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魔族IT革命  作者: 白樹春來
龍仙谷編
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51話 リューカの独白

 私には両親がいない。それは、私という存在がただの一時的なものに過ぎなかったからだ。


 気づいた時には、私はすでに「ここに」存在していた。しかし、何のために生まれ、これから何をするために生きていくのか、まったく分からなかった。


 私には声がなかった。声帯が機能していないのか、言葉を発することができなかった。


 声の出ない私に、周りの人々は反応を見せず、無関心だった。


 言葉を知らず、話すことができない私は、他人とのコミュニケーションを取る術もなく、身振り手振りで何かを伝えることすらできなかった。


 誰も私の言葉を聞くことができないから、私はただ、必死に生き延びるしかなかった。


 生きるためには、他人のものを盗むしかなかった。


 食べ物は自分で手に入れるしかなく、頼れる者もいない私にとって、それは当然の「仕様」だと思っていた。


 だから、他人が何を言おうと、それが非難であれ、私には何も分からなかった。


 ただ、生きるためにはそうするしかなかった。


 そんなある日、私は運命の人──ウィルに出会った。


 ウィルは私に「声」をくれた。


「言葉」を教えてくれた。


 最初は、彼を敵だと思っていた。


 やっと手に入れた戦利品をウィルが奪ったからだ。


 でも、ウィルは私に優しかった。


 誰もできないことを、ウィルは平然とやってのけた。


 彼の優しさは、まるで大きな木のように、どんな敵からも守られているかのような安らぎを与えてくれた。


 その強さに、私は縋った。


 最初は嫌悪感すら抱いていたけれど、少しずつその大きな存在に頼るようになった。


 ウィルは面倒くさそうにしながらも、私を見捨てることはなかった。


 私は次第にそんなウィルを好きになり、もっと甘えたいと思うようになった。


 ウィルの存在が、頼れる大きな木から、家族のような温かい存在へと変わっていった。


 彼と過ごす日々が続く中で、私の世界は少しずつ広がっていった。


 籠守りの家では、子どもたちと友達になることができた。


 自分と同じ背丈の子たちと遊ぶのは楽しかった。


 大人の職員さんたちもみんな優しかった。


 特にメアリは、私のことをいつも気にかけ、心配してくれていた。


 彼女の優しさに、私は徐々に心を開いていった。


 メアリという存在に親近感を感じていたのだ。


 彼女と話すと、まるで母親のように温かい気持ちになれた。


 そんなある日、ウィルは突然、私に選択を迫ってきた。


「リューカ、もし俺が龍仙谷から帰る時に、メアリか朱華様のどっちかに行かなきゃならないとしたら……お前はどっちを選ぶ?」


 朱華様のもとへ戻るか、籠守りの家でメアリと過ごすか、どちらかを選ばなければならなかった。でも、私は朱華様のもとへは戻りたくなかった。


 彼女の存在は私にとって、どこか怖くて冷たいものに感じられたからだ。


 どうすればいいのか分からず、私はこっそりメアリに相談することにした。


 私の過去も、何もかも打ち明け、彼女がどんな答えをくれるのか期待していた。


 メアリは真剣に話を聞いてくれた。


 私が生きてきた辛い日々の出来事、孤独の中で必死に生き延びてきたこと、そして頼れる大きな木のような存在に出会えたことなど、すべてを話した。


 メアリはうなずきながら、私の伝えたすべてを受け止めてくれた。


「リューカちゃん、あなたは本当に幸せ者ね。そんな頼れる存在に出会えたのだから……血は繋がっていなくても、ウィルさんはリューカちゃんにとってお父さんみたいな存在なんだね」


「お父さん……?」


 私はその言葉に少し戸惑いながらも、メアリの言葉に耳を傾けた。


「えぇ……そうよ。頼れる存在、守ってくれる存在のことをお父さんというのよ。ウィルさんがまさにリューカちゃんにとってのお父さんだったのね」


 メアリの言葉に、私は胸が温かくなるのを感じた。


 私にとって彼が父のような存在だと気づいた時、自然と涙がこぼれた。


 守ってくれる大きな存在、それが「父」であることが、メアリの言葉によってはっきりと理解できた。


 しばらく沈黙が続いた後、メアリは私の涙を拭きながら、優しく微笑んだ。


 その微笑みには、安心と同時に、少しの悲しさが混じっているように感じられた。


「リューカちゃん、実はね……あなたには、話しておかなければならないことがあるの」


 メアリは深い息をついてから、ゆっくりと話し始めた。


「私たちは、ただの寮母と子どもという関係じゃないの。実は、私もあなたと同じ存在なのよ」


 私は驚いてメアリを見つめた。


 その言葉が何を意味するのか、すぐには理解できなかった。


「あなたが生まれた理由、それは、魔王朱華様の転生に関わる保険、いわば『バックアップ』としての役割があるからなの。転生の儀が近づくと、40年周期で私たちのような存在が生まれるわ。もし朱華様の転生がうまくいかない時には、強制的に卵への引き継ぎを行うように作られているのよ」


「私たちが保護されない理由は、敵に近しい存在として知られないようにするためであり、生物的な戦術でもあるのよ」


 メアリの声には、どこか切なさが感じられた。


 私は、メアリと同じ存在だったという事実に驚きつつも、彼女がそのことを話してくれたことに感謝の気持ちが芽生えていた。


 そして彼女はさらに続けた。


「リューカちゃんが今、声が出せないのも、バックアップとしての役割が大きいから、生まれて間もないうちは言葉を話せないように設計されているの。これは仕様なのよ」


 私はほっとした。


 今まで自分の存在理由が分からず、ただ無意味に生きているだけだと思っていた。


 でも、メアリがその真実を教えてくれたことで、自分がただ無意味に存在しているわけではないと感じることができた。


 そして、なぜメアリが自分にとって母親のような存在に思えたのか、その理由もわかった。


 本当のことが知れてとても嬉しかった。


 だから、選択する時が来たら、母と一緒に暮らすことを父に伝えようと決心した。


◇◇◇


 勇者一行は、計画通りにいかず不満げな表情を浮かべながら、旧魔王城の跡地に転移した。


 彼らの顔には焦燥感が滲み出ている。


 綿密な打ち合わせを重ね、何度もシミュレーションした計画が、最悪の結果をもたらしたことがその理由だった。


 もともとの計画は、魔王朱華を暗殺するか、もしくは運命力が大きいとされる男性を殺害することにあった。しかし、現実には運命力を持つ男性に阻まれて暗殺は失敗に終わった。


 最終的に、殺害できたのは運命力が3番目に大きい女性だけで、4番目に小さな運命力を持つ少女は誘拐するという結果に終わっていた。


 さらに、そのさらった少女は何らかの膜に包まれており、心臓を抜き取ることすらできない状態だった。このまま彼女を連れ帰っても、心臓を取り出せるかどうかも不透明だった。それに加えて、魔王朱華が動き出す可能性も考慮しなければならず、状況は最悪の方向に向かっているように思えた。


 アランは賢者と聖女に意見を求めた。


「暗殺計画は失敗だ。少女の心臓も抜き取れない。敵がこちらの居場所を補足し、追ってくる可能性もある。今、冒険者の町アランに戻るという選択肢は、住民たちに危険をもたらす可能性が高い」


 彼は少し間を置いてから続ける。


「選択肢は2つだ。1つ目は、全力で力を開放してこの少女を覆う膜を破る方法を探り、心臓を抜き取る。そして、奥地の山に隠れてしばらく追手が来ないことを確認するという手だ。2つ目は、旧魔王城跡地を拠点にして、まずは体力を回復し、追手が来ないことを確認する。俺が思いつくのはこれぐらいだ。皆の意見を聞かせてくれ」


 その場には沈黙が広がり、しばらくの間、誰も声を発さなかった。静寂が空間を支配する中、やがて聖女がアランに視線を向けて口を開いた。


「私は2つ目の選択を支持します。リスクが少なく、万が一の場合にも対応できる。敵と対峙するのであれば、こちらの手札を多く持っておきたいです」


 アランは頷き、次に賢者へと顔を向けた。賢者も聖女の意見に同意し、同じく頷く。


「よし、作戦は決まりだ。ここに陣を張り、体力を回復させることを優先する。ただし、完全に気を緩めることはするなよ。適度に休むように」


 賢者と聖女はそれぞれの行動を開始し、準備に取りかかった。アランは攫ってきた少女の方へと歩を進めた。


 少女は小さく震えながらうずくまり、涙を浮かべていた。


 その姿は怯えた小動物のようで、彼女の小さな身体が恐怖と絶望に包まれているのが伝わってくる。アランはその様子を見て、胸の奥底に眠っていた欲望が目を覚ますのを感じた。


 彼は少女の首を掴み、徐々に力を込めて締め上げていく。冷たい手が彼女の首に食い込み、恐怖をさらに植え付けたが、彼女は決してアランと視線を合わせようとはせず、ただ顔を背けていた。自分に起こっている現実を拒絶するかのように、心の中で「もうこれ以上傷つきたくない」と叫びながらも、声に出すことすらできなかった。


 しかし、どれだけ首を締め上げても、少女を覆う透明な膜が縮むことも破れることもなく、彼女に危害を加えることはできなかった。その見えない力が何なのか分からず、アランの焦りと苛立ちは次第に募っていった。


「くそが……」


 彼は吐き捨てるように言い、さらに力を込めようとしたが、魔力を行使するのは踏みとどまった。嗜虐的な衝動と理性がぶつかり合い、かろうじて理性が勝り、彼は少女の首から手を離し、その場に放置した。


 少女は力なく横たわり、ただ泣き続けていた。その絶望的な表情に、アランは妙な満足感を覚えた。少女の涙が、彼にとって支配の証のように思えたからだ。


「魔族の絶望こそが、勇者の務め。これが神の意志だ……」


 アランはつぶやいた。神に与えられた使命が魔族の滅亡であり、それこそが正義だという歪んだ信念が、彼の中に根深く刻まれていた。その満足感は、人類の欲望を体現する存在であることを確信させるものだった。

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