第八章:「世界一膳、最後の米粒」
味覇都・核心区。
そこにそびえ立つ巨大な調理施設《天厨宮》。
そこには中華帝国の絶対支配者――点心女帝・トウファと、最終兵器たる人工調味生命体、グルタ魔神が鎮座していた。
◆中華帝国、最終形態
トウファは叫ぶ。
「料理とは力! 舌を征する者が、世界を征す!
我が“無限麻婆炉心”で、全人類の味覚を焼き尽くしてやるッ!!」
彼女はグルタ魔神の炉心に“白い粉”を大量投入する。
超臨界状態に達し、世界の空気が甘ったるく粘つく――「超過剰うま味汚染」が始まった。
◆梅三郎、最後の炊飯
連合軍は次々倒れた。
アスランのスープが干からび、シルヴィのソースが分離し、モニカのタコスはしおれ、
かつて裏切ったルチアーノすら、味を見失い立ち尽くす。
それでも、ただ一人、梅三郎は炊飯器を抱え、中央調理台に立った。
「……うま味で押し通す料理に、俺は一粒の白米で対抗する」
◆最終奥義:「世界一膳」
梅三郎が出したのは、たった一膳の白米。
中にあるのは、わずか数粒の漬け物、かすかな出汁の香り、そして――
“記憶”の味。
「これは、全世界の“懐かしさ”を煮込んだ米だ。
辛い日も、苦い日も、泣きながら食べた……そんな一口。
人間は、最も弱ったときにこそ、本当に旨いものを思い出す」
彼は米をとぎ、
世界の海の水を蒸留し、
連合の仲間たちの涙を塩にして、
炊いた。
◆料理決闘:最終審査
ルチアーノが名乗り出る。
「審査は……俺がやる。
もう一度、この舌で、世界の味を測らせてくれ」
トウファの「究極麻婆麺」――
人工旨味5,000ppm、刺激性うま味指数1300の地獄鍋。
食べた者は美味すぎて即死する。
梅三郎の「世界一膳」――
ただの米。ただの味噌汁。ただの漬物。ただの想い。
ルチアーノは麻婆麺を食べた瞬間、吐血。
次に白米を食べ――
涙を流しながら、震えた声でこう言った。
「……ただ、白い米が……
……こんなにも、甘いなんて……
……もう、俺……戦えない……」
◆終焉、そして始まり
トウファは崩れ落ちた。
「なぜだ……なぜこんな無味な米に、私の帝国が敗れる……?」
梅三郎は静かに答える。
「お前の料理には、敵がいた。
でも俺の料理には、誰かに“食べてほしい”って気持ちがあったんだ」
グルタ魔神は炉心を止め、最後に微笑む。
「私に……“味”が……あった気がします……ありがとう……マスター……」
エピローグ:「炊きたての未来へ」
味覇都は瓦解し、各国料理は元の自由を取り戻した。
だが梅三郎は、一人炊飯所を守り続けている。
「世界が飢えたとき、また一膳、炊いてやる。
俺の仕事は、いつだって――“待ってる奴に、飯を出す”ことだからな」