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【完結】公爵継承の条件が、堅物令嬢の心を掴むことだった  作者: 水瀬みずか


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第25話 晩餐会

 夜明け前、屋敷の窓辺に淡い光が差し込む頃。

リリベットは、ほとんど眠れないまま朝を迎えていた。

胸の奥に残るのは、指先の温度と、額に落とされた口づけ。

――逃げない。離さない。

あの低い声が、何度も脈打つ。



晩餐会の夜。

華やかな広間。

視線が交錯し、囁きが渦を巻く中で、スティーブは最初から最後まで、ただ一人を見ていた。

逃げ場は、ない。

けれど――不思議と、怖くなかった。

彼が、近づく。


「リリベット嬢。」

差し出される手は、迷いがない。

その手を取った瞬間、彼は小さく息を吸い、まるで確かめるように強く握った。

「待たせたね。」

「いいえ。」

リリベットは、はっきりと微笑んだ。

「待ってよかった、と思っています。」

彼の瞳が、揺れる。


音楽が変わり、ダンスが始まる。

二人の距離は、今度こそ触れている。

腰に添えられた手。

逃げ道を塞ぐのではない、守るための位置。

「俺は――」

スティーブが、踊りながら低く告げる。

「選択肢を与えたつもりでいた。でも本当は、きみがいない未来を想像できなくなってた。」

胸が、いっぱいになる。

「遊びだと言われても、軽いと言われてもいい。」

彼の額が、そっと彼女の額に触れる。

「それでも、俺はきみを手放せない。」

「ずるいですわ。」

「知ってる。」

あの、苦笑。

「だから一生かけて、償う。」



音楽が終わる。

拍手が起こる中、彼は彼女の手を離さない。

皆の前で、静かに、けれど確かに宣言する。

「リリベット。俺の人生を、全部渡したい。」

息を呑む音。

ざわめき。

「逃げ道も、余白も、覚悟も、全部含めてきみに選んでほしい。」

沈黙の中で、リリベットは答えた。

「最初から、選ばれていたのは、わたくしの方ですわ。」

彼の顔が、完全に崩れる。



夜が更け、二人きりの回廊。

スティーブは、リリベットを抱き寄せた。

今度は、迷わず。

けれど、乱暴ではなく。

「なあ、リリベット。」

耳元で囁く声は、もう飾らない。

「俺はきみに恋するまで、ちゃんとした触れ方を知らなかった。」

「では、これから覚えればいいのですわ。」

彼女の言葉に、彼は小さく笑って、額に、頬に、髪に、何度も口づける。

唇には、まだ触れない。

「大事にしすぎて、壊れそうで怖い。」

「壊れませんわよ。」

彼女は、彼の胸に手を当てる。

「あなたが、こうしている限り。」

長い沈黙のあと、彼はついに、そっと唇を重ねた。



その夜、リリベットは確信する。

この人は、もう遊び方を忘れた。

代わりに覚えたのは――

一人の女性を、生涯かけて愛する方法。

期限は終わり待つ時間も、終わった。

これからは選ばれ続ける毎日が始まる。

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