第一章:「世界料理戦争、勃発。」
地球。それは、料理によって支配される星。
その日、世界料理会議の場で、中華料理が高らかに宣言した。
「我らが『麻婆覇道』こそ、世界に君臨する至高の味である! 餃子軍団、点心連隊、麺帝国――すべてをもって世界の胃袋を掌握する!」
中華料理の総帥、**皇龍・麻辣尊**が、湯気をあげる火鍋を前に不敵に笑った。
反旗を翻したのは、フランス料理。
その当主、クロード・ド・ボナパルトはナイフとフォークを構え、優雅に一言。
「テリーヌに誓って、我が誇りは中華の支配には屈しない」
だが数日後、彼のエスカルゴ部隊は壊滅。フォアグラ砲は封じられ、最後は北京ダックで窒息させられた。
その無念を晴らすべく立ち上がったのは、陽気な情熱を秘めたイタリア料理。
リカルド・ピッツァネーロ率いるアルデンテ義勇軍が突撃するも――
「トマトソースは、醤の深みには勝てぬ」
天津飯師団の猛攻の前に、パスタは伸びきり、リカルドは最期にこう叫んだ。
「アルデンテを……忘れないでくれぇぇ!!」
そして、静かに崩れ落ちる日本料理。
敗北の報を聞いた寿司将軍・和ノ宮 梅三郎は、黙って味噌汁を啜り、涙を落とす。
「……もう、箸を握る力も残っておらん……」
彼は衰弱死した。まるで一匹の干からびた昆布のように。
唯一生き残った隣国、韓国料理。
だが彼らは選んだ。生き残るための道を。
「我々は……中華に従う。ビビンバは中華の副菜として生きよう」
キム将軍はひれ伏した。涙をキムチでごまかしながら。
だがそのとき、世界の片隅で、誰も注目していなかった国の料理が、静かに立ち上がった。
その名は――
アゼルバイジャン料理。
干し果実と肉を巧みに融合させ、地中海とアジアの狭間から現れし未知の料理。
「……皆が倒れた今こそ、我が『ドルマ連邦』が動くときだ」
男の名は、アスラン・ドルマグル。
中華料理が支配するこの世界に、一矢報いるために。
「我らは、胡椒の風に立ち向かう――!」
料理の誇りを懸けた最後の戦いが、いま幕を開ける!