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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

巻き戻った処刑令嬢アリア。邪神に感謝して2度目の人生を生きる

とある王国。地球なら中世ヨーロッパ風の大国。


ディロン侯爵家の長女アリアは断頭台の前に立たされていた。


彼女が罪を犯していないことは、多くの人が知っている。まだ王の長男の婚約者に過ぎないが、すでに王族に加わるべくふさわしい実績がある。


隣国との交易、貧民街の環境改善に貢献。1年後には王太子と婚姻も決まっていた。


しかし凡庸な父親侯爵がやらかした。


王家の後ろ楯があるとばかりに、慣れない貿易に手を出した。


そこを反王家の手の者に利用された。貿易商を紹介され、口車に乗って禁制の毒物を国内に持ち込んだ。


以前から国家転覆の疑いがあった家と繋がってしまったため、秘かに調査が入っていた。毒物所持をきっかけに、数々の悪行が国内で公表された。


そしてアリアも知らずのうちに父親の悪事に荷担させられていた。


王妃への献上品として父親に持たされたお茶に猛毒が入っていた。それが悪いタイミングで発見され、一族とともに処刑されることになった。


擁護の声もあった。しかし侯爵家と敵対する派閥の貴族から、処刑断行の声が多く上がった。


この数年間で、アリアの家は王家転覆をもくろむクーデター推進派に取り込まれていた。押収された書簡の中にアリアの名前が勝手に記載されていた。


アリアの夫となるはずだった王太子はアリアの無実を知っていた。だから死んでほしくなかった。


彼は政略的な配偶者としてだけでなく、尊敬できる人間として、女として彼女を愛していた。


しかし国外に脱出させることも、冤罪を晴らすこともできずにタイムリミットが訪れた。


アリアは王太子と最後の面会の機会をもらい、言った。


自分のことは忘れてくれ。国を導く者として強くあれと望んだ。


強き王の元で貴族が一枚岩となるように。内乱で多くの血が流れることがないように鬼になれ、と。



罪を犯しながら断頭台の前で泣き叫ぶアリアの父母、兄、姉、妹。


対してアリアは断頭台の前で民衆に一礼し、処刑を受けた。


享年21歳。


◆◆◆◆


アリアは気がつくと、白い空間に座っていた。


目の前には美しい10歳くらいに見える金髪、銀髪の男女がいた。


名もない中途半端な『双子の運命神』


人間には邪神と呼ばれる存在。


理不尽に殺された人間の時間を数年間だけ巻き戻している。


救いの神に見える。過去に数多の人間の時間を巻き戻して、本人が希望する限り何度でも巻き戻りを認めてきた。


だが、ハッピーエンドを迎えた者はいない。


ある貴族令嬢は魔法学園で婚約者から無実の罪により断罪をされた。何度でも巻き戻してやった


巻き戻り期間は必ず1年間だった。


その間、令嬢がどのような努力をしようと断罪される。1回目は家から追放されて夜盗に襲われ死んだ。


ある時は処刑された。


先に平民落ちしても無駄だった。巻き戻った時点で婚約者による罠が張り巡らされている。


力を蓄えぬまま、転生の日に逃げたこともあった。しかし与えられたルートから外れようとすると、暗殺者により殺められた。


かならずバッドエンドが待ち受けていた。彼女は34回の巻き戻りの末に、最初の強き心が打ち砕かれた。


そうして闇に墜ちて魔物に姿を変えた。


彼女は今、邪悪な双子の元で怨念をまき散らすコレクションのひとつとなっている。


双子の運命神は神としては若い。人が必死にあがく姿をあざ笑うばかりで、未熟な心しか持っていない。


双子は笑う。だけど何か満たされない。そうして、次から次へとターゲットを変えていく。


◆◆

『アリアちゃんだね。理不尽な死を迎えたキミに、僕らが再びチャンスをあげる』


金髪の男の子が笑った。


「あなた方は・・・」


『私達は時間を巻き戻せる運命の神。あなたにやり直すチャンスをあげるわよ』


銀髪の女の子が手を差し出した。


アリアは迷わず双子神の提案に飛び付いた。そして生き返った。


前に進むしかない、もう後戻りができない3年前へと。


◆◆◆

「はっ。牢屋の天井じゃないわ・・・」


「お嬢様、お目覚めでございますか」


「・・おはようハンナ。今日は何日だったかしら」


ちょうど3年前に戻っていた。


アリアは双子の神に感謝した。


アリアのことを都合のいい道具としか思っていない父親に、束縛されてきた日々は終わっていた。


いいタイミングに戻っている。


アリアは才女だった。前世でも王女教育は礼儀、ダンスなども含め15歳で終了していた。


巻き戻った時点で、王妃に政治的な能力を見いだされ多くの権限を持たされていた。


まずアリアは王妃に面会を求めた。


この15年、国の南の新興国家との関係が悪化していた。


そのため現王妃は美貌、家柄よりも実務能力が求められた。その厳しい条件をクリアして王室に入った女性だった。


能力で自分に並ぶアリアをいたく気に入っていた。王妃は王子しか産んでいない。だから彼女はアリアを実の娘のように可愛がっていた。



アリアは蘇った初日から動いた。


妹の排除。王妃に、妹と母親が画策して王太子の籠絡を狙っていることを進言した。


普段は何も求めないアリア。進言した内容にも思うところがあった王妃は、馴れ馴れしいアリアの妹に王族への不敬をでっち上げた。


妹は不敬罪、母親は監督不行き届き。監視付きで侯爵邸に軟禁となった。


そしてアリアは自分の利益にしか興味がない家族の元には帰らず、王城に部屋を用意してもらった。


王妃の補佐として力を振るえる状況を1週間で作り上げた。



双子の邪神は笑う。


『お、さすがは才女のアリアちゃん、仕事が早いよね』


『だけど、すでにお父様が欲に駆られて反王家の人間に賄賂をもらってることは、王家の影に掴まれてるんだよね。証拠の書類や禁止薬物も家にあるよ。あなた自身は、どう処刑を回避するのかな』


『罠は何重にも張られているよ』



アリアは王妃に西の国との交易ルート強化を提案した。


これには王妃でさえ難色を示した。一見して旨味がない。


けれどアリアの眼差しを見て、会議で発言することを許した。


西の国は農業大国ではあるが、現在は自国で食糧をまかなえている。欲しいのは東の国の鉄とその加工技術。国の重鎮らも渋い顔をした。


しかしアリアには前回の記憶がある。


「これが最優先事項と思われます。西側の三家で共同事業とすることを進言いたします」

「なぜでしょうか」


西で一番大きな貴族が物を申す。


「私が過去の例を調べましたところ、13日、遅くとも20日以内に災害が起こります」


議員は戸惑った。


東の国との境にある火山が噴火する。そのために火山灰がしばらく国土に降り注ぎ来年は食糧難となる恐れがある。


それを回避するため、交易路の拡大を望む西の国との共同で、ルートを早急に広げよというもの。


貴族、農業大臣も王族から信望厚きアリアの言葉を無視できず、領地に帰って備えることにした。



すると13日後、東の国との国境近くにある火山が200年ぶりに噴火した。


東のルートが滞り、国の西側が交易の主要ルートになった。


高名な学者もアリアの火山噴火説に疑問を投げかけていた。それを反省して称賛の声に変えていった。そしてアリアの協力者になった。



国は食糧難に陥らなかった。


手柄は、あらかじめ派遣していた農業大臣、交易ルートを拓いた三貴族家のものとした。


火山噴火を予言したアリアは、一歩下がって称賛の声を受けた。


『アリアちゃんやるわよね』


『そうだよね。西のルートを拓いて周辺貴族も味方に付ければ、脱出経路が作れるね』


『その西の先には小さな商業都市の連合国と島国。隠れやすい場所を作って保険をかけたかね』


『いち早く命令を出したのは王様。民の援助の陣頭指揮を取ったのは、婚約者の王太子。信頼を得て愛も深めてすごいよね~』


『けれど、お父様侯爵は悪人に毒されてるよ。野放しだよ。悪意を持った人間を放っていていいのかな』



アリアの能力を改めて認識した貴族から、相談が立て続けに入った。


細かなことはアリアが進言した。なにせ前回も国の情勢に逐一気を配っていた。


ことごとく正解を出した。


王命レベルの話は王、王妃、王太子の誰かの立案として発表してもらった。そのときアリアはアドバイス役に徹した。


巻き戻ってから2年半。


その間に不作、疫病蔓延の危機を食い止めたアリア。しかし手柄の独り占めはせず王どころか多くの貴族から信頼を得た。


軍部が懸念していた南の国のとのパワーバランスでも優位に立った。


火山噴火で自国、東の国、南の国が農産物にダメージを受けたが、西から運んだ食料で東の国に支援。


東の国との軍事協力のもと、南の国の軍事境界線を大幅に南の方へと後退させた。


その間に王太子と組んで、父である侯爵と結託した貴族家の不正を次々と暴いた。


敵対貴族が何を起こすか分かっていたアリアには簡単だった。


王家派の貴族は王太子の手腕を見て、次世代も迷いなく王家に忠誠を誓おうと決めた。


不正貴族が着服していた金銭を福祉に回すよう進言したアリアは、自身で孤児救済や雇用拡大の計画を立てた。


その手柄は宰相に譲り、王室を中心に豊かな国を作る目処が付いた。



アリアは婚姻前だったが、王太子に迫って関係を持った。これは前世とは違う。


双子の運命神は、アリアが逃げる前に愛する男に寵愛を受けたと笑った。


いや、嘲笑った。


アリアは時間があれば、前世から触れあっていた孤児院の子供らの元を訪れた。


問題の3年目まで残り3ヶ月。


『アリアちゃん、そろそろ3年経つわよ』


『王太子とも愛し合った。私財の大半も内密のうちに換金した』


『思い出と逃亡資金は出来たわね』


『あとは西に逃げるだけだね~。そんなにうまくいくかな』


『1回目の巻き戻しって、落とし穴に気づかないのよね』


『アリアちゃんの今回の死因は何かな。力を削がれた反王家勢力が、アリアちゃんに刺客を放ってるよ。逃亡中なんて、格好の的だよ』


『そうそう、西ルートも罠だらけだよね~』


『あはははは』


『うふふふ』


『あははは。こっちに来たときのアリアちゃんの間抜け面が楽しみ~』


『前の人は、なんで失敗したの?みたいな顔してたよね!』



アリアが巻き戻って2年と11か月目の早朝。


前回の人生で父親である侯爵が毒物所持で捕らえられた日になった。前世では、ここから牢獄生活が始まった。


アリアが逃げることが可能なタイムリミットを1日過ぎている。


王太子の寝室。


王太子シャルルは、抱いて寝ていたアリアが腕の中にいないことに気付いた。


「・・アリア?」





「はい。ここにいるわシャルル。おはよう」


アリアの柔らかな笑みに、王太子シャルルも自然と笑みがこぼれた。


「おはよう。何を見ていたんだい」


アリアはまだ、王城にいた。


アリアは王太子の問いに答えず、気持ちを綴った。


満面の笑顔で。そして自分の言葉で。



「添い遂げられずごめんなさい。心から愛してるシャルル」



「・・アリア?」


ほどなくして、王宮騎士から連絡が入り、アリアは父侯爵の捕縛に伴い拘束された。


今回は、アリアが実家から持ってきたルビーのペンダントの中に毒物が密封されていた。すでに4年前に罠がかけられていた。


1ヶ月後に侯爵一族の処刑が決まり、アリアは再び断頭台の前に立った。


前回と同じように足は震えていた。しかし姿勢は崩さず、まっすぐに立った。


アリアが耳を澄ますと、自分に感謝してくれる声が聞こえた。


泣いてくれる人も前回より多かった。


自分の3年間は無駄ではなかったと思った。


王と王妃も悲痛な面持ちだった。



「ごめんね、シャルル。私は逃げる準備をしてなかったの。これが、この国に住む人々にとって最善だと思ったの」


目が合った最愛の人に向けて呟いた。彼も泣いていた。


そして前回同様に、王太子はアリアを逃がそうとしたが拒絶した。


冤罪を晴らそうと言われたが、国は災害や紛争から完全に立ち直っていない。


無罪を主張できる材料が少ない自分に時間をかけず、次世代の王として国を導けと獄中で願った。



そうして、2度目の死を迎えた。



◇◇◇◇


アリアは前回と同じ白い空間に来た。


『3年ぶりだね、アリアちゃ~ん』

『アリアちゃん、逃げなくても助かると思ったのかな』


過去に巻き戻した人間にも、逃げるより周囲の味方を増やすことでバッドエンドの回避を狙った者もいた。


そうして負の可能性を塗り潰しながらも死んではあがき、最後は潰れていった。


アリアは1度目と同じく、貴族令嬢としての顔を保ったまま白い部屋に来た。


双子の運命神は感心した。この微笑を何度目で崩せるか楽しみになってきた。


笑いをこらえ、アリアが巻き戻しを願うのを待った。



しかし・・



「双子の運命神様、この度はありがとうございました」


『余裕だね、アリアちゃん』

『さあ、3回目、いってみようか』

『まずは捕縛の原因になったペンダントでも捨てに行こうね~』


「いえ満足させていただきました」


『え?』『は?』


「これにて終了させていただきます」


『ちょっと、ちょっと』

『まだ1回しかやり直してないでしょ』


双子の運命神は、初めて呆気に取られた。


アリアの口から出てきたのは、2人への感謝の言葉ばかり。


前回、心残りだったことを多く解決できたことだった。


国の食糧難の解決。

東の国への食糧援助。

南の国との紛争鎮火。

インフラ整備に伴う雇用拡大。

雇用拡大による貧民層の減少。

交易ルート増加と、多くの街の発展。


「私は、自分が受けてきた教育が間違っていないことを確信できました。さらに、シャルルと結ばれることもできました」


双子の運命神は驚いた。


『アリアちゃん、だけど、その中に自分の幸せが・・』

『人の幸せばかりだよ』


「はい。これで結構でございます」


姿勢も崩さず笑顔で答えるアリアに双子は神でありながら、驚愕した。


「私はお二人のお陰で、真の貴族になることができたと感謝しております。運良く侯爵家の長女に生まれ、王室入りを望まれました」


アリアはそれが自分のすべてだと言う。


「国民の血税を使わせていただき、高度な教育を受けました。そして飢えにおびえることもなく、贅を尽くした生き方をさせていただきました」


双子の運命神は、ただアリアを見ていた。


「ならば、国の礎となることが義務。薄きながら王族の血も流れている自分の使命を全うできました。お二人にも感謝いたします」


双子の運命神には、アリアが嘘を言っていないことは分かる。


『今までの人は、怨みばかり言ってたよ』

『そうよ、なんであなたは・・』


「運命神様の導きの代償。それは何度時を巻き戻そうが、3年目の死が私に訪れることではないでしょうか」


残酷な運命をターゲットに押し付けてきたくせに、真相を見抜かれて焦りの色を隠せない双子。


アリアは続ける。


「必ず、前回の3年間の心残りを消し去ろうと考えました。終わりが分かっていたからこそ、今の自分自身が目指しうる高みに登ることを考えられました」


アリアは、持ち物を処分して金銭に替えた。けれどそれは、逃亡資金ではなかった。


王城のアリアの部屋には最低限の家具しか残っていなかった。


現金は、添え書きとともに置いてあった。孤児や恵まれない子供の教育資金として使ってくれと書いてあった。


伝言と一緒に王、王妃、王太子への手紙もあった。


感謝の言葉が綴られていた。



白い空間でアリアは、双子の運命神に近付いた。体は少しずつ変色している。


1度だけでも双子の口車に乗った。闇落ちは避けられない。


自分の手を見た。


「ああ、これが罰ですね?私の未熟さゆえに、国のためとはいえ肉親まで断頭台に送りましたものね・・」


それでも足を引きずりながら双子のところまで歩き、同時に双子の手を取った。


「優しき双子の神様、感謝します。私の次に、この部屋を訪れる方にも私のような満足の人生をお与えください」


双子は、初めて混じり物がない感謝を人間から受けた。


もっとアリアと話したいと思った。


しかしアリアは膝をついた。身体は次第に黒くなっていく。


その中でもアリアは笑う。


「お二人に幸せが訪れること、お祈りいたします」


2人は思い出した。自分達も神のはしくれ。


とっさに2人は、アリアを善の心持ったまま維持させるため力を注いだ。


しかし双子は生まれてから長きの間、邪悪な力の使い方しかしていなかった。


善悪の道は自分で選べた。


成熟した神なら簡単にできるはずの、人ひとりを闇から復活させる能力を研鑽していなかった。


どんどんアリアは闇色に染まっていく。


『なんで、なんでアリアちゃんを元に戻せないの。その力は私達にあるよね』


『分かってるだろ。僕らが邪な力の使い方しかしてこなかったからだよ』


『・・私達、この子の真逆だよ』


『アリアちゃんは僕らと比べるとわずかな時間しか持たないのに、必死に生きた』


『私達、何をやってたんだろう』


『初めて僕らに感謝してくれた女の子を元に戻せない・・』


双子の運命神は、初めて後悔した。


わずか3年。確実に訪れる死の恐怖と戦いながら、覚悟して生をまっとうしたアリア。


双子は、そのアリアを嘲笑ってきた。


人にとっては悠久と呼べる時間がありながら、己は何も研鑽せず、アリアを獲物に選んで弄ぼうとした。


だから、肝心な時に自分達の本来の力を発揮できない。


後悔することが罰だと主神に笑われているような気がした。


矮小と思っていた人間の覚悟を知った。彼女はバッドエンドしかないことも感づいていた。


なのに自分達を肯定してくれた。感謝してくれた。


俯せになったアリアの柔らかな声が、ふたりには聞こえた。


「シャ・・ル・・あいし・・」



『兄さん、もっと力を注ごうよ!』

『ああ、アリアちゃんにもっと話を聞きたい。愚かだった僕らに謝らせてもらいたい』


◇◇


アリアの存在は残った。しかしアリアとして助かったとも言いがたい。小さな子供が床に寝ていた。


双子の神は後悔した。アリアの闇落ちを完全に止められず、本来のアリアの大半を失わせてしまった。


やがて起きたアリアは、双子の運命神を見た。



「あたし・・。え~と、おにいちゃんとおねえちゃんは、誰?」


2人は愕然とした。


初めて自分達を覚えていて欲しいと思った人に忘れられていた。


再び眠ったアリア。


双子の運命神は、せめて彼女の家族でありたいと思った。


彼らはもう、時間の巻き戻しによる生け贄探しをやめた。


◆◆◆◆


人間界では10年の月日が経った。


アリアが住んでいた国。穀倉地帯が見渡せる小高い丘から降りていく、3つの影があった。


青い空に入道雲。


収穫を終えた村は、豊穣の神に感謝するお祭りでにぎやかだった。


それを6歳くらいの女の子が眺めている。


「おにいちゃん、おねえちゃん、あそこに行ってみたい」


「うん、楽しそうだよね」

「行こうよ、アリア」


アリアと呼ばれた女の子の脇を15歳くらいの金髪、銀髪の男女が歩いている。


3人は簡素だが、質が良さそうなシャツ、ズボンやスカートを身に付けていた。


嬉しそうに走り出したアリアの後ろ姿を双子は目を細めて見ていた。


これから向かう村は、アリアの1回目の人生では火山噴火が原因となる食料不足で滅んでいた。


今回はアリアが救うことができた村だ。


「アリアちゃんが命がけで守った村だよね」


「そうだね妹よ・・」


双子の運命神は何の変哲もない景色が何故、こんなにも輝いて見えるのか分からない。


アリアは復活しても成長が6歳くらいで止まったままだけど、いつか大人になったアリアに聞いてみたい。


その時、ほんの少しでも自分達のことを思い出して欲しいと願っている。


そして、自分達の名前を考えてほしいと思っている。



「おにいちゃん、おねえちゃん、早く行こうよ。競走だよ~~」


アリアは嬉しそうに走り出した。



双子の運命神はただ、村に向かって走っていくアリアを見つめている。



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― 新着の感想 ―
いいお話です、 与えられた時間を貴族としてのプライドやノブレスオブリージュの為に使う 神様達も良い方向へ舵をきれたのではないでしょうか、のちの歴史ではよい神と伝わってる事を願いますね。
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