表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族IT革命  作者: 白樹春來
龍仙谷編
49/68

49話 想定外

 龍神巴祭りの最終日、ウィルとリューカは龍神府りゅうじんふへと向かっていた。


 今日は魔王朱華の転生儀式が行われる重要な日。霊峰にあった卵が龍神府に移動され、龍仙谷の住人が一堂に集まっている。


 空は快晴で、清涼な風が祭りの熱気を和らげるかのように心地よく吹き抜けていく。しかし、ウィルの胸中にはどこか切ない思いが広がっていた。


 リューカは人混みの中にメアリを見つけ、子供たちとともに楽しそうに遊びに行った。ウィルはそんな彼女を見守りつつ、ふと、この瞬間が永遠に続けばいいのに、と心の中で思った。だが、彼女との別れが近づいていることも、同時に感じていた。


(この日が来ることは、ずっと覚悟していた……)


 リューカの無邪気な笑顔を目にしながら、ウィルは自分の心が少しずつ重くなっていくのを感じた。


「明日になったら、魔京都に戻るよ」


 その言葉は、まるで自分に言い聞かせるかのように、ぽつりと呟かれたものだった。


『やっと仕事に戻る気になったのね』とアイは軽く笑ったように返した。


「リューカもメアリに懐いているし、十分に考える時間を与えた。そろそろ彼女にも選択してもらわないと」


 ウィルは、リューカとの別れを覚悟していた。それは彼の中で苦しくも避けられない運命だった。


『ウィル、リューカへの贈り物はどうするの?』


「もう決めてある。彼女がひとりで歩み出すための最高の贈り物を……」


 ウィルの胸中には、リューカが自立し、毎日楽しく、幸せに生きてほしいという強い願いが込められていた。彼女の過去を全て知っているわけではないが、短い時間を共にする中で確信したことがある。


 それは、彼女が本来、根がとても優しい女の子であるということだ。


 もし境遇の悪さがリューカの優しさを曇らせてしまったのなら、今度こそ平和な場所で、穏やかな日々を過ごしてほしいと切に願う。しかし、ウィルには果たすべき使命があり、その道を進む限り、リューカを危険に巻き込む可能性があった。彼女との別れが、彼女を守るための最善の選択であることをウィルは深く理解していたのだ。


 考えにふけっていると、転生の儀式がいよいよ始まった。朱華が壇上に登場し、龍仙谷の住人たちは歓声を上げ、その姿に心から喜びの声をあげた。


「これより転生の儀を行う。皆のもの、大義であった」


 朱華は卵に手を当て、引き継ぎの儀式を開始した。すると、卵の周りに淡い光が浮かび上がり、無数の光子こうしが優雅に舞い踊り始めた。その幻想的な光景に、ウィルは見とれていた。


 だが、その時、背後に危険な気配を感じた。直感に導かれるように振り返ると、そこには完全武装した魔族がいた。


「アイ、屋根の上にいるものは警備の者か?違和感を感じる」


 ウィルの指示を受け、アイが屋根上の存在をすぐに解析した。


『違うわ。猫のような姿をしているけれど尻尾の動きが噛み合っていないわ。魔王が狙われているかもしれない、今すぐ動いて!』


 ウィルの心に警鐘が鳴り響いた。朱華は儀式中で動けない。敵は、まさにその隙を狙っていたのだ。


 すぐさま外部装甲を展開し、スライムワイヤーを飛ばして拘束を試みる。


「あやとり 蝶々!」


 ワイヤーは一瞬で敵に向かって伸び、絡め取る寸前で止まるかと思いきや、敵は何かを口ずさみ始めた。


「アイ、あれは?」


『クロノス・シフトと言っているわ』


 敵の座標は、ウィルの認識を超え突然位置がずれた。スライムワイヤーも敵を補足できずに技は失敗に終わる。ウィルは焦りを覚えた。


「アイ、ポータルは検知できたか?」


『いいえ、何も。今は魔王様を守ることが優先よ!雷刃を展開して!』


 ウィルはすぐに雷刃を展開し、エネルギーをチャージし始めた。だが、その間にも敵は朱華に急接近し、レイピアを抜いて攻撃の態勢に入っていた。


『住民への被害を最小限に、チャージ3割完了!今よ、ウィル!』


「斬!」


 ウィルの放った斬撃が音速を超え、敵のレイピアを根本から寸断した。しかし、敵はその瞬間すらも読んでいたかのように動きを変え、次のターゲットへと標的を定める。


 考察する暇もなく、別の敵が現れた。魔術を唱え、周囲の空気が一変した。


「神の名をもとに、第10階位魔術 アポカリプティック・インフェルノ!」


 大地が突然隆起し、裂け目から激しい炎が噴き出した。周囲の空気が灼熱に包まれ、爆発の前兆が迫っていた。


『ウィル、全ての魔族が対象になってる!スライムバリアを展開して!』


 ウィルは即座に地上、地中に複数のスライムバリアを張り巡らせ、爆発の衝撃を防ごうとした。しかし、その衝撃を完全には吸収しきれず、住民たちが阿鼻叫喚の中で吹き飛ばされ、混乱の渦に巻き込まれていた。


「敵は?……リューカは?!」


 ウィルは必死に彼女の姿を探し、アイがその位置を知らせた。そこへ視線を向けると、そこにはリューカを庇いながら心臓を貫かれたメアリの姿があった。


「お……お母さん!!! いやぁぁぁぁぁぁ~!!!」


 リューカは泣きじゃくりながら、メアリに必死にすがりついていた。ウィルの心には、煮えたぎるような怒りがマグマの噴火のように沸騰する。


 敵は不敵な笑みを浮かべながら、リューカを無理やり引き離し、連れ去ろうとしていた。


「逃がすものか……!」


 ウィルは怒りに駆られ、全力で敵を追いかけた。


 目に映るのはリューカを助け出すという一念だけだった。阿鼻叫喚する住民たちの間を縫うように走り、最小限の障害を避けながら最適なルートで追跡を続けた。アイの解析により最短で最善手の行動はより最適化され加速する。しかし、それでも間に合わず、敵は仲間と合流し、陣を展開していた。ウィルは抜刀の構えで陣を破壊しようと試みるが、先に敵が動いた。


「神の名をもとに、第10階位魔術 ディヴァイン・リターン!」


 敵一団は光に包まれ、流れ星のように一瞬で姿を消してしまった。


「アイ、リューカのデバイス位置を追え!すぐに追いかけるぞ!」


 ウィルの脳内は、リューカを助け出すことでいっぱいだった。それ以外の考えは一切頭に入らず、全てが彼女のための行動だった。


『ウィル、待って!まずは落ち着いて!』


 アイが彼の視界を遮り、強制的に落ち着かせようとする。


『リューカのデバイスは私がコントロールしてるわ。防衛用のスライムバリアも展開済みよ、少なくともバッテリーが切れるまでは、彼女は安全なはずよ。それよりも今はメアリの治療が最優先だわ』


 ウィルはアイの言葉に耳を傾け、震える心を何とか抑えようとしていた。気づかないうちに、彼の頬には涙が伝っていた。


『ウィル……泣いてる暇なんてないわよ! Hurry UP!』


 アイの声が彼の心に響いた。


 ウィルは涙を拭き、すぐに行動を開始した。


「ありがとう……本当に、いつも……」


 アイが少し微笑んだように見えたが、すぐに冷静な声でウィルを促した。


◇◇◇


 ウィルは急いでメアリの元へ駆け戻った。


 そこには心臓をくり抜かれ、酷い出血により意識を失いかけている彼女がいた。地面に広がる血は、まるで命の川のように流れ出し、メアリは出血性ショックで命の灯火が消えかけていた。


 ウィルは彼女を優しく抱きかかえると、即座に復元作業を開始した。メアリの情報を全て取得し、まずは失われた心臓を再構成するためにナノマシン治療を施す。くり抜かれた心臓が不正に使われないよう、新しい心臓への引き継ぎも進めていく。次に傷ついた体の修復へと移ったが、彼女の生命そのものを救うためには、さらに高度な対応が必要だった。


 出血による急激な血圧低下で、脳や肝臓への血流もほぼ途絶えている。ウィルは細心の注意を払いながら治療を続け、なんとか傷口を塞ぎ、外見上は回復しているように見えた。しかし、血流不足で臓器への酸素供給が間に合わず、依然として危険な状態が続いていた。


『ウィル、血液が脳に十分に送られていない。このままでは体を復元しても脳が死んでしまうわ』


 アイの警告が響き、ウィルの最初の対応が遅れたために、メアリの脳は仮死状態に陥っていた。


 ウィルは必死に思考を巡らせ、決断を下す。


「アイ、彼女の脳内データを俺のストレージにコピーする」


 ウィルの声には焦りが滲んでおり、是非を考える余裕もなかった。アイはウィルの決断を迅速に実現させるため、フル能力を発揮する。


『了解。彼女の記憶を読み取るわ。ウィル、覚悟してね』


 アイの言葉とともに、ウィルの脳内でデータのバックアップが始まった。メアリの記憶が次々と流れ込み、彼女の過去や思考が鮮明に見えてくる。その断片が最適化され、まるで彼女の人格がウィルの中で再構成されていくかのようだった。


 しかし、記憶を読み取るにつれて、ウィルは困惑を深めていった。メアリのものではない膨大な記憶が含まれていたのだ。これらのデータがウィルのストレージを圧迫し、次々と意識を覆い尽くしていく。彼女の来歴を全て知るかのように、情報が一気に詰め込まれていった。


「アイ、これは誰の記憶なんだ?」


 ウィルの声には不安が混じっていた。


『私にもわからない。でも、もしかしたら彼女の人格を形成している重要な記憶かもしれないわ。耐えて、ウィル、これは必要なプロセスよ』


 アイの言葉に、ウィルはストレージの圧迫に耐えながら、彼女が保持している記憶のすべてを追い続けた。


 やがて、記憶の抽出が終わり、ウィルはすべての情報を脳内に蓄積した。これでメアリに万が一のことがあっても、彼女の存在をこの世に留めることができるかもしれない。


 しかし、記憶を読み取る過程で知り得た情報に、ウィルは驚きを隠せず動揺していた。


 そして思考を整理した後、ウィルは静かに彼女の耳元でささやいた。


「リューカを守ってくれてありがとう、メアリ……」


 ウィルはメアリの状態を正確に伝え、救急の者に預けると、深い感謝を胸に抱きながらも、次の行動へと移るべく龍神府の魔王朱華の元へと足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ