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1-5 戦龍神

「とりあえず、これだけありゃいいか」


オズがそこそこ大きなケースに、魔術用の道具を詰める。


「うん…」


更に大きなリュックに、マナも道具を詰める。


「マナ、それ持てるのか?」

「うん。全然大丈夫…!」


ムキッと、マッスルポーズをして見せるが、体に対しリュックが大きすぎて、とても大丈夫とは思えない。


「あ、心配いらねえよトウヤ!余裕だから」


はっはっはと笑ってオズが言う。


「背負ってる間、全身の筋肉に魔術をかけて肉体を強化するのさ」

「おお…そ、そんなこともできるのか」

「強化魔術は全属性の人が可能だよ……もちろん、トウヤもできる」

「なるほど…きつくなったら、後で試してみるか」


魔術の世界なのだから、バフ・デバフが存在するのも当たり前か。


俺たちはオズの家を離れ、一路王都を目指すことに決まった。

目的は、邪術教からの王都奪還。

最初に目指す場所がいきなり悪の組織に牛耳られているという状況があまりにハードに思われるが

恐らくはそこに何かがある。出向かない限り、その何かを確かめることはできないと、直感的に思っていた。


もう一つの目的は、ナトゥラを拠点の一つとすることで今後の行動範囲を更に拡大するためだ。

ナトゥラはドア大陸のほぼ中心にあり、更にドア大陸そのものが他6つの島の中間点にもあたる。

ナトゥラに拠点を置ければ、俺にとってはメリットしかないのだ。


「よし、じゃあ行こう」


それぞれ準備を整えた俺たちは、部屋の明かりを消し、外に出た。

マナが家をじっと見つめている。


「どうした?マナ」

「ううん……ねえぇトウヤ。私たち、またここに帰ってこれるよね?」


隠しきれない不安を含んだ声。そう、確かにこの旅は、状況や運によってはいつ命を落としてもおかしくない危険を孕んでいる。俺もまだ、知識としてしか知らない『邪術教』。もしかすると、とんでもない悪なのかもしれない。だが


「大丈夫。また必ず帰ってこよう」

「……うん」


俺はマナの頭にぽんと手を置いた。

いくら魔術の扱いに長け、戦闘能力もあるとはいえ、マナはまだまだ幼い。

まだ実戦こそ経験していないが、これから先俺はオズと同じく「マナを衛る」という使命を背負う。


「まずはここからひたすら南へ進む。途中に比較的安全な森があるから、とりあえずはそこまで行くぞ」

「ああ、わかった」


俺たちはナトゥラに向けて、足を踏み出した。





3時間ほど歩いただろうか。周囲には少しずつ、木々が立ち並んできた。


「こうして歩いてみると改めてわかるが…オズの家は、相当ナトゥラから離れてたんだな」

「ああ、まだまだ半分もきてねえよ」


魔術を使っているとはいえ、長時間歩き続けるのはなかなかに精神力を使う。


「ちょっと、休憩するか!」


オズの一言に一気に力が抜ける。


「これは……これまでの2人の修行がなければ、ここまでで死んでたかも…」

「はっはっは!結構堪えるだろ」


そんなことはない、とは言えなかった。

一応体力は付けてきたつもりだったが、ノンストップで距離にして15kmほどを歩き続けたという初体験と

疲弊しないように常に耐久魔術を使用し続けていたことによる精神力の減少で、想像以上に疲れが出ていた。


「トウヤ、大丈夫?」


マナが水筒をくれた。


「なんてことない、ありがとう」

「上出来だぜトウヤ!鍛えた甲斐があったな」

「オズたちのお陰だよ」


南の森の更に先、オズの家を出発した時にはほとんど見えなかったが

うっすらと、城のような影が見えてきていた。


「あれが、ナトゥラ城か…」

「そうだ、そこそこでけーだろ?」

「ああ。立派な城だな」

「あの城が、邪術教に牛耳られてるって考えると、正直恐ろしいぜ…」

「確かにな…一体、どこまで侵略されてるのか…」


「既に、ほとんど侵されてしまっているようだぞ」


「?!」


突如後方から、明らかに聞き覚えのない声が聞こえた。

俺たちは即座に振り向き、身構える。


「いや、少し待ってほしい。驚かせて済まない。邪術教という言葉が聞こえたものでな」

「…おい、トウヤ」

「…ああ…」


振り返るとそこには青年がいた。

着物のような装いに、ギザギザ模様の隈取のような紋様を目元に付けている。

それよりも、俺やオズがすぐに感じ取ったのは。


「こいつ……強いな」

「間違いなく強い」


その、異様なまでの強力な術色であった。

オズはわからないが、俺はもう一つ別の、特別なものを感じていた。


「あなたは……誰?」


マナが聞くと、青年は深々と頭を下げた。


「失礼した。私はクレッセン。クレッセン・ハーディライトという者だ」

「ハーディライト…?!」


オズが反応を示す。


「あんた…出身は?」

「アムだ」


アム。ここナトゥラからだと、遥か東方に位置する地域だ。火山活動が活発で、軍事に秀でた場所でもある。


「ナトゥラに2つほど、用事があってな。ここで一息つこうと思っていたら、お前たちがいたのだ」

「用事…?」

「ああ。一月ほど前この大陸に、賢龍神の加護を受けた者が出たみたいでな」

「?!」


俺は、オズとマナと目を合わせる。

2人とも心底驚いた表情だった。


「確かに、出たには出たが」

「やはりか」

「だが、あんたに直接関係があるのか?」


オズが探りを入れる。


「大ありだ。隠蔽することでもないので明かすが、私も龍神の加護を受けた者だからな」

「なんだって?!」


やっぱりか。まさかこんなに早く出会えるなんて。

アムの龍神と言えば…


「……戦龍神か」


俺の問いに、クレッセンが反応を示す。


「その通りだ」

「なら…俺も隠すことはしない。賢龍神の加護を受けたのは他でもない。俺だ」

「トウヤ!」


今はまずいのではといった様子で、オズが止めに入るが、俺は更にそのオズを制止した。

クレッセンは、特別驚く様子もなく、ふっと笑った。


「そうか…やはり、龍神同士は惹き合う運命のようだ」


そう言うとクレッセンは


「では。参る」


太刀を抜いた。


「なにぃ?!」


オズの声が響いたのも束の間

先程まで10mは離れていたはずのクレッセンが、一瞬で詰めてきた。


「…くっ…!!」


かろうじて、一太刀目を躱した。


「…なるほど、反応は上々…」


(この太刀筋……なるほど)

俺は驚くほど冷静だった。その一太刀で、クレッセンの「意図」を理解したからだ。


試されている。


「ふぅー…」


疲労はあったが、俺は迷いなく構えた。すぐに二太刀目が来る。


「はぁっ!!!」


速い!


「っ!!」


だが俺は、その速さに順応して見せた。防壁魔術を瞬間展開し、弾いたのだ。


「……やるな。完璧なまでの防壁魔術だ…」

「練習したんでね」

「ふっ…面白い!だが!」


クレッセンはすぐさま、連撃を繰り出す。


「ぐぁっ…?!」


少し対応が遅れてしまった。

複数の波刃が、俺を斬りつける。


「っつ……いてえ……!」

「トウヤっ!」


マナが割って入ろうとするのを、止める。


「大丈夫、傷はした」

「でもっ…!」


心配そうに見てくるマナに「問題ない」と頷く。

少し驚いたが、やはり。クレッセンの剣筋には、殺意がない。


「まだまだだ」


クレッセンが構える。

殺意がないとはいえ結構痛いので、もうまともに喰らいたくない。

仕方ない。「実験」はもう少し後にしようと思っていたが。


どん、という衝撃音とともに、今度は最初と同じようにクレッセンが突っ込んでくる。

同時に俺は、防壁展開範囲を自分の体をかろうじて覆うレベルにまで狭めた。


「?!トウヤ!お前何を…!」


オズの叫びを聞くが早いか、体に衝撃が走る。

「痛み」はない。


「?!」

「成功だ」


次の瞬間には、クレッセンがダメージを負っていた。

本人も理解ができていない様子で驚いている。


「ぐっ…!何をした…!?」

「攻防一体。守るだけの防壁じゃあ、つまらないからな」


防壁の「形」を視認したクレッセンは「ハハッ」と笑った。


「面白い…なるほど、剣山か」


俺は、体周りに張った防壁を棘状に変形させた。

自分のダメージを軽減するだけでなく、あわよくば攻撃もしてしまおうという発想だ。

防壁の変形には思いの外魔力を消費する。さらにその消費量は防壁の「展開範囲」に依存することも、研究によって判明した。より精度の高い変形ができるよう、範囲を狭めたのだ。


「範囲こそ狭いが、今の一瞬での魔力変形……相応の才覚がなければ叶わぬ所業だ」

「へへ、どうも…」


どうやらクレッセンは、脳筋ではないらしい。


「では…少々『舞わせて』いただこう」


クレッセンは目を閉じ、剣を先端をまっすぐに地面に向ける。

次の瞬間、クレッセンの魔力が跳ね上がった。


(なんだ…?!)

「放狼の纏」


クレッセンが何か言ったと思ったとほぼ同時

既に彼の魔力が、俺の真横に来ていることを察知した。

防壁展開は間に合わないと踏み、辛うじて身を躱す。


「躱すか…だが、そうでなければ困るぞ、賢龍神」


どっどっどっどっ

俺の心音だ。全身の血液が激しく脈打っている。

先程までとは明確に異なる攻撃。


「私はな、賢龍神」


ただならぬ雰囲気は維持したまま、クレッセンが言う。


「自分が戦龍神の加護を得たことには、大きな意味と使命があると思っている」

「……」

「確かにこれまで、代々加護の譲渡は行われてきたが、いつの時代も賢龍神だけは譲渡を行ってこなかった」

「ああ。知ってるよ」


クレッセンは頷く。


「つまりだ。お前という存在と同じ時代を生きるという事は、これまでよりも大きな意味を持つことになる。これは、未だ邂逅していない龍神たちも同じことを思っているはずだ」


それはそうだろう。1000年もの間譲渡されてこなかったのだから。大事件だ。

俺のこの旅の目的も、そこにある。


「この先何があるとしても、私たち龍神の結束は必要不可欠だと考えている。そして、おそらくだか序列を付けるのであれば、最も位が高いのが賢龍神だろう」

「……それは俺も、なんとなくそう感じている」

「そうだろう。で、あればだ。今後皆が付き従うことになる賢龍神の力が酷い体たらくでは、それは非常に芳しくないことだとは思わないか?」


ごもっとも。


「そういうことだ賢龍神。理解してくれたな?」

「ああ……理解した」


理解した。OKだ。とりあえず、試してきたこと全てを、もったいぶらずに実践する必要がありそうだ。


「ふっ……では、見せてくれ。お前の真の力を!」


オズとマナは既に、不安そうながらも静観を決め込んでいた。


「よし……こい、戦龍神」

「参る!!」


再び、瞬間的な速度でクレッセンの顔面が目の前に現れる。

そしてそれよりも前に、剣の筋が襲い掛かる


キィィィイン


「……ふふ」

「ト、トウヤ…!」


俺はその剣を…「刀」で防いだ。


「……守ってばかりじゃ…ね」

「やはり隠し持っていたのだな」


戦えなければ意味がない。それは最初から分かっていたことだ。

だからはじめは防壁を攻防一体の剣山化することで賄おうとしたが、それはあまりに受け身すぎた。

咄嗟の防御という面では有効だが、いざこちらから攻め込むような状況となった際、武器が何もないのはおかしな話だった。俺は元々日本人。日本人になじみのある武器と言えば、日本刀。

それをイメージし続けた結果完成したのがこの…『光迅刀』だ。


「トウヤ……ちょっと秘密が多すぎ…」


マナがぼそっと言ったのが聞こえ、苦笑した。

一体この加護の力で、どこまでのことができるのか。俺はそれが知りたくて、集中力を高めるためにも1人でこっそり修練に励んでいたのだ。


「攻める方法を持っていないわけじゃない。まだまだ…発展途上だけどな」

「おもしろいっ」


何度も剣を交わすうちに気づいた。やはりクレッセンは戦闘に特化している。

加護が戦龍神なのだからそれはそうなのだが、それにしてもだ。

見かけは、とてもじゃないが屈強という言葉は似合わず、細い。

しかしその体躯の内側には、鍛え抜かれ細かく密集した筋肉があるのだろう。

自分の背丈とそれほど変わらない大剣を軽々と、そして素早く振り抜き続けていた。


「こうでなくでは面白くない…」


10分は動き続けただろうか。

クレッセンの額には、少しだけ汗が滲んでいた。

それでも、少しだ。俺はと言えば正直、息も絶え絶えになっていた。


「やっぱり……相当強いな」

「光栄だ…ところで、おそらくお前はその刀を扱い始めてから、まだ日も浅いだろう」


見抜かれるか。それはそうか。


「ああ」

「それでいてこの動き!そしてこの体力!才覚は本物のようだな…それも、光迅属性とは!」

「どうも…!けど、そっちもまだまだ本気じゃないんだろ?恐れ入るよ」


こうした会話中も、剣は交わし続けている。


「当然だ、私は戦龍神だからな。武力で賢龍神に劣るなど、許されないことだ」

「それはそう……だな!!」


互いに大きな一振り、そして鍔迫り合い。

魔力の火花がバチバチと弾ける。どちらともなく弾き、距離を取る。


「これで最後だ、賢龍神」

「ああ」


次の一撃で決着をつけるつもりだ。


「マナ、治癒の準備をしておいてくれ!」

「…わ、わかった…」


マナに一声かけておく。これで安心だ。

この勝負、恐らく、というか絶対に、俺の勝ちは無い。大きくダメージを負うのは間違いなく俺だろう。

しかし、クレッセンの中での俺の勝利条件はもうわかっている。

『どんなに小さくとも、この一撃で彼に傷をつけること』だ。


「ふぅ……」


俺は『八双の構え』を取った。


「…面白い型だな」

「俺の「故郷」では有名な型だった」


光迅刀を構えていない方がガラ空きになるが、前腕を八の字に曲げることで疲労を軽減させることができ、一撃に集中するにはもってこいの型だ。


「行くぞ、戦龍神」

「ああ、賢龍神」


ドンッ


互いが地面を蹴る音が響く。瞬間、一気に距離が詰まる。

速さでも力でも100%劣る。だが、俺にはしばらくクレッセンと戦う内に、わかったことがあった。

彼の弱点は…


「っっぐ!!」


クレッセンの大剣が、俺の左肩を割った。激痛が走る。

だがここで引くわけにはいかない。クレッセンの大剣が俺を捉えたその瞬間、俺はクレッセンの『視界から消えた』。


「……!な、なんだと…!!」


左肩は「くれてやった」のだ。

横に振り抜く。意表を突くことに成功した斬撃は、確かにクレッセンの右足を捉えた。

が…魔力でガードされた感覚もあった。でも、これが今の俺の全力。防がれてしまったのなら仕方がない。

当たっただけでも御の字だ。悔いはない。俺は斬った勢いのまま、地面に体を叩きつけられた。


「トウヤ!!!」


すぐにオズとマナが駆け寄ってくる。


「無茶しやがって。あと数センチで肩ちょん切れてるじゃねえか、それ。確かに前マナが、繋がってりゃ大体治せるとは言ったけどよ」

「トウヤは命知らずってこと…わかった。ハラハラした…」


治癒魔術を施しながら、マナが言う。


「すぐには完璧にくっつかないからね!無理しないこと」

「はは…あぁ、わかったよ」


クレッセンが黙ったまま近づいてきた。


「……」

「いやぁ…負けちまった。残念だけど、これが今の俺の実力さ」


俺がそういうと、クレッセンはフッと笑った。


「負けた?それは……私のセリフだ」

「え…」


クレッセンの右足を見ると、どくどくと出血していた。


「えぇ……防がれたはずじゃ…」

「私自身、防いだと思ったのだ。だがこの有様だ。見事だった」


そう言われて、俺は何が起こったのかを理解した。


「ははっ……そうか!上手くいったのかっ…!ははは」

「おいおい、どういうことだトウヤ?」

「ははは…いてて。いや…思いついたんだ。たった1度、決まればクレッセンに一泡吹かせられる方法を」

「どういうこと…?」


オズもマナも、ちんぷんかんぷんのようだ。

クレッセンは真剣な面持ちで聞いている。


「前提として、光迅刀はもちろん、本物の刀じゃない。魔力で具現化させたものだ。てことはだ……一瞬で一部の形状を変えようと思えば、できなくはない」


俺はゆっくりと起き上がり、人差し指で「1」を作る。


「まず、右足に光迅刀そのものの斬撃を当てる。クレッセンは天才的な反応速度を持ってるから、その一太刀は100%ガードされる」

「その通りだ…即座に護った」

「だよな。絶対にガードされる……が、そのガード自体を崩すことはできるはずと踏んだ。なぜなら、全力攻撃の際は『他の部分の魔力強度が弱くなる』からだ」


クレッセンがハッとしている。


「反応速度が速くても、同じタイミングで攻撃に割いている魔力全てを、ガードしたい箇所に持ってくることはできない。魔力の絶対数を底上げすることでしか、対処は不可能……まあ、理論上は、だけどね」


一度だけはぁ、とため息を吐く。


「光迅刀自体の一撃で崩れたガードの『内側』に、ほんの少し形状変化させた魔力をぶち込んでやろうと思ったのさ。ほとんど賭けだったけど」

「……その思い付きをその場でやってのけたのか…計画ではなく、私と剣を交わす中で、弱点を分析して…?」

「そう…ほら一応、龍神様の加護を貰った身だし。そのくらいの機転は利かせられないと、だろ。まあ…ほんとに賢かったら、こんな大怪我負うこともないんだろうけど」

「ふっ…」


クレッセンが、どさっ、と地面に腰を下ろした。


「どうやら私の主は、賢さと共にイかれてしまっているようだな」

「褒め言葉だよ……って、え?主?」

「ん?なにかおかしいか?先程言ったはずだぞ。これから付き従うことになる、と」

「ああ…」


そういえば言っていた気がする。


「殺意も敵意もなかったとはいえ、私はほぼ全力だった…その私が完敗したのだ。もうお前は、私の主だ。有無は言わせない」

「ず、ずいぶん強引だな…」


オズがちょっと引いている。マナはと言えば、俺への施術を終え、いつのまにかクレッセンの治癒にあたっていた。


「まあそう言うな。そして2人も済まなかったな」

「どうして謝るの…?」

「2人にとっても、賢龍神は鍵となる存在なのだろう?見ればわかる。そして男の方は」


クレッセンはオズの方を見やる。


「オズ=クラドヴィルで間違いないな?」

「!!な、なんで俺の名前を…」

「私は、何も剣の修行だけに明け暮れているわけではない。歴史も、出来事も、ある程度は学んできた」

「……」

「少し踏み込んでいかないとその名にはたどり着けないが……クラドヴィル家と言えば…」

「クレッセン」


俺はクレッセンが何を言おうとしたかを察し、止めた。

クレッセンは「ああ…」と言い、踏みとどまった。


「すまない」

「いや、いいんだ…龍神様であれば、確かに、知っていて当然と言えば当然だからな…」

「ああ、そうだな…。だがこれだけは言っておく。『善人』と『悪人』の区別くらいはつくし、私は、主トウヤに従うと共に、オズ、お前についても、旅をともにする大切な仲間とすると決めた。…もちろん、そちらの子…マナと言ったか。きみももちろん、例外ではない。まだまだ幼い子ども、仲間であり、守るべき存在だ」

「私だって、少しは戦える…」

「ふっ。もちろんそれもわかっているつもりだ。その辺の術者と比べても、きみの黒覆の潜在力はとても強く感じられる。だとしても、何よりも大事なのは命だ。基本的にはトウヤと私に任せておけばいい。トウヤの仲間は私の仲間だ」


「まじかよ……これから、敵の巣窟になってるかもわかんねえとくに行くって時に、龍神様が2人も付いてきてくれるって、心強すぎだろ…!」

「そうだな。…改めてよろしく頼むよ、戦龍神、クレッセン=ハーディライト」

「ああ。私の2つ目の目的は、ナトゥラの現状把握と改善…利害は一致のようだ。そして、その先もな。全力で旅路を支援させてもらう。主」


俺とクレッセンは、固く握手を交わした。



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ここに閉じ込められてから、もうどれくらい経過しただろうか。

薄暗く、寒い。窓もなく、外の様子も全くわからないし、知らされない。

未だに嘆く。一国の王ともあろうこの自分が、なんという体たらく。


「……」


魔力も奪われ、抵抗することもできない。

…だがそれは、対人のみに限定される。

私は毛頭、諦める気はない。ここに来たその日から、必ず奴らに一矢報いてやらんという思いを募らせてきた。

魔術が大きく発展したこの世界において、古典的な方法というものは意外にも効果があるという事がわかった。

この約2年の間、私は囚人さながら、この牢獄の壁に穴を開け、少しずつ少しずつ「脱獄」の計画を進めていた。


2か月ほど前から、その作業にも拍車がかかった。賢龍神の加護が何者かに譲渡されたためだ。

1000年もの間音沙汰がなく、もはやドア大陸に龍神はいないのではないかと勘繰ってしまっていたが、そんなことはなかった。

そしてその情報は、地方全体にすぐに伝播する。

その結果が私以外の人間にどういった影響を与えたかはわからないが、少なくとも悪影響は出ていないと信じたい。現に私もその報せを受け、「救いはあった」と思えるほどに内心歓喜したからだ。


賢龍神の加護を得た者は、ナトゥラの現状も、少しずつ自然と把握することになる。

そして、この世界におけるナトゥラという国の重要性もだ。


希望は捨てない。

私は必ずここから出て、再び民の前に立つ。そして、これからこの世界がどのように動いてゆくのかを、伝えなければならない。


頼む、賢龍神よ。

ナトゥラに救いの手を差し伸べてくれ…。



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