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1-6 クラドヴィル家

俺たちは、クレッセンと共に王都に到着した。

考えていた通り、城下町には既に暗い雰囲気が漂っていた。


「ここまでとはな…」


クレッセンが神妙な面持ちで言う。


「クレッセンも、今のナトゥラの状況を知っていたのか?」

「ああ、大体は把握していた。私の大陸では、武具や魔具製造の素材関連の調達をほとんどナトゥラに頼っていてな。2年前から徐々に流通が減り、ここ最近はもう、ほとんど止まっていたんだ」

「流通が…」

「ああ、食料や飲料に関しては、東方の小国から調達しているから困らないのだが…何せアムは戦いの大陸。武具素材は食物よりも、重要な資源だ。国中が「ナトゥラで何かあった」と騒ぎ始めていた」


はぁ、とため息を吐く。


「…個人的には、少々動き出すのが遅かったのではないかとも思ったが…私一人が乗り込んで、事態を収拾できるかどうかが些か不安でね。情けないが」

「情けないことなんてないさ」


冷静な判断だ。いくらクレッセンが強いと言っても、敵勢力の規模がどの程度かもわからない以上、単身で乗り込むのは愚策と言える。


「人はいるけど……静かだね…」

「ああ。こんなのナトゥラじゃねえよ」


マナとオズが、暗い表情になる。

周囲を見回すと、確かにぽつぽつと人はいるものの、活気は全くない。

とりあえず情報が欲しかったので、鉱石店の前に立っていた男に声をかけた。


「すみません」

「……」


反応がない。もう一度、大きめな声で呼んでみる。


「すみません」

「……あ、ああ…お客さんかい…?」


目が虚ろで、生気を感じない。

しかし、オズの姿を確認した途端、目に光が宿った。


「…お…お前さん、まさか…オズか…?!」

「ああ、そうだが……あれ、もしかして…」

「あっ……ヘクトおじさん…?!」


マナが男の名らしき言葉を口にした。


「ああ…!やはりそうか…!きみは、マナちゃんだね…?そうか、そうか、生きていたか…!!」


ヘクトと呼ばれた男は、目に涙を浮かべていた。


「おい、マジかよ…ほんとにヘクトのダンナか…」

「そうだ、俺だよ。変わっちまったろう……おっと」


ヘクトは声を潜める。


「とりあえず、店に入れ。中で話そう」

「ああ…」


促されるまま、ヘクトの鉱石店へ入った。


----------------------------------------------------------------------------------------------


「さあ、かけてくれ。旅のお二方も」

「すまない」「ありがとう」


店内奥、家屋スペースの食卓に全員で腰かけた。


「あまりに突然の再会で、まだ気が動転しているが……改めて、よく帰ってきてくれた。オズ、マナちゃん」

「ああ、ダンナも息災でよかった…」

「ヘクトおじさんに会えるなんて思わなかった…よかった」


ナトゥラの状況に気が滅入る直前だったが、少し和やかになった。


「して…お二方は…」

「俺はトウヤ、といいます」

「私はクレッセン。クレッセン=ハーディライトだ」


2人で丁寧に挨拶をする。


「はて…ハーディライト…どこかで……」


ヘクトはうーんと唸った。

ハーディライト。この名前を聞いた際、オズも驚いたような反応を示していた。

この名には何かあるのだろうか?そしてクレッセンも、オズの家名、「クラドヴィル」に関して何らかの知識を持っているようだった。


「うーむ、思い出せん。だが、悪い人間ではなさそうだ、それがわかれば問題ない」

「うむ、それでよいと思う。現に私は悪人ではない」


ヘクトは、ははと笑って流した。クレッセンも同調する。


「ダンナ、驚かずに……というのは無理があるかもしれないが…聞いてほしい」


オズがヘクトに真剣な声を向ける。


「なんだい?」

「この、クレッセンとトウヤだが……それぞれ、龍神の加護を得ているんだ」

「なんだって?!」

「やっぱり、そういう反応になるよな」


椅子から転げ落ちそうな勢いで驚くヘクトに、オズは苦笑いする。


「クレッセンが、戦龍神。そして俺が、賢龍神の加護を授かりました」

「け……賢龍神様……?」


ヘクトは、事実を把握するのに戸惑っているようだった。


「そうか…そうか、ついに……1000年、誰にも譲渡されなかった加護が…ここにきて…」

「ああ、凄いことだろ、ダンナ。話せば長くなるから詳しくはまたの機会にしとくけど」

「そうだな…」


感慨深いといったような面持ちで、ヘクトがため息を吐く。


「ヘクトさん、早速で申し訳ないのですが…もしよければ、ナトゥラの現状について、知っていることだけで構わないので教えていただけますか?」

「ふむ……現状か…」


ヘクトは「ううむ」と唸ってから、切り出した。


「オズとマナちゃんにとっては既知だが…2年前、ここナトゥラは、『邪術教』の侵略を受けた。王国軍の抵抗も虚しく、3日も持たずして王都は陥落。周辺の村や集落も…かなりの被害を受けた」


オズが、ぐっと拳を固めた。


「そして陥落から少しして、国王ハイネ様が姿を現さなくなった」

「国王が?消えたのか?」


クレッセンが訝しむ。


「ああ。だが、『尊厳の篝火』が消えていないことから、まだどこかで生きていることは確かだ…」

「なるほど…」


『尊厳の篝火』。一国を統治する者の血を燃料に灯され、その者の生命が尽きるまで燃え続ける聖火のようなものだ。国に必ず一つ存在する。その火は、燃料とした血の持ち主が死亡しない限り、いかなる手段を以てしても消すことはできない。


「『邪術教』の奴らに幽閉されてる可能性が高いってことか」

「そういうことになる……が、それがわかったとて、我々民にはどうすることもできない。王国軍も2年前の襲撃で半数以上の舞台が壊滅し、それ以来、手をこまねいている…」


ナトゥラには軍隊というものが存在こそしているが、国自体が争いからは程遠い体制を取っているために、実戦経験が他国と比べても非常に乏しいと知識にある。そこが災いしたか。

争い向きの魔術を使うことがほとんどなかったという、賢龍神の在り方が現在も活きているのだろう。


「襲撃とハイネ様の不在により、街も大きく変わってしまった。最近では他国への素材輸出も激減し、職人たちの技術も、やつらの魔具などの製造に費やさなくてはならなくなった…」

「敵軍の規模はどのくらいなのでしょうか?」

「少なくとも100…200はいるかもしれないな」


多いと取るか、少ないと取るか……


「数だけで言えば、そこまでではないのだな」

「多くないのか?!」


クレッセンがあまりにさらっと言う。


「私が一人で相手にした雑兵は最高で500だ。今回の教徒らの強さがどれほどかはわからないが、単騎で貫けない人数ではないと思われる」

「おぉ…流石だな…」


オズが感嘆の声を上げた。


「だが、それはあくまで人数という要素のみで考えた時の話であり、私が単独、且つ特に対策を練らずとも潰せるという絶対的な確信のもとだ。今はそうではない。より慎重にならなくてはならない」


クレッセンは目を閉じ、腕組みをしながら言う。


「でも…100人、200人の規模だとしても…」


マナがぽつりとこぼす。


「2年もあったら、もうとっくにここは滅ぼされててもおかしくないって…思った…」

「たしかに……ううむ」


ヘクトが唸る


「…どうにもおかしいと思っていることがある…。邪術教と言えば、とにかく攻性魔術を悪用し、暴虐の限りを尽くし誰一人残さず皆殺しをするような連中だと思っていたのに…最初の侵略が終わり、ハイネ様が不在になってからというもの、しばらく大きな動きは見せなかった……まるで、様子でも見るかのように…」

「は?そうだったのか?」

「ああ。本当につい最近になるまで、減ってはいたものの他国との交易もほぼ通常通りに行われていたんだよ」


それを聞いた時、ハッとした。


「そうか」

「どうした?トウヤ」


「恐らくだけど」俺は続ける


「内容はわからないが、邪術教はここを拠点にして、何か長期的な計画を進めていたんだと思う。それも、ヘクトさんのような技師や、多数の人員が必要になる計画を」


クレッセンが「ふっ」と笑った。


「なるほどな。だが、予定外の事象が発生し、計画進行を急激に進めなければならなくなった。焦ったわけか」

「そう……俺に、加護が譲渡されたから」


クレッセン以外の全員が目を見開く。しかし、納得した様子だった。


「ナトゥラからアムへの流通がぴたりと止まったのも、主が加護を譲渡された時期と一致する。この推測は間違いなさそうだ」

「てことはだ……奴らが今、焦ってバタついてるなら」

「早急に仕掛けた方が、いい…」


俺は皆に頷く。


「ヘクトさん、邪術教への素材や加工品の受け渡しは、どのように?」

「あ、ああ…基本的には、直接ここに来る。隔週に1度だな…そういえばちょうど、今日、明日には来るはずだ」

「なるほど。その時に来る教徒の人数はわかりますか?」

「そうだな…まちまちだが、最低でも2人以上は来る」


しめた。


「クレッセン」

「ああ。基本的に私は正面から突っ込む戦法が好みではあるが、なるほど。そういった方法も非常に面白い」


さすがだ、俺の考えを即座に読み取ってくれる。


「何するつもりだ?トウヤ」

「まずは城への潜入だ。とりあえず、ヘクトさんのところに来る遣いを叩く」


ヘクトががたん、と椅子から立ち上がる。


「た、叩くとは…まさか、倒すのか?!」

「安心してくれダンナ。2人はほんとに強ぇから」

「焦っているとはいえ…緊急事態なら、城門の警備を強固にすることは必須だもんね……その教徒に変装して、安全に通り抜けた方が確実…さすがトウヤ…」


マナがうんうんと頷く。

俺は再度ヘクトに向き直る。


「もう一つ聞きたいのですが…オズはこの城下町で、どの程度知られていますか?」

「え?俺?」

「…少なくとも、今生き残っている民たちのほとんどは彼を知っているよ。特に私のような、店を構えている者であれば、知らない者はおらんはずだ」


ヘクトの表情がふっと綻ぶ。


「この子は小さい頃から本当に優しい子でな。直接自分の利益にならないとわかっていても、あらゆるところで手伝いをしてくれるような子だった…」

「な、なんだよ急に!やめてくれって」

「オズが顔を出せば、その場が明るくなる…そんな子だ。属性こそ燃灯という攻性だが、この子は私の知る限り、魔術を攻撃に使用したことはないよ」

「私もしらなかった…やっぱりオズは優しい人…」

「そりゃ、話してねーからなっ…」


オズは赤面してそっぽを向いた。

とても良いことを聞けた。これで遠慮なく頼める。


「よし、じゃあオズはこれから町中をひたすら駆け回って、民への声掛けをしまくってくれ。『俺には仲間がいる。俺とそいつらで、すぐに城下町を解放する』ってね」

「お、俺が?!いやいや、実際主力として戦うのはトウヤとクレッセンなんだし、これから俺たちが敵をぶっ倒してくるって、お前らが言った方が…」


俺は首を横に振る。


「こういう時に人々の心を動かすのに必要なのは、魔術の強さでも武力でもない。これまで積み重ねた『信頼』だ」

「おお…それがいい…ぜひそうしてくれオズ。皆、あの日以来お前とマナちゃんのことを心配し続けているのだ…どこかで死んでいないか、元気でやっているのか…とな」

「…トウヤ…ダンナ…」


俺とヘクトを交互に見、心を決めた表情をした。


「よっしゃ…いっちょ任せろ!早速行ってくるぜ!」

「ああ、頼んだ」


オズは意気揚々と出て行った。


「…成長したな、オズは…」

「信頼が厚いようだな」

「そうさ。本当にいい子なんだ」


クレッセンが微笑む。


「ナトゥラはドアの中でも温かい国だと聞いたことがあるが、噂に違わぬようだな」

「……やはり、クレッセン殿は」

「よい。それ以上は言うべきではない」


ヘクトの言葉をクレッセンが遮る。


「私とて、龍神の加護を受け継いだ者。人を見、その魂がどのような形をしているかを、少なからず感知することはできる。そのうえで、彼の魂は美しいものだと判断している。それで良いのだよ」

「そうか…。そう言ってもらえると、ありがたい…」



会話に入れないマナと目が合い、苦笑いした。

俺は敢えて入らなかったのだが。



--------------------------------------------------------------------------------------------


オズの家を発つと決めた日の、夜。

マナは早めに就寝し、俺とオズがコーヒーを片手に一息いれていた時だった。


「なあ、トウヤ。真面目な話がもう一つあるんだ」

「なんだ?」


争いに対する覚悟の話をしたときよりも、神妙で、より不安な表情で、オズが切り出した。


「…俺の、家系についてだ」

「オズの家系?」


家系を話すのに、そんなに不安そうな顔をするものだろうか?


「ああ。どうか、偏見を持たずに聞いてくれ」

「わかった」


前世ではこういう場合、正直な話「それを俺に話されても」といったような、単なる身の上話であることが多かった。「私、僕、かわいそう。不幸だよね。聞いて、同情してくれる?」

聞いたら聞いたで別に大したことない話がほとんどだったし、あなたの不幸ボーダー低すぎない?と常々思っていた。だが、今はそもそも生きている世界が違う。まして、オズの情報だ。得ておいた方がいいに決まっている。


「…おれの家系は代々……邪術教と繋がりがあった」


ほら、普通じゃない。

目を見開くほどの驚きではなかったが、結構な情報だ。平静を装って聞いておこう。


「そうなのか」

「ああ……考えたくもないがな。大体、300年前ほど前からだ」

「具体的にはどんな接点が?」

「ああ、150年くらい前までは、邪術教に魔術の指導も行っていたらしい。戦闘要員を育成するためにな」

「敵を強くしようとしてたのか…」

「結果からみれば、そうだ。あとは、いろんな秘薬作成のノウハウのやり取りとかな…。必要であれば、一般人を殺して実験台にまでしていたそうだ…。ちなみに家名は『クラドヴィル』という」

「クラドヴィルだって…?」


どこかで聞いたことあるような…いや違う。加護の知識だ。どこかの記憶の引き出しにある言葉だとはわかる。

一つわかるのは、加護の知識内にある情報ということは、重要度がそれなりに高いということ。


「クラドヴィル家の思想は、魔術による世界変革。要するに『革命』だった」

「魔術で革命を起こすって言っても…既に当たり前のようにあるものじゃ………いや、まさか」


はっとした俺に、オズが頷く。


「そうだ。クラドヴィル家は「闇魔術の恒常化」を目標に掲げていたんだ」

「それはまた、危険な…」

「そうだろ?この思想を生んだ当時の家長であるヘンデルスは、闇魔術に造詣が深い邪術教にとある提案をした」

「提案?」

「ああ。クラドヴィル家の財産を活動資金として定期的に渡す代わりに、秘密裏に邪術の情報を渡してほしい、と」


ここまで聞いて俺は確信した。


「そうか、だからオズは」

「…そうさ。そのせいもあって、俺は召喚術が得意なんだ」


召喚術自体は禁忌とされていないのだが、実は禁忌の闇魔術と一番近いものでもあり、好む者は少ない。

魔術学校などでも教科としてカウントされておらず、学ぶとなるとほぼ独学になるし、学び始めたとて「生物」を召喚できるようになるまでにはかなりの時間がかかる。

そして、召喚術が好まれない一番の理由は、訓練期間よりも、その習得過程の悲惨さにある。

召喚術は、召喚までの間に対象物の崩壊と再構築が行われる。崩壊過程の習得は基礎中の基礎だが、再構築過程がなかなかに難易度が高い。そこが未熟のままだと、中途半端に再構築された対象物……生き物であれば、体の一部が欠損していたり、原型をとどめていない、異形として召喚されてしまうこともある。

そして、そういう形で召喚された対象は、二度と元の姿には戻せないというおまけ付きだ。

オズは確かに俺より年上だが、まだ若い。にも拘わらず、熟練度は相当なものと言える。

動物を召喚する様子を見学させてもらったことがあるが、手際も見事なものだった。


「召喚術を最も使用しているのは、今も昔も邪術教徒だ。ヘンデルスはそこに目を付けたのさ」

「なるほど…確かに邪術教徒なら、失敗対象でさえも別の実験に使ったりしてそうだ…」

「まさに、だ。魔術書で勉強するより、熟練者の実践を見た方が、経験値としてはデカいしな」


オズはため息を吐いて、続ける。


「ヘンデルスから始まった邪術教との裏交流は、その後俺の2つ前の世代…つまり、爺ちゃん世代まで続いてた」

「最近じゃないか」

「ああ、びっくりだろ。だが、爺ちゃんはこれまでの邪術教との関係は間違っていると考えてた。ひい爺ちゃんが死んでからは一切の関係を断ち切って、奴らから離れてナトゥラで生活してきた。ナトゥラはドアで最も安全な地方で、周辺に教徒の拠点もなかったから、安全だったんだ」


ぼっ、と、オズは煙草に火を点ける。


「…自分で言うのもアレだが、それまでの先祖の努力の甲斐あってか、俺は歴代クラドヴィル家の中でも、召喚術の習得が早かった。才能があった。親父から手順を聞いただけで3回目くらいには出来ちまったし、術式終了までの時間も圧倒的に早かった。当然、ひい爺ちゃんには重宝されたよ『ついにクラドヴィルから、闇の申し子が!!』なんて言われてな」

「……狂ってたんだな」

「ははは…違いねえな。召喚術は闇魔術じゃねえのによ…。親父も親父で俺を称賛してくれた。だが、そもそもの観点がひい爺ちゃんとは違った……親父は純粋に、俺の魔術師としての才能を褒めてくれたんだ。燃灯属性の使い方も含めて」


儚く微笑む。


「『お前は、今までのクラドヴィル家とは違う道を往ける』ってな」

「ああ…」


確かに、オズの燃灯属性の使い方はこの世界においては新しいと言えるだろう。

そういう機会がなかっただけかもしれないが、戦闘で使用しているのを見たことがなく、逆に、日常生活に多く使用していた。

戦闘面でも俺に修行を付けてくれていたのはマナで、オズは主に体術面の修行をしてくれていた。


「断ち切ってからの生活は平和で、幸福そのものだった。痕跡を残しちゃマズいから、デケぇ家や財産なんかは全部捨てちまったが、それ以上のものを手に入れたって言ってたな」

「…そうか、そんな中で2年前か…」


オズがぐっと唇を噛む。


「ああ…そうだ。これが俺の家系と、生い立ちについてだ。お前には話しておかねえとと思ってな…」

「ありがとう、よく理解できたよ……聞いたうえで、恐らくオズが不安視している部分について先に答えさせてもらうと」

「…」

「過去がどうあれ、オズはオズだ。まだ2か月と少ししか経ってないが、少なくとも俺はオズを怪しんだこともないし、本当にいい奴だと思ってる」

「トウヤ…」

「それに、オズが召喚術に長けてたお陰で、俺は今この世界にいられると言ってもいい。中途半端な術者に呼ばれてたら、今頃俺の体はめちゃくちゃだったかもしれないしな」


冗談交じりに笑う。


「そういう過去があった以上、これから先『クラドヴィル』という家名が、何かしら出来事のトリガーになる可能性もある。邪術教と戦っていくのであれば、特にね」

「そう、だよな…」

「けどまあ、そういう時はさ。ぶっ飛ばせばいいんだよ、ぶっ飛ばせば」

「ぶっ…」


オズがぽかんとした。こういう適当な表現を、普段俺がしないからだろう。


「『ごちゃごちゃうるせぇ!俺はオズだ!』ってさ」

「……はは……そっか、そうだよな……あぁ。話してよかったぜ」

「ああ、改めてありがとう。…けどこの件、マナは?」

「マナは知らねえ。知らせるべきかどうか、ずっと悩み続けてる。あいつはまだ12だ。2年間も一緒に居続けた男が、実は仇敵と関わりがあったなんて知ったら、な…」

「そうか。まあ、焦る必要もないだろ」


それでもマナなら大丈夫だろうと俺は思ったが、そこはオズとマナの問題だ。今は口を出さないでおこうと決めた。きっといずれ、知られることではある。

何か問題が起こりそうなら、その時に助け船を出そうと思った。


オズの父親は、オズに明るい可能性を見た。

闇に染まったクラドヴィル家から初めて出た、希望の光。自らの命を捧げてでも死なせたくなかったのだろう。

暴徒による家族の惨殺。平和な世界で呑気に暮らしてきた俺には、想像もつかない光景がそこにはあったはずだ。


「オズ」


俺は改めて、決意を固めた。


「まずは…邪術教の手から必ず、ナトゥラを救おう」

「…ああ!」


俺とオズは、拳をごつんと当てた。

俺が教えた前世の所作。熱き友情と信頼の証だ。



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