第11話 再接触
※スティーブ視点
中規模な晩餐会――
それは、最も厄介な規模だ。
大広間ほど形式張らず、小規模な集まりほど閉じてもいない。
視線は集まるが、逃げ道もある。
だからこそ、意図がはっきりと見える。
(……いるな)
会場に足を踏み入れた瞬間、
スティーブは目的の姿を見つけた。
壁際、控えめな色合いのドレス、相変わらず装飾は最低限。
リリベット・ノーランド。
(やっぱり、こういう場が好きじゃない顔だ)
誰とも深く話さず、必要な挨拶だけを済ませて距離を取っている。
――逃げる気だな。
スティーブは、グラスを手に取りながら、ゆっくりと距離を詰めた。
「……こんばんは。」
声をかけた瞬間、
彼女の肩が、ほんのわずかに強張る。
(気づいてたか)
「……今夜は、随分と賑やかですね。」
「ええ。」
事務的な返答、視線は彼を見ない。
(相変わらず徹底してる)
「逃げないんだな。」
「逃げる理由がありませんので。」
「俺が理由にならない、と?」
リリベットは、ようやく彼を見た。
「なら、なぜこちらへ?」
(……痛いところを)
「偶然、だと言えば信じるか?」
「信じませんわ。」
即答にスティーブは、思わず笑った。
「正直だな。」
「嘘をつく理由がありませんので。」
「じゃあ、俺も正直に言う。」
彼は、グラスを置いた。
「君と、ちゃんと話したい。」
一瞬、リリベットの眉がわずかに動く。
(……効いた)
「ここで?」
「逃げ場がない方がいい。」
彼女は、ため息をついた。
「強引ですわね。」
「今までの俺なら、もっと酷かった。」
「自覚はおありなのですね。」
「ある。」
だからこそ――
逃げなかった。
「君が嫌っている理由は分かってる。」
リリベットの指先が、きゅっとドレスを掴む。
「噂、過去、態度。全部だ。」
「……。」
「それでも、今の俺を見てほしい。」
(言ったな、俺!)
自分でも驚くほど飾り気のない言葉だった。
「お願いする立場だと?」
「そうだ。」
周囲の視線が、少しずつ集まり始める。
だが、引く気はなかった。
「私は――」
リリベットは、静かに口を開いた。
「あなたを試す立場ではありません。ただ、関わりたくないだけです。」
それは、拒絶だった。
だが――
完全な拒絶ではない。
(違う)
「嘘だな。」
彼女の目が、鋭くなる。
「根拠は?」
「君は、俺を見ている。嫌うなら無視すればいい。でも、そうしない。」
リリベットは、しばらく黙っていた。
音楽だけが、二人の間を流れる。
「……あなたは。」
低い声。
「人を巻き込む方ですね。」
「よく言われる。」
「自覚があるなら、尚更です。」
彼女は、一歩距離を取る。
「私は――あなたの変化を待つつもりはありません。」
「じゃあ、お見せしよう。待たせない。」
その言葉に、
彼女の瞳が、僅かに揺れる。
(――ああ)
拒絶は、まだある。
警戒も、消えていない。
だが、届いてる。
「今夜は、これ以上追わない。ただ一つだけ。」
「?」
「次に会うときは、逃げなくていい場所を用意する。」
リリベットは、答えなかった。
だが――
背を向ける直前、
ほんの小さく、呟いた。
「……本当に勝手な方ですね。」
スティーブは、笑った。
それは、
令嬢殺しの笑みではない。
「知ってる。」
晩餐会は、
何事もなかったように進んでいく。
だが――
その夜、二人の距離は確実に拒絶から対峙へと移った。
次に会う時、もう誤魔化しは許されない。
それを二人とも理解していた。




