39話 式典後の会談
式典が終わり、広間の静けさが戻る中、ウィルは魔王トゥデイに呼び出され、対談の場へと足を進めた。
トゥデイは堂々と玉座に腰掛け、柔和な眼差しでウィルを招く。
静寂の中、圧倒的な存在感がウィルに緊張をもたらしていた。
「ウィル君、お疲れ様」
ウィルは軽く頭を下げ、「お疲れ様です」と応じた。
その声には敬意と微かな緊張が含まれていた。
「君が考案してくれた対冒険者傭兵団、通称ハンター協会の設立は、目覚しい成果を上げている。稲荷地区での成功は、全て君のおかげだよ」とトゥデイが深く頷きながら称賛した。
「魔王様からの寛大な投資と支援のおかげで、この結果を得ることができました。ありがとうございます」とウィルは謙虚に答えるが、その表情には慎重さが伺える。
「ウィル君、もし良ければ、その知見を活かして、魔王軍の幹部になる気はないか?君ならこの首都をさらに強化できるはずだ」とトゥデイは提案した。
その眼差しは真剣であり、断れないほどの圧力が漂っている。ウィルは一瞬、驚いた表情を見せるも、すぐに冷静を取り戻し、慎重に言葉を選びながら答えた。
「過大なご評価、誠にありがとうございます。しかし、自分にはその仕事を担うには力不足です」と丁寧に断った。
だが、トゥデイはさらに意欲を示し、その声は一層低く、重みを持つ。
「もし権限が足りないと感じるのであれば、君にこの首都の全権を委ねても良い。魔王の側近として、全てを君に任せようではないか」と大胆な提案を続けた。
ウィルはその言葉に思わず息を飲み、目を見開く。全権という言葉の重さに圧倒されるが、深呼吸し、慎重に考えた末、冷静に返答した。
「魔王様のご厚意、本当に感謝します。しかし、今回ばかりはお断りさせていただきます」
ウィルの声には感謝と共に、強い断りの意志が宿っていた。
トゥデイは少し残念そうに表情を曇らせたが、ウィルをじっと見つめ、彼の能力を評価するような眼差しを向ける。
「ウィル君、私は君を高く評価している。この世界は長い間、人類の脅威にさらされてきた。彼らの生存圏は徐々に拡大し、この首都にまで迫ってきている。しかし、君はその流れを止め、逆に押し返した」
トゥデイの言葉には感情がこもっており、その声はウィルの胸に響いた。
「君の手腕のおかげで、我々は今、攻勢に転じることができている。その結果、兵士の質の向上に専念でき、設備投資も進めることができた。君は時間を生み出し、アイデアを形にし、さらには魔法を機能として組み込む新たな価値を提供してくれた。これがどれほど偉業か、君は自覚しているだろうか?」
ウィルは、その問いに一瞬戸惑いを見せながらも、前世の記憶が脳裏をよぎりこれが意図的であることを自覚する。
「ありがとうございます。自覚はしているつもりです」
トゥデイは頷き、さらに深く問いかける。
「ウィル君、君はこの世界で何を望む?何を成し遂げたい?」
その問いに、ウィルはしばし沈黙した。
ウィルにはこの世界で何かしたいという願望はない。ただ、今の彼にとって望むべきことがあるとすれば、管理者から依頼された仕事を進めるための協力だけだ。しかし、あくまで願望を尋ねられている以上、相応の返答を返さねばならない。慎重に言葉を選び、ウィルは答えた。
「人類の根絶を望んでいます」
トゥデイは頷きつつも、「それは私の悲願でもある。しかし、それだけではないだろう?」と更に促すように声をかけた。
ウィルは再び考え込んだ後、静かに口を開いた。
「では、魔王様にお願いがあります。私でも対処できないような事態が発生した場合、マッチを最優先で守って頂きたいのです」
トゥデイは少し驚いた表情を見せながらも、すぐに真剣な眼差しで尋ねた。
「君にとって、マッチは特別な存在なのか?」
「はい、私にとってマッチは、この世界でただ1人しかいないキーパーソンです」とウィルは真摯に答える。
「わかった。君の望みを叶えよう。クリムソンを、マッチの側近として任命する」
「彼は賢く、迅速に報連相を行い、戦闘力も申し分ない。さらにクリムソンで対処できない事由が発生した場合、私が直接介入することを約束しよう。ただし、正式な引き継ぎには時間がかかることを了承してほしい」
「ありがとうございます。それで十分です」とウィルは深々と頭を下げ、感謝の意を示した。
その後、ウィルはトゥデイに最後の質問を切り出す。
「戦闘区域に現れたギルドマスターなる人物について、情報は精査できていますか?」
トゥデイは一瞬考え込み、顔を曇らせた。
「すまない、ウィル。これは私にもわからないのだ」
トゥデイの言葉は重く、彼の長い経験をもってしても解明できないという現実がウィルに圧し掛かる。
「ウィル君、私の1000年に及ぶ人生でこれほど不可解な存在は初めてだ。魔王軍にも情報部はあるが、ギルドマスターなる人物は全く確認できていない」とトゥデイは率直に述べた。
ウィルは一瞬考え込み、再び口を開く。
「人類には魔術、レベルがあり、特にレベル100に到達した者は神と呼ばれる存在から恩恵を受ける仕組みがあると認識しています。今回、ギルドマスターが持っていた『パッシブスキル』というものは、厄介なスキルでした」
初めて聞くスキルにトゥデイは興味深く応じた。
「ちなみに『神の恩恵』と呼ばれるものを勇者はいくつ所持しているかご存知でしょうか?」
ウィルは疑問を深めてトゥデイに伺う。
「勇者と呼ばれる存在は、最低でも3つ以上の神の恩恵を持っていると考えていい。そして、レベル100という条件で神の恩恵が得られているのであれば最低レベル300以上だと考えた方が良い」
トゥデイの言葉は、まるで未来に待ち受ける恐ろしい現実を予感させるかのようだった。
「敵のレベルには上限はあるのでしょうか?」
「いや、ない」
ウィルはその言葉に驚きを隠せなかった。
「私は過去に他魔王と勇者が戦闘している場面を遠目から見たことがある。はっきりと言おう勇者は化け物であり、災害でしかない」
トゥデイは、過去に記憶を思い返しながら、冷静に語った。
「対峙すると仮定した場合、少なくともギルドマスターの3倍は強く、しかも現在も成長を続けている可能性がある……」
ウィルは厳しい表情でつぶやいた。トゥデイは深く息をつき、ウィルを見つめながら続けた。
「ウィルよ、勇者と戦うのは避けたほうがいい。今のお前には荷が重すぎる。お前の強さは認めているが、成熟していない今では、どう頑張っても勝ち目はない」
ウィルはその忠告を真摯に受け止め、「もちろんです。気をつけます」と頷いた。
彼の表情には慎重さがあり、今後の戦い方を見極めるための覚悟がにじみ出ていた。
トゥデイはウィルに向き直り、感謝の意を示しながら語った。
「情報を共有してくれたこと、感謝する」
「ありがとうございます」
ウィルは深々と頭を下げ、対談の場を後にした。




