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魔族IT革命  作者: 白樹春來
龍仙谷編
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47話 会見

 冒険者の町アランでは、現在、非常事態が発生していた。トップであるギルドマスターが不在で、さらには戦闘区域に足を踏み入れた冒険者たちが次々と死亡する事態が相次いでいた。ギルドの職員たちは原因を突き止めようと懸命に動いていたが、同時に教会への説明対応にも追われ、緊迫した状況の中で奔走していた。


 その日の午後、記者会見が開かれることとなった。教会関係者たちが一堂に集まるのは当然のことだった。贄の供給源が突然途絶えることは、人類の存続に関わる非常事態であり、これを見過ごすことはできなかったからだ。


 記者会見が始まると、ギルドの事務職員が前に立ち、説明を始めた。


「この度は、各支部の教会関係者の方々に急遽ご集まりいただき、誠にありがとうございます」


 職員は深々と頭を下げ、緊張感が漂う会見場で話を続けた。


「事件が発生したのは約1週間前のことです。戦闘区域に入った全冒険者が倒され、生存者は1人もいません」


 その言葉を聞き、周囲がざわつき始めた。司祭の1人が恐る恐る質問を投げかけた。


「全員が魔族にやられたというのか?」


「はい、おっしゃる通りです」


 職員は毅然とした態度で答えたが、司祭たちの中には苛立ちを隠せない者もいた。


「ふざけるな!」


 ある司祭が激昂した。彼はギルドマスターの派遣を要請した人物だった。


「ギルドマスターまで出向いたのに全滅するなんてあり得ないだろう!」


 他の関係者たちも同調し、会場は騒然となった。だが、ギルドの職員は冷静に応じた。


「全滅の事実は確認済みです。我々ギルドは真実を述べているのに、その事実を嘘だと言うのですか?」


 教会関係者たちもギルドの発表が信憑性を帯びていることは理解していたが、それでも感情的に受け入れられない者たちが多かった。そんな中、大司教が静かに手を挙げ、発言を求めた。


「すまない、私からも質問していいかね?」


 会場のざわつきが静まり、大司教の存在に圧倒されるように、他の者たちは口をつぐんだ。


「大司教様、どうぞ」


「冒険者たちの復活はどうするつもりだ?復活には相応の贄が必要になるが、全部使うつもりなのか?」


「ギルドとしては規程通りに、高レベル帯から順次復活させる予定です」


「規程通りにやること自体は理解できるが、贄の数には限りがある。倒された冒険者たちに贄を使うよりも、そのリソースをより強い者たちに集中させ、戦線を打開するべきではないか?」


「ギルドマスターが不在のため、私たちには規程通りの対応しかできません。だからこその会見です。ギルドマスターがいない場合、最高権限は教皇に移譲されることになっています」


「わかった。この件については、私から直接教皇様に伝えよう。だから、復活は一旦待つように」


「承知しました」


 ギルド職員は頭を下げた。


「この話はここで終わりだ。ギルドが調査した情報を、ここにいる者たちにも聞かせてやってはくれないか?」


 大司教が問いかけた。


「はい」


 職員は一息ついてから、調査結果を開示した。


「まず、冒険者の全滅以前から、魔族たちの強さが全体的に向上していることが確認されています。どのランク帯の冒険者でも任務の達成率が著しく低下し、死亡率もある時期を境に急激に上昇しています。死亡した冒険者を復活させた際には事情聴取を行っていますが、死亡者の破損箇所が酷い、または精神的な苦痛を抱えている場合、記憶の一部が欠損するため、戦闘で何があったのか、十分な情報を得ることができていません」


「ギルド側の推測ですが、魔族たちの戦術に大きな変化が見られると結論付けました。かつては知能の低い好戦的な魔族が多く、冒険者たちは人数やレベル差を活かした戦術で対抗できていました。しかし、最近では、魔族たちがこちらの情報を把握しているかのような行動を取り、冒険者たちの戦術レベルを上回る戦い方をしています」


 大司教が眉をひそめ、質問を投げかけた。


「まさか……間者が潜んでいるというのか?」


 会場が再びざわついたが、職員は冷静に返答した。


「ギルドでも、助祭じょさいに光系統魔術『レヴェレーション(Revelation)』を行使し、裏切り者がいないか調査しましたが、誰1人として怪しい者はいませんでした。そのため、ギルドは、魔族側に非常に知恵の回る人物がいると考えています。そして、その人物は我々の常識を超えるほどの戦術と技術を持った組織を率いていると推測しています」


「魔王が動いたとでもいうのか?」


 大司教は冷ややかに尋ねた。


「そう捉えても差し支えないでしょう」


 職員は冷静に答えた。


「魔京都に潜む魔王が相手となれば、我々も相応の戦力を用意せねばならん」


 大司教はそう言い、思案にふけった。


「ギルドからの情報は以上です。その他に質問がある方は、どうぞお聞きください」


 職員はそう締めくくり、会場にはいくつもの質問が飛び交い始めた。職員はそれぞれの質問に丁寧に答え、次第に会場の空気も落ち着きを取り戻していった。


◇◇◇


 大司教は、総本山である大聖堂に足を踏み入れていた。その大聖堂は壮麗な造りで、天井は高く、荘厳なステンドグラスから柔らかな光が差し込んでいる。柱には神聖な紋章が刻まれ、静寂と威厳が訪れる者を圧倒する。中央の祭壇には、教皇が厳かに鎮座していた。


「教皇様にお話すべきことがございます」


 大司教は深々と頭を下げ、教皇に向けて話しかけた。教皇はゆっくりと顔を上げ、大司教を見つめた。


「魔王トゥデイが動き出したようです」


 大司教は慎重に言葉を選びながら続けた。


「勇者の派遣と、次代勇者の召喚を執り行いたく存じます」


 教皇はじっと大司教を見つめ、静かに口を開いた。


「我らの神はお怒りになるだろう」


 大司教は一瞬動揺したが、教皇の言葉に耳を傾けた。


「神は既に力をお与えくださった。それなのに、まだ勇者の力が必要だというのか?」


「贄を集めるための尖兵である冒険者たちが、戦闘区域で全滅しました。魔族の脅威がますます近づいているのです」


 大司教は毅然とした態度で応じたが、その声には少し緊張が混じっていた。


 教皇は少しの間、沈黙を保ち、冷静に言葉を選んだ。


「神はきっとお怒りになり、より大きな代償を求めてこよう。お前にその覚悟はあるのか?」


 その問いに、大司教は一瞬、言葉を失った。


 教皇の威厳ある姿を前にして、緊張がじわりと胸に広がる。しかし、大司教としてこの難題に立ち向かわなければ、その立場を保つことはできない。長年、神と教会に仕えてきた身として、今こそ決意を固める時だと感じた。


「代償は覚悟のうちです。どうか、実行させてください」


 彼は静かに、しかし力強く答えた。


 教皇はその答えを聞き、わずかに頷いた。


「実行しろ」


 大司教は深々と最上級の礼を捧げ、教皇の前を後にすると、静かに任務の実行へと歩みを進めた。


◇◇◇


 山奥の片田舎に、1人の男性が暮らしていた。彼の筋肉は洗練され、力強さと若々しさを保っており、10代と言われても気づかないほどだ。体力だけでなく、健康そのものの姿であることがひと目でわかる。


 彼の朝は早い。まだ寝ぼけた獣を狩るため、夜明けとともに山へ入り、息を潜めて獲物を狙う。そして素早く仕留めた獣を解体し、下味をつけて焼く。調理法はシンプルだが、これが彼にとっては最高にうまい食べ方だ。


 遅めの朝食を終えると、彼は薪割りなどの生活に必要な作業を淡々とこなし、夕方には保存しておいた獣肉をスープにして食べる。


 このスープもまた、格別な美味しさだった。


 そして、夜が更けると彼は剣を振るう。その動きは鋭く、全く衰えを見せない。自然とともに生きることを体現しているその姿には、力強さと精緻さが共存していた。


 その日も彼はいつものように就寝しようとしていたが、突然、馬車の足音が近づいてくるのが聞こえた。何事かと思い、耳を澄ましていると、馬車が家の前に止まり、重々しい足音が響き渡った。恰幅のいい人物が歩くような鈍い音から、彼は大司教ではないかと直感した。やがて家の扉がノックされ、大司教の低い声が呼びかけてきた。


「アラン、出てこい」


 扉を開けたアランは、顔をしかめながら答えた。


「なんだよ、爺さん。こんな夜遅くに」


「お前は自然と共に過ごしすぎなんだよ」


 大司教は笑いながら言い、軽い世間話が続いたが、やがて彼は本題に入った。


「冒険者の町アランで、冒険者が全滅した」


「俺の名前を勝手に町の名前にするなよ」


 アランは不満そうに言ったが、大司教は舌打ちをしながら続けた。


「うるさい!お前は勇者なんだから、少しは喜べよ」


「で、何を頼みたいんだ?」


 アランは大司教の顔を見つめ、真剣に問いかけた。


「贄が不足している。なんとか確保してくれないか?」


「戦闘区域ってことは、魔王トゥデイのいる場所か?」


 アランが確認すると、大司教は頷いた。


「ああ、魔京都という場所だ」


「難しいからって、そこに勇者を派遣するなんてバカだろ?取れるところから取ればいいんじゃないのか?緊急なんだろう?」


「元凶さえ片付けば、事態は解決するはずだろう」


 アランは呆れたように首を振った。


「勇者が魔王を倒すなんて、そんなに簡単なことだと思ってるのか?先代の勇者がどうなったか、知ってるか?」


「相打ちになったと聞いているが?」


「お前は何もわかっていない。本当に何もわかっちゃいない」


 アランは溜息をつきながら言った。


「魔京都には行かないが、餌集めならやる。民の希望だからな」


「助かるよ」


 大司教は少し安堵したように答えた。


「その代わり、この役目を果たしたら、俺はもう降りるぞ」


「ああ、次からは次代勇者に要請する」


「ところで、人選はどうするんだ?もう誰も残ってないんじゃないか?」


「次代勇者の候補を入れるつもりだ」


「それでいいのか?ほら、冒険を通じて親密になっていく、あれだろ?」


 大司教はすかさず否定した。


「お前だけは絶対ない。そうだろ?」


 アランは肩をすくめて笑った。


「まあ、そうだな」


「では頼んだぞ。次代勇者のお供の育成も、お前の仕事だ」


 大司教はその言葉を残し、馬車に乗り込んだ。


「はぁ……」


 アランは深いため息をつき、大司教が去るのを見送った。


「勇者って仕事は断れないの前提なのが、本当に嫌いだよ……」


 そう呟きながら、アランはようやく就寝についた。


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