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友達ごっこ

作者: 畝澄ヒナ
掲載日:2025/11/18

友達なんて、所詮は他人だ。

親友だと思っていた奴が、俺を平気で見捨てた時に、全て悟ってしまった。


小学生の頃、俺には親友と呼べる奴と、友達と呼べる奴らが沢山いた。

でも、それは俺だけだった。

「親友? ちげーよ、こいつはただのパシリだって」

「うわ、ひでーこと言うじゃん!」

中学生に脅されていた親友を、俺は迷うことなく助けようと思ったのに。

代わりに俺が相手にボコられ、親友だった奴は平然とそう吐き捨てた。

その周辺にいた友達だった奴らの態度も見て、俺だけがバカだったのだと思い知った。

その日から俺は、友達を作っていない。


いつも通りの孤独な時間。

高校の授業はつまらなくて、窓の外を眺めるばかり。

塾で習った範囲、よそ見をしていた俺に、数学の教師が答えてみろと問題を投げかける。

俺は教壇へと足を運び、スラスラと黒板に、過程から回答まで全て書き上げていった。

「どうですか?」

「せ、正解だ。さっさと戻りなさい」

教室から驚きの声が所々から聞こえる。

友達のいない俺には、もはや勉強しかすることがなかった。


俺は入学当初からクラス、学年内ともに成績1位を保ち続けている。

「あれが噂の?」

「そうそう、揺るがない絶対王者だって」

学校ではそんな言葉が聞こえてくる。

「たまには友達と遊んだりしたら?」

母からはよくそう言われる。

でも、俺は気づいている。孤独の方が生きやすいということに。


そんなことを思いながら、何気ない日常を送っていたある日のこと。

校庭のベンチで弁当を広げていると、目の前に何か落ちているのが見えた。

「人形?」

顔はなく、服も着ていない、肌色のまっさらな人形。

不思議に思っていると、綺麗な顔立ちの女性が歩いてきた。

「ここに落としていたのですね」

「それ、あなたのですか?」

「そうですね、そうとも言えるかもしれません」

訳の分からない事を言う女性。

人形を静かに拾った女性は、俺にそれを差し出してきた。

「な、何ですか急に」

「君、お友達が欲しいのでしょう?」

笑顔で聞いてくる女性に、俺は苛立ちを覚えた。

「ふざけないでください。何が言いたいんですか」

「私は君に、少し提案をしたいだけですよ。ほら、こちらへ」

女性に手を握られた瞬間、辺りは一面、星空のような空間になった。


俺は驚きで、その場に硬直する。

「なんだよこれ……」

「驚かせてしまってごめんなさい。私は(あま)、この部屋の門番です」

説明をされても、何一つ理解できない。

「い、意味が分からない、一体なんなんだよ!」

「落ち着いてください、この子が怯えています」

天と名乗る女性の後ろに、俺と同い年ぐらいの男が立っていた。

女性の服の裾をぎゅっと掴み、不思議そうにこちらを見ている。

「誰だよ、そいつ」

「この子は先ほどの人形ですよ」

こいつがさっきの人形? そんなことありえない。

「そんなわけ……」

「天様? この人がお友達?」

男が喋った。年齢に似合わない、子供っぽい口調で。

「そうですよ」

「お、おい、俺はそんなんじゃ……」

「やったー! お名前は?」

話についていけない。

「お名前を教えていただけますか?」

「俺は、田辺友絆(たなべゆうき)だ」

俺は仕方なく名前を答える。

女性は男に対し、柔らかな笑顔を浮かべ、俺の方を向き直した。


俺はさらに説明を求めた。

「この子と、お友達になってもらえませんか?」

その結果、女性から発せられた言葉はこの一つだった。

「なんで俺なんだ」

「君が、お友達を欲しがっていたからですよ」

それは嘘だ。俺がそんなことを思うはずがない。しかし、もう考えるのも面倒だ。

「はあ、分かったよ。で、そいつの名前は?」

「この子に名前はありません。君がつけてくれますか?」

とことん意味が分からないが、俺は少し考えて、思い浮かんだ名前を呟いた。

「トモ、でいいか?」

「だそうですよ、トモくん」

「トモくん! トモくんっていうお名前!」

男、もといトモは名前を連呼しながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

「こいつ、大丈夫か?」

「人間になりたてなので、そこは許してあげてください」

人間になりたて、というよく分からない言葉に困惑しながらも、俺はなんとか受け入れることにした。


名前を付けた時、辺りの景色は校庭に戻っていた。

トモが俺に抱きついて離れない。

「その子、天野トモくんは、君が大事にすればするほど、人間として成長していきます。逆に蔑ろにすると、人形に戻ってしまうので、気を付けてくださいね」

その言葉を残し、女性は去っていった。

「意味分かんねえよ」

「ゆうきくん、トモくん、どうしたらいい?」

それはこっちのセリフだ。

周りの目線が痛い。

「いいから、まずは離れてくれ」

「でも、人間はみんなこうするって、天様が……」

「んなわけあるかよ」

これは骨が折れそうだ。


高校では、トモは転校生としてやってきたことになっていた。

相変わらず、子供っぽさが抜けていない。

「天野、この問題を解きなさい」

「え、えっと、トモくん、分かりません!」

クラスからどっと笑い声が溢れる。

周りの奴らは、トモに対しておかしい子という認識を持っていた。

「おい、田辺、教えてやりなさい」

こんな感じで、毎回俺が教える羽目になる。


トモは周りの目を気にも留めず、いつも笑顔で俺にくっついてくる。

「トモくんね、トモくんはね」

そう詰め寄ってくるトモに、俺は制止をかけた。

「いい加減、一人称を変えろよ」

「いちにんしょう、って何?」

「その、トモくんじゃなくてさ、俺とか僕とかにしろってこと」

トモは少し考え、その日から僕と言うようになった。


高校にいる時はいつも一緒。

登下校も、もちろん一緒。

俺が家に帰る時、トモはあの女性のところに帰り、毎朝俺の家のチャイムを鳴らす。

これが友達、いや、こんなのは所詮『ごっこ』だ。

トモは俺がどれだけ無視しても、必死でついてきた。

「嫌にならないのかよ」

ある日、俺はそんなことを聞いた。

「だって僕たちは友達だからね!」

トモは変わらない笑顔で答えた。


どうせ元は人形だから、人間じゃないから、こいつには正常な判断ができないだけだ。

「俺以外にも話しかけてみたらどうだ?」

冗談交じりにそう言ってみた。

「分かった!」

トモは片っ端からクラスメイトに話しかけていく。

「マジかよ……」

俺はドン引きしながら、その様子を見ていた。

みんなは当然、トモを無視していく。

最終的に、トモは俺のところに戻ってきた。

「ゆうきくん、みんな話してくれないよ?」

「だろうな」

俺は一言だけ話して、教室を離れた。


トモの悪口が聞こえてくる。

「天野くんってさ、田辺くんに迷惑かけて恥ずかしくないのかな」

「あー、あのキチガイでしょ? そんなの分かんないって」

当たり前の反応だ。でも、俺の心はなぜかもやもやしている。

「天野って奴、変なの気づかねえのかって」

「絡まれてる田辺が可哀そう」

俺の悪口でもないのに、無性にイライラしてくる。

「おい、言い過ぎだ」

気づけば、名前も知らない奴に口を出していた。

「なんだよ、お前だって良く思ってないだろ?」

「パシリぐらいだよな、あんな奴と仲良くするなんてさ」

へらへらしながらそう言う奴らに、俺は感情のままに叫んだ。

「お前らにあいつの何が分かる!」

なぜそんなに必死になったのか、俺も分からなかった。

「いきなりびっくりするだろ、もう行こうぜ」

周囲の目が、俺を軽蔑しているように感じた。

結局、友達なんてろくなもんじゃないんだ。


俺はトモから距離を取り続けた。

「ゆうきくん、お話しようよ」

「お前がちゃんとしたらな」

そう言って、俺は向き合おうとしなかった。

「んん、ゆ、友絆、僕と話そう」

「え? いや、ちゃんとしたらな」

俺がそう言う度に、トモは俺たちと何ら変わりなく話すようになり、人形とは思えなくなっていた。

「友絆、僕に勉強を教えてよ」

「……分かった」

仕方なく付き合ってあげているだけだ、こいつは人間じゃないんだから。


あんなに俺に付きまとっていたトモの姿が、今日は見当たらなかった。

何か嫌な予感がする。

考える前に体が動いていた。

校内をくまなく探し、最後に向かった屋上に、校内で有名な不良たちとトモがいた。

「ほらほら、その辺だって」

「早く探せって」

不良たちにそそのかされて、トモはフェンスの向こう側に立っていた。

突如強風が吹き、風に煽られたトモが体勢を崩す。

「危ない!」

俺は思わず叫んでいた。

それに気づいた不良たちは、やばいと思ったのかその場から立ち去る。

不良たちと入れ替わるようにして、俺はすぐにトモの元へと向かうが、一足遅かった。

屋上からトモの姿が消える。俺は無我夢中でフェンスを登り、向こう側へと着地。下を覗き込むと、間一髪で片手でしがみつくトモの姿があった。


苦しそうな顔をするトモの腕をすぐに掴む。

「あ、あれ、友絆……?」

「お前、なんでこんなことしてるんだよ!」

トモは俺の顔を見るや否や、笑顔で答える。

「あの人たちがね、友絆が大切な物を無くしたって教えてくれてね、探してたんだ」

「そ、そんなの真っ赤な嘘だ!」

どうしてか、トモは俺の手を掴もうとしない。

「そっかあ、それなら良かった。重いでしょ? 離して大丈夫だよ」

いつもと変わらない笑顔で、残酷なことを言うトモ。

「何言ってんだよ、そんなことできるわけないだろ!」

「僕は人間じゃないから、落ちたって、人形に戻るだけだもん」

トモの口から、そんなこと聞きたくなかった。

俺が黙っていると、トモは気にせず話し続ける。

「ここまでしてくれるなんて、友絆は最高の友達だよ」

「どうして、そこまで俺の事……俺はお前を蔑ろにしてたんだぞ!」

トモは静かに首を振った。

「本当に蔑ろにしてたら、僕はとっくに人形に戻ってるよ」

その言葉で、俺は自分の本心に気づいた。

俺は、本当にトモの事を友達だと思っていたんだ。


渾身の力を込め、俺は気合いでトモを引きずり上げた。

「うおりゃああああああ!」

無事に戻ってきたトモが不思議な顔をする。

「どうして?」

「トモが、大切な友達だからだ」

俺はもう、自分に嘘はつかない。

作者の畝澄ヒナです。

短編ばかり書いている、自称小説書きです。

この作品を読んでいただき、ありがとうございます。

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よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
全体的に静かでありながら、友絆が内包する熱い心が滲み出てくるような作品だと感じました。『友達』という概念についての考えには共感できる点も多く、だからこそトモが本当の意味での『友達』になったという展開に…
友達なんて…っと考えていた主人公が最後には「自分に嘘をつかない」に変化していく感じが最高でした!最後に失わない展開がすっごく良かったです。今後も応援してます!
何というか少しすれた主人公の心を溶かす感じの 演出がとても良かったです。 最後の最後で失わずにすんで本当に良かった。
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