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魔族IT革命  作者: 白樹春來
龍仙谷編
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62話 戦闘準備

 マッチはアカヤとココを連れて妖精地区にある「妖精の楽園」というところに訪れていた。


 自然と調和した綺羅びやかなその施設は楽園と名付けられるだけのディストピアがそこには存在していた。


「アカヤとココは入口で待機ね。妖精にいたずらされても絶対やり返さないように」とマッチは厳命した。


 アカヤとココは黙って頷き入口で待機する。


 マッチは女王の間へとゆっくり歩みを進めていった。


 光り輝く大理石の床には、繊細せんさいで複雑な文様もんようが刻まれており、まるでその下を光が対流しているかのようだった。淡い輝きが足元に広がり、文様もんようが浮かび上がるたびに、神秘的な雰囲気が周囲に広がり、美しさを魅せていく。その上を歩くマッチの足音は、大理石の床にかすかに響き、静寂の中で異質な存在感を際立たせていた。


 前方には荘厳な玉座があり、その上に座するのは妖精女王。その姿は光そのものを体現したかのようで、まるで時間の流れから切り離されたように神秘的だった。


 妖精女王は若々しい少女のような姿をしているが、その眼差しには長い年月を生き抜いた者だけが持つ思慮深さをうかがえる。長い金髪は柔らかな光をまとい、背中から広がる光の翼が玉座を中心にした空間を優美に照らしていた。


 身にまとうガウンは、まるで純粋な光そのものを織り上げたかのような輝きを放ち、動きに合わせて光と色合いが絶妙に変化する。光の翼と玉座が織りなすグラデーションは、言葉では表現しきれないほど美しく、まるで見る者の心を静かに包み込むようだった。柔らかな透明感のある光のベールが彼女を包み、その装いは妖精の女王としての風格と神秘的な美しさを見事に体現している。


「あなたが来るのを待っていました」と、女王は口を開いた。


 マッチも頭を下げて礼を示す。


「こちらこそ、急な訪問に答えて頂き、誠にありがとうございます」


 妖精女王はにこやかな表情を浮かべ、マッチの心情を察したようだった。


「私にはあなたの気持ちが痛いほどわかります。さぞお辛いことでしょう」


 妖精女王にはテレパシーという能力があるため、マッチの心情を意図せずに読み取ってしまったのであろう。


「申し訳ございません。機微きびを読み取ってしまうからこそ、他者への配慮として楽園にいらっしゃることを存じ上げているはずなのに……」


 マッチは自分の感情が表に出てしまっていることに、申し訳無さを感じ、できるだけ抑えるため深呼吸をして頭を空っぽにする。


「マッチ、配慮していただけるのは嬉しいけれど、無理しなくてもいいのよ」


 女王の優しさに、理性で保っている心の壁が壊されそうになり、マッチは手短に用件を伝える。


「こちらの要件をお伝えします。我が社と回線契約を結んで頂くことは可能でしょうか? 旧魔王城付近は社のインフラが整備されてなく力を行使することができません」


 マッチは手早く要件を伝えると女王も思案した顔になり、マッチに対価を求める。


「それで、対価は何を頂けるのでしょうか?」


 マッチは素早く答える。


「まずは金銭です。100億コルを用意しております。期間限定で構わないので無制限での使用許可をお願いします」


 マッチの回答に女王も気持ちとしてはわかるが少々困惑する。


「マッチ、確かに相応の金銭を用意するのは当然ですが、金銭があったとしても死金になってしまうわ」


 妖精女王は申し訳無さを全面に出しマッチに謝罪する。


 マッチもビジネスとして話していただけに驚いていた。女王にとって金銭は対価としての価値にはなり得ないものだったからである。


 即座に別の提案を思案し、交渉を続ける。


「妖精女王、ではこうしましょう。女王が楽園だけでなく外の世界も自由に歩けるよう、無意識に他人の心を感じ取ってしまうテレパシーをフィルタリングし、心の平穏を保つ機能を我が社で開発いたします。その開発費として100億コルを使用するという提案であれば、いかがでしょうか?」


 妖精女王は喜びに満ちた。どんなにこの楽園が満たされていても、外の世界に行きたいと長年、思いを馳せていたのだ。


 そして、その願いをマッチが叶えてくれるという。


「いいわ。あなたの案を受け入れましょう。もし、あなたがテレパシー能力を制御できる機能を作ることができるのであれば、専属契約だって結んであげるわよ」


 マッチは頭を下げ感謝を述べる。


「妖精女王、ありがとうございます。それでは今後ともよろしくお願い致します」


 こうして妖精女王との契約を結ぶことができ、マッチは戦闘する準備を整えたのであった。


◇◇◇


 その夜、マッチはウィル&マッチの幹部達を招集した。


 まずは、うさみが入手したウィルとの戦闘動画を見せ、この事案に対応できるのは私しかいないと幹部に説明する。


 アカヤとココが「俺たちも行く」と意見を述べたが、マッチは冷静に諭した。


「もしこれが、互いにパーソ(個人)ナルリソースの戦いなら、アカヤやココに依頼することも考えた。しかし、ウィルのアプリケーションは、個人のリソース範囲をはるかに超えた大規模なものだ。対応するには、エンター(法人)プライズリソースを扱える者でなければならない。だから、私が行く」


 マッチは丁寧に説明するとアカヤもココも悔しそうな顔を浮かべ、黙って頷いた。


 全員の一致を確認でき、マッチはプロジェクトの名前を宣言する。


「これより、プロジェクト名『非合法ストライキ(Illegal Strike)』を開始する」


 マッチは鋭い眼光で幹部たちを見渡し、次の言葉を続ける。


「このプロジェクトは、緊急を要するため、あらゆる事象において最優先とする。遅れや失敗は許されない」


 幹部たちはその言葉に応え、一斉に立ち上がり、真剣なまなざしをマッチに向ける。


「このプロジェクトの目的は、私を時間通りに、確実に旧魔王城跡地で待つウィルのもとへ護送することだ。利益は度外視しろ。いくら使っても構わん。もし、私の歩みを邪魔する者が現れたら……すべてターミネートしろ!」


「はっ!!!」


 幹部たちは一斉に返答し、行動を開始した。


 魔京都で最も大きい会社が、採算度外視で本気を出す。その圧倒的な影響力を示すべく、マッチは社の威信をかけて動き出した。

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