1-7 アルヴァネ
すっかり夜になった。
目の前には、すっかり伸びた邪術教の下っ端3人。ヘクトの加工品を受け取りに来た奴らだ。
先程オズが町へ出てからすぐ、俺、クレッセン、マナは迎撃準備をした。
扉が開かれるや否や、すぐさま両脇の死角から俺とクレッセンが2人の頭部を殴打。
残りの1人が状況を理解できずに呆けている間に、マナが『バレット』で重い一撃を喰らわせた。
「こうもすんなりいくとはな」
「下っ端……案外、弱いのかもしれない…」
「マナのバレット喰らった奴大丈夫か?死んでない?」
身ぐるみを剥がしながら、一応敵の安否を確認する。どうやら3人とも息はあるようだ。
「これで縛り上げておくぞ」
「なんだ?それ」
クレッセンが長い鎖を取り出した。
「悪党を捕獲しておくための、アム製の特殊鎖錠だ。そこらの術者では決して破れん」
「すごい…」
「アムでは、そういうモノも作ってるのか…」
「基本的に、戦いに必要なものは何でもあるぞ。武器は剣・斧・重火器その他、防具は盾・鎧などだ。装飾品については管轄外というか…まあ、作れなくはないが、アムよりもディガンという地域の方が特化している」
そのうちアムにも行くことになるだろうから、楽しみにしておこう。
クレッセンが手際よく下っ端を縛っている間に、ヘクトへの指示を伝える。
ヘクトは一瞬の出来事にぽかんとしていた。
「ヘクトさん。とりあえずこの店に関してはもう被害が及ぶことはないと思いますが、俺たちが城に入った後も、もしかすると町が荒らされる可能性があります」
「あ、ああ…」
「ただ、そのような事があっても、オズとマナが護ってくれます」
「ま、マナちゃんも戦うのかい…?」
「うん…任せてほしい…私もオズも、弱くはない」
マナが強気な表情を見せる。
「すまないな…」
ヘクトが情けない声で謝罪する。
「私たち民にもっと、戦う力があれば…」
「気にするな」
クレッセンが、ヘクトの肩を優しく叩く。
「持つ者にも持たざる者にも、必ず何かしらの役割がある。力がないことは弱さではない」
「クレッセン殿…」
「ヘクト氏は、私たちの帰りを待っていてくれるだけでよい。そのような人物が1人いるだけで、不思議と力が湧くものだ。それと」
クレッセンはにやりと笑った。
「魔術を使えるからと己を過信し胡坐をかいている者ほど、『想定外の攻撃』に弱い」
「は、はぁ…」
ピンと来ていないようだった。
「遠慮なく、殴り飛ばせってことだと思います」
クレッセンがパチン、と指を鳴らして微笑む。
「殴り飛ばす…わ、私たち、民が」
「そうだ。それこそが奴らにとっての『想定外の攻撃』。まあ、無理にそうすることはない。何よりも優先すべきは命の無事だ」
会話をしながら、3人とも教徒の衣装への変装が完了した。
「ふん。このような陳腐な装束に隠れてこそこそしているとはな」
「結構、重たいな…マナ、大丈夫か?」
「……意外とかわいく見えちゃうのが、悔しい」
「ははは、大丈夫そうだな」
マナにとってはサイズが大き過ぎたが、さすがは女の子と言うべきか、既に自分用のサイズに裁縫しなおしていた。魔術を使ったにしろ、器用だ。
「役割はわかってるね、マナ」
「うん。大丈夫…ちゃんと、騙す」
城への潜入組が俺とクレッセン、町の防衛組がオズとマナという布陣だ。
マナには常に教徒を装ってもらい、本物の教徒の目を欺き倒していくという算段だ。
俺はうんと頷く。
「よし……俺の故郷の名言に『善は急げ』というものがある。チャンスだと思ったら即座に行動に移すべき、という意味だ」
「ふっ…よい言葉だ」
「ナトゥラに到着して間もないが、既にスタートを切ってしまった以上、やりきるしかない」
「うん」
「今夜、この王都を再び自由へ。かつての繁栄と光を取り戻そう。……作戦開始!!」
俺たちは、ヘクトの店を飛び出した。
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-玉座の間-
「なんだと?」
その一報は、先程まで眠っていた彼の瞳を一瞬で開かせた。
「で、ですから……ハーディライトの末裔が…」
「単騎か」
「い、いえ、それが…複数人と報告を受けておりまして…」
「複数か。なるほど…」
くっくっと笑う。
漆黒のマントを翻し、玉座へ腰かける。
「ハーディライトの末裔…おそらく戦龍神だろう…ここまで早く邂逅することになるとはなぁ」
「い、いかがいたしましょう、アルヴァネさ…」
アルヴァネと呼ばれた男は、次の瞬間にはその配下の首を撥ねていた。
周りの他の配下がざわつく。
「いつも言っているだろう……俺の指示がなくとも、自らの命の意味を常に考え、ここぞという時に「使え」と」
玉座の間全体が静まり返る。
「ハーディライトが攻めてきたという事は、賢龍神も同行している可能性がある…」
アルヴァネは「ちっ」と舌打ちをしたあと、にやりと笑った。
「またとない好機。賢龍神も一緒なら……二人とも、この城を墓場にしてくれる」
「り、龍神を2人も相手に…お言葉ですが、それは今の状況ではむ」
「あぁ~……鬱陶しいな、実に鬱陶しい」
どちゃ、という音と共に、腹に風穴を開けられた別の教徒が死んだ。
「俺が目指してるのは…ストレザの頂点なんだよ」
玉座から立ち上がる。
「あのお方のお傍に立つために…このナトゥラの城を完璧に俺のモノにすることは…必須なんだよ」
ふぅー…と深い息を吐く。
「もしも…賢龍神と戦龍神の首を2つとも持ち帰ってみろ。俺は更に教団の上位へといけるはずだ」
眼下の、100名ほどの配下を指差す。
「さあ貴様ら……この2人のように、怖気づいている阿呆はまだここに残っているのか」
再び静寂に包まれる。
そんな中、一人の赤黒い装衣を着た配下が口を開く。
「そのような教徒はもうおりませんよ、アルヴァネ様。ご安心を」
「おお、貴様もここにいたか、ルドルフ」
「はっ。仮に奴らがこの城に攻め入ろうとも、アルヴァネ様が直接手を下す必要などございません。私めと、片割れであるディンゴが片付けて差し上げますよ」
ルドルフはにっと笑って言う。
すぐ隣にいた、同じく赤黒の装衣の男も膝まづく。
「くっく。頼もしい限りだなぁ、我が双肩よ…」
「我らの魂はいかなる時も、アルヴァネ様の崇高なる志とともに…お任せください」
ルドルフの言葉に、ディンゴと呼ばれた男も頭を垂れた。
「ふふ…では、まずはお前たちに任せてみよう。良いか馬鹿ども。ルドルフとディンゴの命に従えぬものは、即座に命を失うと思え。もはや、これ以上悠長なことは言っていられん。早急に対処しなければな…」
再び、ふぅー…と深い息を吐く。
「配置に付け、貴様ら…。双肩とともに、必ず龍神の息の根を止めるのだ…。俺は下に降りる」
「「「「はっっ!!!!」」」」
玉座の後ろの隠し階段へ向かうアルヴァネの背中に向けられた教徒たちの敬礼音が、一際大きく鳴り響いた。
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(龍神どもめ…少しはタイミングを考えやがれ…!!)
アルヴァネは思い切り壁を叩いた。
額に血管を浮かべながら、ぎりぎりと歯ぎしりをする。
(なぜだ?可能な限りバレぬように立ち回ってきたはずだ。そのためにわざわざ年単位の時間をかけて侵略を進めてきたというのに…クソッ!クソッ!!)
だんだんと床を踏み鳴らす。
荒くなった呼吸を整え、冷静になれと自らを落ち着かせる。
(……まあいい。こんな時のために、あの2人を我が盾として育ててきたのだ。…今、この立場を失うわけにはいかない。確実に仕留めてもらう必要がある。…そうさ、これは本当に好機なのかもしれない。この俺が、更に上に上り詰めるための…!!)
「ふふふ……ははははははは」
肩を揺らし、笑う。
「ここから先は、我ら邪術教による龍神滅亡の歴史の第一歩だ……俺がその、開拓者になってみせる……!」
高笑いをしたまま、アルヴァネは暗い階段を降りていった。




