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【完結】公爵継承の条件が、堅物令嬢の心を掴むことだった  作者: 水瀬みずか


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第21話

 次の晩餐会まで、残された時間は驚くほど短かった。

 それからというもの、スティーブは以前よりもさらに慎重になった。

 噂好きの令嬢たちに囲まれても、曖昧な笑みで受け流し、親しげな視線を向けられても必要以上に近づかない。

 その変化に気づいた者は少ない。

 だが、リリベットだけは――気づいていた。


 廊下で、庭で、短い挨拶を交わす時。

 彼の視線は、いつも一瞬だけ躊躇ってから向けられる。

 触れない距離。

 踏み込みたい衝動を、ぎりぎりで抑えている距離。

 それが、彼女を落ち着かなくさせた。



 ある夕刻、人気のない回廊で二人は行き会った。

 逃げ場のない一本道。

 すれ違うには、近すぎる。

「お時間を、少しだけ頂いてもいいかな。」

 スティーブがそう言った時、リリベットの心臓は小さく跳ねた。


「少しでしたら。」

 それ以上を許すつもりはなかった。

 だが彼は、約束を守るように歩みを止めただけで、近づかなかった。

「晩餐会のことは、ご存じですか。」

 分かっている。

 分かっているからこそ、胸が痛む。

「ええ。」

「――そこで、父は私に結論を求めます。」

 彼は、初めて自分の立場をはっきりと口にした。

 誇示でも、脅しでもない。

 ただの、事実として。

「だから。」

 

 彼の指が、無意識に拳を握る。

「あなたに、約束だけはしておきたい。私は、あなたの人生を踏み荒らすような真似はしないつもりだ。」

 甘い言葉ではなかった。

 愛を囁く声でもない。

 けれど――

 それは、彼女が一番欲しかった保証だった。


「選ばれなくても、ですか。」

 試すつもりはなかった。

 だが、声が震えた。

「ええ。」

 即答だった。

「それでも、あなたを傷つける権利は、私にはありません。」

 その瞬間、リリベットは悟った。

 この人は、変わろうとしているのではない。

 もう、変わってしまっている。

 それが怖かった。

 同時に、胸の奥が、どうしようもなく温かくなった。


「困りますわ。」

 そう言うと、彼は少しだけ眉を下げた。

「なぜ。」

「そんなことを言われたら。」

 言葉が、続かない。

 代わりに、微かな吐息が零れる。

「信じてしまいそうになるから。」

 沈黙が落ちた。

 スティーブは、一歩だけ下がった。

 逃がすための距離。

 選ばせるための距離。

「それでも信じるかどうかを決めるのは、あなたですわ。」

 彼は、そこで引いた。

 追わなかった。

 触れなかった。

 その背中を見送りながら、リリベットは胸に手を当てる。

 鼓動が、早い。


 (……だめね)


 これはもう、

 「関わらない」と決めたはずの感情ではない。

 期限は、迫っている。

 選ばれるか、選ばれないか。

 未来は、まだ何一つ確定していない。


 それでも――

 彼が去った回廊に残る温度が、確かに、彼女の心を絆していた

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