37話 カンストプレイヤー
「ウィル兄〜、待たせたな!」
「ウィル、遅くなってごめんね」
ココ、アカヤと無事合流することができた。
彼らが姿を見せるやいなや、目標Xは冷たい笑みを浮かべ、嬉しそうに口を開く。
「おや、お仲間が来ましたか?餌がぞろぞろ集まってきて、私はとても嬉しいですよ」
その言葉に含まれる不気味さは、ココに率直な感想を引き出した。
「なんだこいつ、気持ち悪いな〜」と、ココが素直に口にすると、Xはまるで楽しそうに返答する。
「餌の分際で人間様に気持ち悪いなんて言ったらダメですよ。それに、私のことは『ギルドマスター』と呼んでくださいね」
「ギルドマスター?なにそれ、偉いのか?」とココが率直に問いかける。
「ええ、冒険者の町でトップをやらせて頂いておりますよ」と、Xは誇らしげに答えた。
その言葉に、ウィルは真剣な表情を浮かべ、Xをじっと見つめる。目の前にいるのはただの強敵ではなく、悪の親玉がやってきたことを理解した。
(こいつ、本当にギルドマスターなのか?……)
ウィルは冷静に状況を分析し、ココに対話を続けさせるために指示を送る。
「ココ、俺が今から送る内容をそのままギルドマスターに聞いてみてくれ」
ココはウィルの指示通りにXに問いかける。
「トップが1人でやってくるなんてあり得ないだろ?」
Xは笑みを浮かべながら答えた。
「おや、信用されないのですか?まぁ、どうせあなたたちはここで死ぬことが確定しているので、少しばかり話して差し上げましょう」
Xはいきいきとした声で、得意気に話し始めた。ウィル、ココ、アカヤは慎重に耳を傾ける。ギルドマスターは手の甲を見せ、そこに刻まれた印を見せつける。
「これを見てください。これはギルドマスターである証拠の刻印です。教会の司祭たちによって選ばれた証であり、神からの恩恵なのです」と、Xは自信に満ちた表情で語る。
相手を本物のギルドマスターだと仮定し呼称を「X」から「ギルドマスター」に変更するとココ、アカヤ、うさみさんにメッセージで共有する。
さらにギルドマスターは興奮を増しながら言葉を続ける。
「長年、地道にお前たちのような餌を葬り続け、ついに……」
ギルドマスターの鋭い目がウィルたちを睨みつける。
「ついに……レベル100に至ったのです」
その言葉に、ココは驚きの声を上げた。
「レベル100だと?」
「ええ、そうです。私のレベルは100、カンストしているのです」とギルドマスターは誇らしげに胸を張る。
ココの中に怒りが湧き上がり、戦意がみなぎっていた。
「仲間を犠牲にしてカンストしたっていうのか!」
ココの瞳には憤怒の炎が燃えていた。だが、その様子にギルドマスターはさらに興奮していた。
ウィルはココに落ち着けと冷静に制した上でギルドマスターとの対話を続けさせる。
「カンストすると何がそんなに強いんだ?」
ギルドマスターは笑みを浮かべながら応じる。
「神から授かる恩恵があるのです。その恩恵こそが、あなたがどれだけ攻撃しても、私にダメージが通らない理由ですよ」
ココはウィルに視線を向け、「ウィル兄、本当にダメージが通らなかったの?」と疑問を投げかけた。
「ああ、俺の攻撃はほとんど通らなかった」とウィルが静かに答えると、ココは感心しながら「お前、すげぇじゃん」と素直にギルドマスターを褒めた。
ココにとってウィル兄とは最強の存在だ。
だからこそ、ウィル兄の攻撃が通用しない相手がいることを知り、ギルドマスターという人物を本当に強い敵であると理解したのだ。
ギルドマスターは誇らしげに「そうでしょう?これが神の恩恵なのですよ」と自信満々に語った。
「ちなみに神の恩恵ってのはどんなものなんだ?」とココがさらに尋ねると、ギルドマスターは大袈裟に「よくぞ聞いてくれました。それは神に与えられたパッシブスキルです」と自慢げに答えた。
「パッシブスキル?」ココは聞き慣れない単語に首をかしげた。
ギルドマスターは得意気に説明する。
「パッシブスキルとは、意識せずとも発動するスキルのことです。私のパッシブスキルは『愛の羽衣』というもので、神が常に私を守ってくれるのです。攻撃を自動で防ぐ、このスキルはまさに神の御業です」
(それって、ただバックグラウンドで動いてるプログラムではないのか?……)
ウィルは内心そう思ったが、黙って話を聞き続けた。
だが、ココは意外なことを言い出した。
「うちの妹も自動で魔法が使えるようになったんだよ。神の御業って言うなら、ウィル兄は本当にすごいよね!」
その言葉にギルドマスターは驚愕し、顔を真っ赤に染め、怒りを爆発させた。
「な、何だと!?神にしかできないことを、お前の兄が与えているだと!?」
「なんで、なんで、なんで、なんで、餌風情が神の恩寵を賜るわけないだろうが!!!!!!」
ギルドマスターの声は次第に怒りに染まり、激昂していく。
「お、お前ら餌風情が調子に乗るな!!!!!! 神への冒涜は今ここで解消させるべし」
ギルドマスターはそのままウィルに向かって襲いかかろうとした。
「会話は終わりだ」とウィルは冷静に戦闘態勢に移行し、静かに宣言した。
ウィルの声に重なるように、アイの鋭い声が響き渡る。
『「世界の敵、ギルドマスターよ。お前をターミネートする」』
ウィルとアイ、2人の声が一体となって響き、その瞬間、戦いの幕が切って落とされた。ウィルはすぐに指示を出し、ココとアカヤにそれぞれの役割を与える。
「ココ、まずは透視で相手の持ち物を確認してくれ。アカヤ、さっきの戦闘データを元にTASを起動しろ。俺が攻撃の起点を作る。お前はその流れに合わせろ」
「了解!」
アカヤが即座に反応し、身を低く構えて次の行動に備える。
ココは素早く両手を前に突き出し、親指と人差し指で四角形の形を作った。集中すると、その四角形の内側に光の枠が浮かび上がり、光が集まっていく。瞬く間にポータルが形成され、空間が歪み始め、ギルドマスターの周囲が透視されるように見えた。
「ギルドマスターの所持品なし!」
ココは冷静に報告し、ウィルに情報を伝えた。
ギルドマスターに持ち物がないということは、別の手段で手の内を隠しているのか?それとも単に自信過剰なだけなのか?ウィルは考えを巡らせ始める。
しかし、ギルドマスターの素振りや話しかけてくる態度を考慮すると、どうやらただの自信過剰かもしれないウィルは踏んだ。
「アイ、まずは1割のエネルギーでいく。斬撃はなしだ!」
ウィルは静かに決断を口にしながら、雷刃を手にする。
『準備できたよ』
アイの軽快な声が耳に響く。
ウィルは一瞬の間もなく抜刀の構えを取ると、刀を鋭く振り抜き、ギルドマスターに突進するように斬りかかった。
その速度は風を切り裂くほどで、一気に距離を詰める。だが、ギルドマスターもその瞬間を待ち構えていたかのように、カウンターの構えを取った。
「甘いな!」
ギルドマスターのサーベルが鋭く振り下ろされるが、その動きはすでにアカヤによって読まれていた。アカヤがギルドマスターの動作に呼応し、刀でサーベルを絡め取る。
「そのやり方はもう見切ってる!」
アカヤは淡々と刀でサーベルの軌道を逸らし、ウィルの斬撃がギルドマスターに打ち付けられる。雷刃が膜に直撃し、激しい金属音が戦場に響いた。
膜にはヒビが入り、その亀裂は修復が追いつかない速度で次第に広がっていく。
ギルドマスターの自信に満ちた表情が驚愕に変わった。
(ば、バカな!神の恩恵による修復が作用していないだと!?)
「ココ!」
ココは即座に小型爆弾を取り出し、手際よく極小のポータルを開く。転移先のポータルはヒビの入った膜の隙間に展開され、爆弾が膜の内部にテレポートされた。
ギルドマスターはその動きに気づき、距離を取って小型爆弾を取り出そうとするが、膜はすでに修復を始めており、ギルドマスターの体にぴったりと張り付いてしまった。
次の瞬間、膜の内側で爆発が起きる。
膜がエネルギーの流出を完全に防ぎ、内側に閉じ込められた爆発の力が逃げ場を失う。そのため、エネルギーは膜の内部で何度も反射を繰り返し、圧力が徐々に高まっていく。最終的に、その圧力がすべてギルドマスターの肉体に集中し、深刻なダメージを与えた。
「な…なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ!神に与えられし恩恵がパッシブスキルが…通じないなんて……」
ギルドマスターは苦しみながら叫ぶ。全身に無数の裂傷が走り、そこから血が滲み出ている。
「魔族を殺す者に慈悲はない。これは処刑だ」ウィルは冷静に言い放つ。
だが、ギルドマスターは怒りに燃え、正気を失ったように叫び出す。
「許さない……許さないぞ……お前ら!」
少しだけ残っていた理性が完全に消え去ったギルドマスターは、狂気に突き動かされるまま、まるで怨念に支配されたかのように、単調な攻撃を延々と繰り返しながら、ウィルたちに襲いかかった。
「アイ、新機能を使うぞ」
ウィルは静かに指示を出す。
『OK、準備完了よ』
アイがすぐに応答する。
「外部装甲展開」
ウィルが呟くと、背後に巨大な両腕が展開され、スライムワイヤーが1本の糸のように形を変えた。
「あやとり、蝶々」
ウィルが指示を出すと、スライムワイヤーが巧みに動き、あやとりの蝶々の形をかたどりながらギルドマスターを縛り上げた。
スライムワイヤーは通常の4倍の太さ、10倍の強度で、ギルドマスターを圧倒的な力で拘束する。
ギルドマスターはもがきながらサーベルでワイヤーを切断しようとするが、そこにアカヤが素早く反応し、サーベルをはたき落とす。
「お前は蜘蛛の糸に捕まった蝶だ。抗う術もなく死ね」
ウィルが雷刃で膜にヒビを入れ、続いてアカヤがヒビ割れた箇所から刀をギルドマスターの頭に突き刺した。その瞬間、ギルドマスターの動きがピタリと止まり、戦闘不能になったように見えた。
しかし、直後に黒いモヤがギルドマスターの周囲に広がり始める。膜は消え、彼の姿は恐ろしい化け物へと変貌を遂げていく。触手のような腕が生え、醜悪な形態に変わった。
「ココ、クラッシュテレポートだ!」
ウィルが冷静に指示を飛ばす。
「待ってました!」
ココは即座に「クラッシュテレポート」を起動する。
クラッシュテレポートは、相手を特定の場所に転送するだけでなく、地形や物体に強制的に衝突させることで、圧力による物理的ダメージを与える特殊なテレポート技術だ。座標計算、衝突のタイミング、力の分散具合がすべて自動化されており、ココは自身のリソースを使うことなく、デバイスを通じて安全に実行できる。
ギルドマスターは地面に転送され、圧力で肉体が潰れ、臓物が飛び出す。しかし、それでも彼は不気味な声を虚空に響かせ続けていた。
「なぜだ……なぜ神の恩恵が……」凄惨な姿となりながらも、ギルドマスターの怨念は消えない。
「しつこい奴だな……」
ウィルは刀を空中に投げた。
地面から飛び出た臓物は目を持たないが、まるで刀に視線を送っているかのように凝視している。
ウィルは即座に「ココ、アカヤ、後ろに飛べ!」と指示を出し、3人は素早く後退した。
その瞬間、空中に投げられた雷刃が、見えない誰かにキャッチされたかのように抜刀され、フルチャージされたエネルギーが解き放たれる。次の瞬間、斬撃の衝撃波が臓物ごと地面を抉り取り、ギルドマスターは完全に消滅した。
「うさみさん、ナイスアタック!」
ウィルが感謝と賞賛を込めて声をかける。
「うさみさん、すげ~な!」
ココも興奮気味に声を上げる。
「うさみさん、お疲れ様!」
アカヤも優しい笑みを浮かべて褒めたたえた。
うさみさんはその言葉に少し照れながらも、透明化を解除して「ありがとうございます」と丁寧にお辞儀をした。
「ココ、アカヤもナイスだったよ」とウィルは続ける。
「いやいや、ウィル1人でもやれたでしょ?」とアカヤが冗談めかして言うが、ウィルは笑いながら、「楽して勝てるのはいいことじゃないか。安全マージンも取れたし」と返事を返した。
ココは少し不満げに口を尖らせ、「あいつ、レベル100とか言ってたけど、あっけなく終わっちゃったよ」とぼやいた。
ウィルはココの頭を撫で、「そう感じるのはココが強くなった証拠だよ。テレポートのえげつない運用ができたんだから、敵のレベルなんて関係ないさ」と優しく言った。
ココは満足そうに微笑み、「ウィル兄、ありがと!」と照れくさそうに笑う。
アカヤが「このまま100番エリアまでみんなで掃討しよう!」と提案する。
「いいね」とウィルも応じ、4人は戦闘区域の掃討を続けた。
この日、ウィルは思いがけず歴史に名を刻むこととなった。戦闘区域では、全ての冒険者があっけなく撃退され、戦闘区域に平和が訪れた。
彼の意図とは裏腹に、魔族の救世主としてウィルの名は広まっていった。




