38話 式典
ギルドマスター討伐後、ウィルたちはハンター協会に戻り、報酬の清算を行っていた。
ウィルは受付に近づき、そっと耳打ちする。
「直接渡したいから、清算が終わったら連絡を頂戴」
受付の人は微笑んで頷き、手早く清算を進める。その後、更衣室から着替え終えたうさみがこちらにやってきた。
「うさみさん、ちょっといい?」
「はい、なんでしょう?」と、うさみは少し緊張した様子で答える。
ウィルは彼女を別室に案内し、静かに扉を閉めた。室内の落ち着いた雰囲気の中で、ウィルは慎重に言葉を選んだ。
「まずは冒険者掃討戦、本当にお疲れ様でした」
ウィルの声は穏やかだが、どこかしら重みを帯びている。
うさみは恐縮したように目を伏せ、「いえいえ、こちらこそお疲れ様です」と小さな声で返した。
彼女の顔には、ほっとしたような表情が浮かんでいる。戦いを終えた安堵感と、次に何を言われるのかという緊張が感じられた。
ウィルは笑顔を保ちながら会話を続ける。
「今回、うさみさんの貢献度は非常に高いです。そのため、報酬は過去最高額になっています」
「本当ですか……?」
うさみの目が大きく見開かれ、信じられないという表情を浮かべた。
そして、次第に彼女の瞳に涙が溜まっていく。
「私……本当に嬉しいです。ウィルさんのおかげで、ここまで強くなれました。本当に……本当にありがとうございます」
ウィルは静かに首を横に振り、「これはあなた自身の努力の結果です。だからこそ、自信を持って誇ってください」
その言葉に、うさみは涙を流しながら感謝の気持ちを伝えた。長い間抑えていた感情が一気に溢れ出し、彼女はその場で泣き崩れる。ウィルは彼女の肩に手を置き、ただ静かに見守っていた。
落ち着いた彼女にウィルはハンター協会が主催する公式放送のURLを共有する。
「では、うさみさん。ランク発表がありますので、このURLから放送を一緒に見ませんか?」
うさみは言われた通りにリンクを開き、視聴した。
デバイスによって可視化されている画面に公式放送の映像が表示される。心臓がドキドキして止まらない。自分がどのくらいのランクにいるのか、期待と不安が交差しながら、彼女は画面をじっと見つめた。
しばらくして、放送が始まった。
生放送のような形式で、司会者が勢いよく話し出す。
「みなさん、お待たせしました!本日は、冒険者掃討戦で活躍された皆さんの評価がランクとして発表される、大事な放送です。お手元のデバイスには『集計中』と表示されていますが、この放送をもって最終ランクが確定いたします!ドキドキの瞬間を一緒に楽しんでいきましょう。最後までお見逃しなく!」
進行が進むにつれ、うさみさんの緊張は増していき、ついに最上位帯「フラッグシップ」のランクが発表される時が来た。
うさみは、自分が最上位枠に入る可能性が高いと薄々感じていた。誰よりも時間を捧げ努力したという自信がある。気になるのは最上位帯の中でも自分がどこに位置しているかであった。
発表が進むつれ、うさみさんは自分の名前が出てくるのを待ちわびていた。
「総合評価4位!討伐数350、アシスト10、ウィル&マッチ所属……ココ!」
チャット欄が大いに盛り上がり、会場にいた来客の歓声が飛び交った。
「総合評価3位!討伐数450、アシスト0、ウィル&マッチ所属……ウィル!」
「おおおおおお〜!」と、さらに大きな反応が巻き起こった。
そして、次は2位の発表だ。
「総合評価2位!討伐数500、アシスト0、ウィル&マッチ所属……アカヤ!」
再び盛り上がりを見せ、ライブは最高潮に達していた。
そして、栄えある1位の発表が訪れる。
「そして、栄えある1位は……」
司会者が言葉を切った瞬間、うさみの心臓はさらに強く鼓動を打った。
「まさか……私……?」思わず、彼女の口からつぶやきが漏れる。
ふとウィルの方へ視線が向かうと、彼は少し得意げな表情を浮かべ、うさみを見つめ返していた。
「総合評価1位!討伐数1、アシスト2000、無所属……うさみ!!!」
「おおおおおおお〜!!!」と、チャット欄は歓声で埋まり、画面には祝福のメッセージが滝のように流れた。
視聴者たちの興奮が伝わるように、リアルタイムでハートや拍手のエフェクト、うさみのスタンプが飛び交い、放送は歓喜に包まれている。
うさみは目を見開き、震える声で呟いた。
「わ、私が1位……?」
ウィルは口元をわずかにほころばせながら「おめでとう」と言うと、うさみさんは涙ぐみながら「ありがとうございます……」と震える声で返した。
総合評価1位である実感を沸かせるために、ウィルは清算された報酬の合計金額をうさみに提示した。
「今回の報酬は、14億コルです」
「じゅ、じゅう……じゅうよんおく……?」
うさみの声は震え、頭の中ではその額がぐるぐると巡り、現実感がまったく湧いてこない。額があまりにも桁違いで、息が詰まるような衝撃を感じていた。
うさみの思考はフリーズし、次の瞬間、横に倒れ込んでしまった。
「うさみさん?うさみさん!!起きて!!!」
ウィルは焦って声をかけたが、彼女はソファに倒れ込み意識を失っていた。
しばらくして目を覚ました彼女は、ぼんやりとした目で「すみませんでした……」と恥ずかしそうに頭を下げた。
「いいんだよ、気にしないで」とウィルは内心あきれながらもうさみを励ました。
「うさみさん、よく聞いてください。改めて、ウィル&マッチの創業者として、あなたを正式に迎え入れたいと考えています」
「ウィル&マッチ……創業者……」
混乱しているうさみは、何度も同じ言葉を呟きながら連呼する。
そして何かに気づいたかのように、うさみは驚いた顔でウィルを見上げた
「え、ウィルさんって、あのウィルさんだったんですか?」
ウィルは苦笑しながら「本当に、うさみさんって天然だよね。ずっと一緒に戦ってきたのに」と呆れながらも返答する。
「でも……私で本当にいいんですか?」
うさみは戸惑いながらも、恐る恐る尋ねた。
「うん、うさみさんじゃなきゃダメなんだ」
ウィルの声は穏やかだったが、その瞳には確かな決意が宿っていた。彼が長い時間をかけて見出した信頼、そのすべてが今、彼女に向けられている。胸が温かくなると同時に、責任の重さがうさみの心にのしかかった。
迷いが残る彼女に、ウィルはそっと契約書を提示する。
その契約書には「年俸100億コル」と明記されていた。
「100億……ですか?」
うさみは信じられない様子で契約書を見つめる。
「そう、年俸100億コル。それだけの価値が、あなたにはある。これは過小評価ではない。現場で共に戦い、その実力を見届けた私が出した結論だ」
「人類との戦いが激化することは、君も実感しているだろう。我々魔族にとって、人類殲滅は最優先の課題だ。君となら、この道を共に進めると確信している。一緒に争いのない未来を切り開いていかないか?」
ウィルの言葉は真剣そのものであり、うさみの胸に深く刻まれた。
存在感もなく、他人任せで、何もできない弱い自分から脱却するために始めたハンターという仕事は今では誰かに必要されているほど自分は組織の一員としてお役に立てている。
自分を新たな環境に誘ってくれた心強い仲間からの誘いにうさみの覚悟は決まっていた。
「ここまで育ててくれたご恩を、一生かけてお返しします。よろしくお願いします」そう言って、うさみは深く頭を下げた。
ウィルは彼女の手をそっと握り、「これからもよろしく」と優しく言った。その言葉と共に、うさみは自分が確かに仲間として迎えられたことを実感し、胸の中に強い絆が芽生えた。
◇◇◇
魔王城の大広間は、荘厳な装飾が施され、天井には魔王の旗が高々と掲げられていた。それはまるで、この勝利を祝う象徴のようにゆっくりと揺れている。広間には、整列したハンターたちが緊張感を漂わせつつも誇らしげに立っていた。
全員が黒と赤の正装を身にまとい、式典の厳かさが場内を包み込んでいる。壇上には魔王が立ち、その力強い眼差しは広間全体を見渡していた。集まったハンターたち一人ひとりに視線を合わせながら、魔王は静かに口を開いた。
「人類が我らの領域に攻め込んで以来、長い間、我々は防戦を余儀なくされてきた。しかし今回、稲荷地区戦闘区域での冒険者殲滅に成功したことで、我々は大きな勝利を手にした。この成果は、皆の力によって成し遂げられたものである。ハンター諸君、そして兵士たちに、心から感謝する」
魔王の言葉は広間に力強く響き渡り、一言一言が厳粛な重みをもって出席者たちの心に深く刻み込まれた。
「さて、堅苦しい挨拶はこの辺りで終わりにしよう。これからは、英雄たちにふさわしい勲章を授与する時間だ」
魔王の言葉に会場が少し和やかな雰囲気に包まれ、次々とハンターたちが壇上に呼ばれる運びとなった。
ハンターたちは自信を胸に壇上へと上がり、魔王から銀の重厚なメダルが授与された。そのメダルには魔族の紋章が精巧に刻まれ、ずっしりとした重みが手に伝わってくる。魔王と形式的に握手を交わすと、ハンターたちの表情は達成感に満ち、自然と柔和なものへと変わっていった。やがてハンターたちは自らの立ち位置へと戻り、仲間の表彰を祝福するように見守った。
勲章授与と拍手が続く中、ついにウィル、ココ、アカヤ、そしてうさみが壇上に呼ばれた。特にうさみは緊張した様子だったが、それでも堂々とした姿勢で魔王の前に進んだ。
「ウィル、ココ、アカヤ、そしてうさみ。この戦いであなたたちは最大の貢献者だった。特にうさみ、君の力がなければ、この勝利は成し得なかっただろう。魔族は君の努力と勇気を決して忘れない」
魔王の言葉に、うさみは驚きと感動で涙をこらえきれなかった。魔王は微笑みながら、丁寧に勲章を手渡し、固く握手を交わした。
「さあ、皆で我らが英雄を称えよう!」魔王の声に呼応するように、会場全体から大きな拍手と歓声が沸き起こった。
式典は最高潮に達し、ハンターたちの努力と勝利を祝う夜は、さらに輝きを増した。
こうして、彼らの偉業は正式に認められ、魔王城に栄光の名が刻まれたのだった。




