笑んだ。
「リリベットの身分だ。」
一拍置いて。
「彼女は、私の娘だ。第五王女。」
スティーブの思考が、完全に止まる。
「……王女?」
「遊学だよ。」
国王は肩をすくめる。
「肩書きを脱いで、人として学ぶためのな。」
「男爵家に滞在していたのも、その一環だ。」
公爵が淡々と補足する。
「護衛も身分も伏せてな。」
スティーブは、ゆっくりと椅子に背を預けた。
「じゃあ最初から、俺と彼女は――」
「婚約前提だった。」
公爵が、容赦なく言い切る。
「だがな。お前の遊び人ぶりを見て、このまま王女と、という気にはなれなかった。」
国王が声を立てて笑う。
「いやあ、私も同意見でね。
娘を泣かせる男かどうか、じっくり見たかった。」
「……それで?」
「お灸だ。」
公爵は即答した。
「身分を伏せた娘に本気になれるか。選ばれる立場に立たされたとき、逃げずに向き合えるか。公爵となれば責任が伴うことばかりだからな。」
スティーブは、しばらく沈黙したあと――
低く、笑った。
「最悪の試験だ。」
「結果は上々。」
公爵は、初めて柔らかく目を細める。
◇
その夜。
庭園の回廊。
月明かりの下で、スティーブはリリベットを抱き寄せた。
「全部、聞いた。」
彼女は、驚きも、動揺も見せない。
ただ、静かに頷く。
彼女の額に、そっと額を重ねる。
「俺は一人の女としてきみを選んだ。そして、生涯きみを守る。」
彼は、今度こそ唇を重ねる。
深く、迷いなく。
「婚約も、結婚も、逃げない。きみの人生を、全部引き受ける。」
リリベットは、スティーブの胸に顔を埋めた。
「では、覚悟してくださいませ。」
「もちろん。」
彼は微笑む。
「もう一度言うけど――」
額に、指に、何度も口づける。
「俺はもう、遊び方を忘れた。」
月明かりの下。
王女は、試される立場を終え。
遊び人は、人生を賭ける男になった。
――完




