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魔族IT革命  作者: 白樹春來
龍仙谷編
53/68

53話 勇者の実力

 ウィルと勇者の戦いがついに始まった。互いに初手を決め、戦闘が徐々に展開されていく。


 勇者は聖剣と盾を構えてウィルとの間合いを一瞬で詰める。その動きは常人離れしており、化け物と呼ぶにふさわしい速度と力強さを備えていた。


 勇者の聖剣が鋭く振り下ろされる。ウィルは瞬時にその軌道を見極め、間一髪で身を翻した。剣はウィルの肩をかすめるだけで、彼の体には触れなかったが、その直後、勇者は盾で強引に突進し、さらに再び剣を振り上げ、連続攻撃を仕掛けてきた。


 ウィルは即座に体をひねって攻撃をかわし、勇者の連撃を巧みに受け流す。


 勇者の剣技は無駄がなく流麗で、常に次の動作へと繋がる。しかし、ウィルはただ防御に徹するのではなく、相手の動作の癖やリズムを読み始めていた。


 勇者の剣が横から振り払われる。ウィルはその刃を目で追い、身を低くして剣の一撃を避けたが、すぐに勇者は盾を振り上げ、ウィルの顔面めがけて強烈な打撃を繰り出してきた。ウィルは後方へ跳び下がり、間一髪で盾の攻撃をかわしたが、勇者はなおも間合いを詰めてくる。


 勇者は盾を振りかざし、強力な一撃をウィルに叩き込もうとした。ウィルは、その盾がただの防御手段ではなく、攻撃にも転じる巧みな武器として使われていることを感じ取る。


(この勇者、盾をただの防具としてではなく、武器としても完全に使いこなしているか……)


 ウィルは内心、勇者の戦闘技術に驚きつつも、冷静に対応を続けた。


 勇者は距離を取らせまいと執拗に攻撃を重ね、隙を与えないよう努めていたが、ウィルは軽快な動きでそのすべてを見切り、巧みに回避し続けていた。


 ふと、ウィルの視界の隅に、黙って戦況を見守る聖女と賢者の姿が映る。彼女たちは一切の攻撃を仕掛けてこない。


 様子を見ているのか?


 ウィルの考えに呼応するように、アイもすかさず同意を示した。


『ウィル、あの2人、動きを見て何か探ろうとしているかも』


(時間稼ぎをしていることがバレたらまずいな。少し派手に動いて、真剣に戦っているように見せる必要がある)


 そう考えたウィルは、わざと勢いよく動いて見せた。


 外部装甲を展開し、スライムワイヤーを放つ。しかし、周囲には遮蔽物がほとんどないため、スライムワイヤーを活用して捕縛する以外の攻撃手段がない。そこで、ウィルは一工夫を加えることにした。


「あやとり ほうき!」


 ウィルの指示に従い、スライムワイヤーは1本の糸へと姿を変え、あやとりの技「ほうき」を形成する。さらに、成形炸薬弾をほうきの穂に展開し、砲弾がぐるぐると回転する。左手を大きく開き、スライムワイヤーを強く引っ張った。


『ロックオン完了。放って!』


 ウィルは左手をストレージにしまい、スリングショットの勢いで砲弾を勢いよく放った。飛翔した砲弾は空を引き裂く音を立てながら敵に向かって一直線に飛ぶ。


 勇者が咄嗟に叫んだ。


「聖女!!!」


 賢者と勇者が瞬時に聖女の元へと集まり、聖女が唱える。


「神の名をもとに セイクリッド・プロテクション!」


 彼女の祈りと共に、聖なるバリアが展開され、まるで天使が仲間全員を守護するかのように神聖な光で包み込んだ。そのバリアは優雅で荘厳な光を放ちながら、仲間をしっかりと守護している。


 砲弾がバリアに激突し、爆発を引き起こす。メタルスライムが仕込まれた成形炸薬弾は超高温のメタルジェットを噴出し、バリアをこじ開けようとした。しかし、聖女のバリアはびくともしない。


 ウィルはさらなる確認のため、成形炸薬弾を追加で展開し、敵のバリアに対して連続攻撃を仕掛けた。


 炸薬弾が次々と発射され、爆音とともに衝撃がバリアを襲う。


 爆発が大地を揺るがし、視界が煙と炎で包まれる。しかし、バリアは悠然と輝きを放ち、まるで何事もなかったかのように無傷のままだった。


(これで駄目なら……次はどうする?)


 ウィルは考える間もなくさらに成形炸薬弾を展開。続けて爆発を引き起こし、直撃地点にさらなる圧力をかけて打撃を加えたが、バリアはまるで鉄壁のようにびくともしない。ウィルの攻撃は完全に防がれていた。


「アイ、バリアの底が見えない……」


 ウィルは不安を隠しきれずに呟く。


『解析中よ。再生型ではないみたいだけど、恐らく非常に高い耐久度のバリアね』


 アイが冷静に応答する。


『雷刃で試してみるわよ』


 ウィルは雷刃を手に取り、エネルギーをフルチャージする。その瞬間、勇者が鋭い声で仲間に指示を出した。


「賢者、雷耐性を強化しろ!」


 賢者は素早く魔術を唱える。


「神の名をもとに 第4階位魔術、サンダー・キャンセレーション!」


 その直後、勇者は素早くアイテムボックスから「雷絶の護符」を取り出し、ウィルに向けて前に掲げた。護符が光り輝き、仲間全体を包むように防御をさらに強化していく。


 ウィルはその様子を見て、小さく呟いた。


「何か対策してきたようだな……」


『気にしないで、いくわよ!』アイの声が力強く響く。


 ウィルは雷刃を構え、抜刀の姿勢を取った。


「いくぞ……!」


 全力で斬撃を繰り出すと、その一撃は地面を砕き、莫大なエネルギーが勇者一行に向かって猛然と襲いかかった。しかし、斬撃が直撃した瞬間、バリアはひびひとつ入らず、完全に攻撃を受け止めていた。


 ウィルは歯を食いしばりながら、わずかに息をついた。


『ウィル、よく聞いて。どうやら物理的に電気エネルギーが完全に遮断されているみたい』


 ウィルはその言葉を聞きながら、素早く次の手を考え始めた。最強の攻撃手段である雷刃が通用しない現状に、わずかに焦りを感じつつも冷静さを保つ。


「アイ、原因の切り分けを始めよう。賢者の魔術か、勇者が持っているアイテムか、どちらがこの状況を作り出しているのかを特定するんだ」


『了解。引き続き攻撃を続けて』


 ウィルは雷刃を振り、周囲の電子を吸収しようと試みたが、期待するエネルギーの流れが生まれず、まるで空気を切るかのように何の反応も返ってこなかった。


 プログラムに異常はないことはエラーログから確認できる。


 ウィルは高出力の電気エネルギーを何度もバリアに放ち、観察を続けたが、斬撃は見事に遮断される。エネルギーの動きが不自然で、まるで電気そのものが見えない糸に引き止められているようだった。その奇妙な動きから、電子の流れが何かに干渉されていることをウィルは直感する。


『ウィル、電子の動きが不自然よ。何か強力な干渉を受けているかもしれないわ』


 アイが解析結果を伝える。


 ウィルもすぐには結論を出さず、アイの意見に同意し、頭の中で組み立てた仮説をアイに共有した。


「もし賢者の魔術が電気エネルギーに影響を与えているとすれば、勇者のアイテムは電気の流れを遮断している可能性がある。その逆もあり得るが、まずは検証をしたい……」


『了解!』


 ウィルは3人を固まらせないように「あやとり 蝶々」でバリアごと縛り上げ、内部から出られないようにする。すると、聖女がバリアを解き、勇者が聖剣でスライムワイヤーを切り裂いた。3人はバラバラになり、それぞれ距離を取る。


 これで検証の土台を整えることができた。


 ウィルは仮説を立証するため、エネルギーの流れを微調整し、あえて低出力で電気エネルギーをチャージする。


「これぐらいなら、勇者はバリアに逃げ込まないはずだ……」


 ウィルは勇者に向けて低出力の斬撃を放った。


 勇者はアイテムをかざしながらウィルに接近する。低出力で放たれた電気エネルギーは、勇者のアイテムによって遮断され、周囲に霧散していく。


(やはり、勇者のアイテムが電気エネルギーを遮断している……)


 ウィルは確信を得ると、勇者を蹴り飛ばして距離を取り、賢者の方へと向かう。再び雷刃を振り、電子を吸収しようと試みたが、失敗に終わった。


(これで全てが見えた)


 ウィルは自信を持って結論を出した。賢者の魔術が電子の動きを阻害し、勇者のアイテムが電気エネルギーそのものを遮断している。上限はあるだろうが、この2つが組み合わさったことで雷刃が無力化されたのだ。


 ウィルはさらに攻撃を繰り出し、その手ごたえのなさから、確信をより深めていく。


 距離を離して倒せないかと考え、高出力に切り替え、抜刀の構えを取ったが、勇者の掛け声で全員が集まり守りを固める。雷刃の斬撃はバリアにことごとく阻まれ、何の効果も発揮しない。まるで壁に向かって攻撃しているかのように、エネルギーは吸収され、斬撃は霧散する。


 ウィルは無表情でその様子を見つめていたが、頭の中である結論にたどり着いていた。


 このバリアを突破する手段は……ない。


 ウィルは冷静に、自分の攻撃が今のままでは通用しない事実を受け入れた。

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